大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・081『波音にハイジとシミジミ』

2024-12-01 16:18:17 | カントリーロード
くもやかし物語 2
081『波音にハイジとシミジミ』 




 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~


 キャミが乾いて、パンツもゴムのところが少し湿ってる程度に回復……手を伸ばしたら乾かしていた服も十分に乾いてる。そろそろ動き出さなきゃと思って……でも、体が動かない。

 べつに呪いや魔法をかけられたわけじゃない。

 ここで、もう一度服を着て前進しても、前進した先は果てしない大海原で、すぐにびしょ濡れ。

 考えたら……考えなくても意味のないことをしていた。

 天の川を渡る時もいろいろあったけど、なんといっても向こう岸が見えていたから考えることもできたけど、こうも果てしない海を見ていては考えるどころか気持ちが萎えて、膝を抱えたまま本格的に寝てしまいそうだよ。

「まあ、いいじゃねえか、考えが浮かぶまでこうしているしかねえ」

「まあ、そうだけどね」

 ハイジは意外に落ち着いてる。大慌てでこっちにやって来て、勢い余って、ずっと向こうの海に落ちて来て魚雷みたいに泳いできたのが嘘みたい。

「スイス人は辛抱強いんだ」

「あ、うん……」

「いくらあせっても、羊の毛が早く生えるわけじゃねえし、牛がたくさん乳を出すわけでもねえからな」

「あ、そうだね」

 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~

「無理をしたらろくなことにはならねえ」

「う、うん」

「オンジが若いころに傭兵に行ったことがあるんだ」

「ヨーヘイ?」

「雇われの兵隊だ。命の保証はねえけど、給料がいいからな。時どき行ってたんだ」

「そうなんだ……」

「何回かいって給料も上がって、はりきって突撃してよ、敵をバンバンやっつけて、先へ先へ進んでると、仲間とはぐれてよ。それでも戦争慣れしてっから、敵がいるところの見当がついてバンバンやっつけてると、向こうからも走りながら撃ってくる奴がいてよ。銃を構えた者同士出くわしたら、その敵は同じ村の友だちだった」

「ええ!?」

「傭兵募集はいろんな国でやってからな、たまにそういうことがあるみてえだ」

「ええ……」

「だから、いまのスイスは憲法で傭兵に出ること禁止してんだ。2002年までは国連にも加盟してなかったしな」

「そうなんだ」

 孫のハイジが生きてここにいるということは、その時生き延びたということで、その友だちは……聞いちゃいけないことなんだろうな。

 ハイジは違う言い方をした。

「どうしていいか分からない時は、じっとしていろってオンジは言うんだ。やみくもに進んだら……そういうことになっちまうからよ」

 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~ 

 ハイジが話し終わって、また打ち寄せる波の音だけが際立ってきた。

 いつも子どもみたいに突拍子もないことを言ったりやったりするハイジが、シミジミ身の上話をするのは、この広々と果てしもない海と単調な波の音、そして、焚火の火でホコホコ温もったせいかもしれない。

 ウフフフ……アハハハ……

「「え?」」

 波音に混じる笑い声に、ハイジと同時に驚いた!

「この笑い声……」

「知ってんのか?」

「うん、魔王女のトバリと魔王子のトバルだ!」

 フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……

「くそ、癇に障る笑い方だぜ!」

 笑い声は、海の向こうから聞こえてくるような気がしたけど、さっきのハイジの言葉を思い出してジッとしてみる。

「やくも……これは、浜の向こうの方だ!」

「うん、わたしも、そう思う!」

 そう、笑い声は海の向こうじゃなくて、浜に沿った遠い方から聞こえてくる!

「海はフェイントのフェイクだぞ!」

「うん、追いかけよう!」

 ハイジと二人、左側の浜辺を走ったよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!78『父の部屋』

2024-12-01 08:54:35 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
78『父の部屋』 




 おまえはコメンテーターか!? アバター貸してノウノウトしてんじゃねえ! グチとか評論ばっかでwwwwwwww 口ばっか! 偽善の小悪魔! こんなんじゃまた落ちるぞ艸! ヤーイ落第生! 小悪魔の面汚し! こっち向くな! ちゃんとやれ! wwwwwwwww!

