大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・260『ミカンの枝』

2024-12-03 13:23:13 | 小説4
・260

『ミカンの枝』 胡盛媛中尉 




「そうか……そういえば、日本語で考える方が楽かもしれない……」

 目覚めた森之宮殿下には「あなたは日本人なのですよ」ということだけを伝えた。

 乗っていた内火艇から救助され、目覚めた時は周囲が中国語を話していたので、殿下は自然に中国語で受け答えされたらしい。完ぺきな北京語だったので輸送船の乗員は漢明人に違いないと、北京語で応対した。

 衝突の衝撃で壊れてしまったハンベは日本製の高級品。漢明で日本製の高級品を使っているのは党幹部か政府の要人、あるいは財閥のトップクラス。そういう者たちはも普段は漢明製を使っているんだけど、ごくプライベートな時は日本製に付け替える。日本製は漢明の情報カメラやハンベには反応しないからね。

 むろん警察や情報部とかの官憲や幹部級の軍人は日本製でも読み取れるハンベを持っているけど、輸送船は民間の船なのでそういうハンベを装着している者はいないし、船にも、そういう装置は無い。

「林(リン)さんはどうして分かったんですか?」

 額面通りに庭仕事を始めた林さんに聞いてみる。

「戦前、閣下が軍人だったころにね、日本の皇族のお相手をしたことがあるんだ……その時の皇族の方の雰囲気に通じるものがあって、船のAIに調べさせたらドンピシャ。放っとくと他の乗員も気づいてしまうんで、すぐに大統領府に知らせたというわけさ」

 ウウ……林さんはなかなかの人物だ。軍や宙警察にではなく大統領府に連絡するなんて。

「軍や宙警に通報しても船の修理代は出ないしね。この航海で定年だからうっちゃっておいてもよかったんだけど、それじゃ、後任の者も会社も困っちまうから……それに、乗員の中には火星のマッパ病を気に掛ける奴もいたし、火星のマス漢は漢明の政府よりも信用がおけない……あ、このミカンは摘果しないと」

 パチン パチン

「あ、実が付いてますよ!」

 林さんは、立派な実の付いているミカンの枝を惜しげもなく切っていく。

「こっちに小さい実がついてるのがあるでしょ、こっちの方がもっと美味しい実がなるんだよ。そこに栄養を送ってやるために、この程度のは摘んじゃうだ。枝にだって水分も栄養もいっちゃうから、枝ごとバッサリとね……」

 パチン

「それ、もらってもいいですか?」

「いいよ、ジャムにでもする?」

「アハハ、そういうの苦手だから、殿下のお部屋に活けて差し上げようと思います」

「ああ、それはいい。柑橘系は気分をリラックスさせて脳神経にもいいというからね」

「はい、理屈は分かりませんけど、いい香りは、きっと体にもいいです」

「ハハ、お母さんのお仕込かな?」

「あ、わたしに母はいません」

「え?」

「父が孤児だったわたしを引き取って育ててくれたんです」

「あ、ごめん、余計なことを言ってしまったなあ」

「いいえ、では、頂いていきます」

「自分も後でお部屋に行くよ」

「はい」


 殿下にお見せすると、こんなやりとりになった。


「もう一つ思い出しました」

「え、何をですか(°꒳° ) ?」

「僕はミカンが大好きな日本人だったようです(^_^;)」

 
 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 栗 尊宅(りつそんたく)        輸送船の船長  大統領府参与
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!80『二人で病院に向かったぜ』

2024-12-03 08:55:19 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
80『二人で病院に向かったぜ』 





 ゼーーゼーーゼーー(:.;゚;Д;゚;.:)

 み、美優のガン細胞を1万個ほど壊したぜ……よ、予想よりも早い速度だぜぃ。で、でもよ、ガン細胞は眠っているとはいえ、数億個……数億個……間に合うかなあ(-_-;)。


 黒羽が美優の家に下宿することが決まると、飯を食って、二人で病院に向かったぜ。

「すまない、美優ちゃん……」

「え、なにが……?」

「こんな親不孝なオッサンのために、婚約者の真似事させて」

「またぁ……真似事なんかじゃないわ」

 グイ!

