RE・友子パラドクス
念のためにバリアを張って広場に向かう。ポチとハナには「離れるんじゃないよ」と念を押し、二人で一つのバリアに包まれている。
奥の岩の広場では、大勢のT町の住人が亡くなっていた。遺体のそばにはいろんな杯が転がっている。
そうだ……ここは聖杯の広間なんだ。
――聖遺物……によって神はその御業を示され……光が満ちるであろう――
聖骸布の切れはしからは聖遺物の言葉が読み取れたが、それが何を指すのかまでは読み取れなかった。だいたい、聖骸布そのものも聖遺物――光が満ちる――も比喩に過ぎて何を指すのかは分からなかった。
千に余る聖杯が並んでいたのだろう。その中に本物はただ一つ。他の聖杯はフェイクで、それに満たされた水を飲んだものは……ことごとく血反吐を吐いて死んでいたのだ。
「お、お前達は天使か……二千年にわたり、世の人々を苦しみの底に追いやった、禍々しき神の僕(しもべ)どもか!」
――天使?――
――バリアでそう見えるんだろう――
――混乱しているのね――
――このままでいこう――
聖ガブリエル 聖ヨハネ 聖ラファエル
司教は、その知識と恐怖心から勝手に思い込んでいる。よく見ればラファエルは上半身と下半身にズレがあるのだが(ポチの背中にハナが乗っている)思い込んだ司教には分からないようだ。
司教の傍らには、まだ十数人の人間が残っていた。
一人は、あのモーテルのオヤジ。他は町の最後の生き残りの人たち。マインドコントロールされているのだろう、みんな目には生気が無かった。そしてその手には、それぞれ聖杯が……。
そして、二人と司教の間には車椅子に乗った少女と、その母親がいた。この三人は聖杯を手にしてはいなかった。
「みなさん、その聖杯は、捨てなさい。いずれもニセモノです」
ミカエルが言うと、町の人たちは動きを止めた。しかし目の光は、まだ戻ってこない。
「司教、その子が、あなたの娘ですね。そして横の女性が、あなたの妻だ」
「違う! この子は神の子だ。この女は、その神の子の母。新しきマリアだ。この神の子は病んでいる。放っておくと、あと一月と肉体はもたない。この子は、この現世で肉体を成長させ、永遠の若さと命を授かり、本当の神の御教えを、人々に伝えなければならない。その為には真の聖杯に満たされた聖水を飲まねばならない」
「そのために、町の人たちに試させたのですね……」
「聖骸布の全てが手に入っていれば、こんな手間はいらなかった。手に入らなかった聖骸布を取り戻すのには時間がない。そこで、こんなに大勢の信者が犠牲にならなければならなかった」
「司教、あなたは聖職の身でありながら子をもうけた。それを罪と感じ、その子を神の子と思いこんでしまった」
「違う。この御子こそが神の子なのだ。わたしは神の子が生まれる手助けをしたに過ぎない。この神の子を護持する僕(しもべ)にすぎない」
「ならば、残った人々と共に盃をあおるがいい、神の恩寵があれば、その願い聞き遂げられ、御子一人だけが無事であろう。さあ、司教、迷うことはない、どうぞ飲みなさい」
「グヌヌ……」
「ならば、このヨハネが音頭をとってやろう」
ヨハネの友子も調子に乗ってきた。
「ガブリエルもラファエルもいっしょに……」
「「「ワン……ツー……スリー……」」」
「ええい! 聖水は後だ、みな、あの天使どもを贄にせよ!」
司教が目を血走らせて叫ぶ!
住人たちは盃を台に戻し、光に包まれたかと思うと一斉にクリーチャーに変身し、死んだ住人たちは血反吐を垂らしたままアンデッドとして蘇った!
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士