 久々に小悪魔スマホを開いたら、アホな小悪魔やら地獄の役立たずどもから、いっぱいコメントが入ってやがる! 

 ぜんぶ削除!

 マユは拓美にアバター貸して、美優の中に入ってっけど、ノウノウとしてるわけじゃねえぞヽ(`Д´)ノ。

 タカの知れた小悪魔の力だけどよ、マユは美優の体の中で必死にガン細胞と戦ってんだぞ!

 最初はよ、一週間だけ美優の体を元気にしてやって、ちっとは楽しかったって、指の先ほど思わせられたらって気持ちだったぜ。

 でもよ、自分の事やんのにも十分な時間がねえってのに、道端で酔いつぶれてる黒羽Dを助けやがった。そんで、自分の中で眠ってた黒羽Dへの想いに火が点けちまいやがった。やることなすこと天使みてえに飛躍してやがって、こいつバカじゃねえかって思うけどよ。

 なんかいじらしい。

 今日も美優は半日、モニター越しに黒羽の仕事ぶりを楽しそうに見てやがる。楽しいくせに涙流しながらな。あと一週間もねえ命なのによ……このまま逝っちまったら、鬼になるんじゃねえか? 下手すりゃ、サンチャゴみてえに、じっと座って目の前のハエも追えねえ廃人とかな。

 そんなのは小悪魔としても耐えられねえ。

 マユにできることは、美優の体の中でガン細胞を眠らせ、衰えた美優の体にエネルギーを与えることだけだ。そして、それは、あと6日と4時間で切れちまう。

 マユは、美優のガン細胞を壊しにかかった。ただ小悪魔の力じゃ、一日に1000個ほどのガン細胞を殺すことしかできねえ。ガン細胞は少なく見積もっても数億個ありやがる。人は37兆2000万個の細胞でできてやがる。一日に1000個の破壊じゃ焼け石に水なんだけどよ。


「ねえ、お母さん。今夜からうちに黒羽さん下宿させてあげちゃいけないかしら」


 美優は、AKRの事務所から帰ってきて、マダムの手が空くのを待って切り出しやがった。

「下宿……?」

「そう。お父さんの部屋……ダメ?」

 マダムは数秒目を丸くして、考え、そして結論を出しやがった。

「いいわよ。わたしたちも、お父さんのこと、そろそろ整理しなくっちゃいけない時期かもしれないしね」

 親父は美優が小学校の時にガンで亡くなってやがる。会社の定期検診でひっかって、入院し、亡くなるまでは半年しかなかった。親父は商社の営業マンで、しょっちゅう海外に出張してやがった。だから親父との思い出は、母子ともども並の家庭の1/10ほどしかねえ。それで思い出を大切にするために、親父の部屋は生前のままにしてあるんだぜ。

「こんなことに未練もってたから……」

 亭主の部屋のドアを開けながら、マダムがつぶやいた。

「なに……?」

「ううん、なんでも……」

 親父は、あまり片づけ上手じゃねえ。だから、親父が最後に部屋を使った散らかしようを維持しながら掃除をするのは大変だった。でも美優は、そのぶん部屋の中にあるものは、全て把握していた……つもりでいやがった。


 それは、机の上のドロシー・ゲイルの胸像を持ち上げた時に気がついた。


 マユが、ちょっとビックリしたことが美優に影響したのかもしれねえ。そのドロシー・ゲイルの胸像は、マユがフェアリーテールの世界で別れてきたドロシーにそっくりだったぜ。

「お母さん、このドロシーの台座の底……」

「なに……?」

「この数字……」

「ああ、シリアルナンバーよ」

 母は、146/200を見て興味を失った。

「ちがうよ、このOZのOの中の数字よ」

 そこには、ロゴやシリアルと同じ金色で19851010と書いてあった。

「……これ、お父さんと結婚した日付だわ……どうして、こんなところに」

「なにかの暗証番号……じゃない?」

「カードの暗証番号にしては、長い……」


 マユは、美優の記憶をちょっと刺激してやったぞ。


「あ、ひょっとして……」

 美優は、親父が使っていたパソコンのスイッチを入れた。

「これよ、きっと……」
 
 デスクトップのファイルに暗証番号を入れなければ開けないものが一つだけあった。それが、まさに8桁だったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 美優       ローザンヌの娘
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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