「キャ」

 後ろから強引に追い越しをかけてきた車をよけるため、黒羽Dはハンドルを左にきった。

「あっぶねええなあ……!」

 ハンドルをきった勢いで、美優の頭が、黒羽の肩にぶつかっちまった。

「ごめん、急にハンドルきって」

 美優はよぉ、黒羽の肩に寄り添ったまま体を動かさなかったぜ。

「……英二さんの温もりを感じる」

「……美優ちゃん」

「この温もりを自然に感じるぐらいでなきゃ、本物の婚約者には見えないわよ」

「そ、そうだな……」

 黒羽は、自分でも意外な自然さで美優の肩を抱いたぜ……。


「親父、婚約者なんだけど……」

「ハハ、やっぱりハッタリ……そんなもん、いやしないだろう」

「兄さん……(;'∀')」

 妹の由美子が困ったような顔をした。

「それが、その……」

「いいよ、ハナから期待なんかしてねえから」

「……廊下に待たせてある。いいかい入れても?」

「……英二」

「入ってもらっていいかい?」

「もちろんよ!」

 由美子がドアを開けると……真っ正面に美優が立っていた。


「「わ……!」」


 あまりの近さに、由美子と美優は同時に驚きやがった(^_^;)。

「し、失礼します……」

「あ、あんたが……」

「吉永美優と申します。英二さんと結婚します……よろしくお願いします!」

 美優の緊張した挨拶に、親父と妹はクスクスと笑ったぜ。

「あ、ごめんなさい。わたし妹の由美子です。美優さんこそ、いいんですか、こんなオッサンで?」

「そうだよ、歳が離れすぎとる。それに英二には……可愛すぎる」

「わたしバカだから、若く見られますけど、英二さんとは十歳しか離れてないんです」

「あ……十一歳。オレ、先月誕生日だったから」


 それから、四人の楽しい語らいになったぜ。


 由美子は年下の義姉ができることを面白がり、その語らいの間は親父の死が間近であることも、自分自身、最近こうむった心の痛手も忘れやがった。

 英二は、親父にせがまれるまま二人の成り染めを話しやがる。ただ婚約した時期は二か月ほどサバを読んでやがるけどな。

「え、じゃあ、美優さんの方から、その……プロポーズしたの!?」

「口ではね。態度では、英二さんの方が先でした」

「そりゃ、そうだろう。こんな可愛くて、歳が離れてるんだもんな」

「親父も、母さんとは八つも開いていたじゃないか」

「確かにな。しかし母さんは、こんなに可愛くはなかったからな」

「え、じゃあ、こういう偏屈オヤジと可愛くない母さんの間に生まれたわたしは、可愛くないってこと?」

「いや、由美子は可愛いぞ。由美子を製造したときは、俺、キャンディーズの蘭ちゃん思いながらだったもんなあ。由美子が生まれる前の晩なんか水谷豊の写真付けたわら人形に五寸釘打ち込んでたからなあ、アハハ!」

 黒羽の親父も、死が間近に迫った病人とは思えねえぐらいの陽気さでやがる。
 
「さあ、これで親父も納得しただろう」

「うん。したした」

「そろそろ帰る。明日も早いから。じゃ、美優ちゃん……」

「はい」

「なんだ、もう帰んのか……」

「また、明日も来ますから……ん?」
 
 黒羽の父が、美優のスカートの端をつかんでいた。


「ちょっと、美優ちゃんと二人にしてくれんか」

「親父……」

「いや、黒羽家の嫁として話しておきたいことがあるんでなあ」

 仕方なく、由美子と黒羽は廊下に出たぞ。


「美優ちゃん……すまんなあ。婚約者のフリをしてくれて」

「お義父さん……」

「本物かどうかは、この歳になりゃ分かるよ。俺の命が長くないから……引き受けてくれたんだろう」

「ち、違います! わたし、本当に英二さんのこと愛しているんです(>◇<)!」

「……だとしたら、それは錯覚だよ。婚約者の役を引き受けたのは、俺の命が長くない……そう聞いてからだろう。二人を見ていれば分かるよ……二人は、まだ清いままだ」

「え、あ、わたしたち……(''◇'')」


 そこまで言って言葉につまる美優だったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 美優       ローザンヌの娘
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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