大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・86『追い詰める』

2023-11-22 09:10:43 | 小説7

RE・友子パラドクス

86『追い詰める』 

 

 

 念のためにバリアを張って広場に向かう。ポチとハナには「離れるんじゃないよ」と念を押し、二人で一つのバリアに包まれている。

 奥の岩の広場では、大勢のT町の住人が亡くなっていた。遺体のそばにはいろんな杯が転がっている。

 そうだ……ここは聖杯の広間なんだ。

――聖遺物……によって神はその御業を示され……光が満ちるであろう――

 聖骸布の切れはしからは聖遺物の言葉が読み取れたが、それが何を指すのかまでは読み取れなかった。だいたい、聖骸布そのものも聖遺物――光が満ちる――も比喩に過ぎて何を指すのかは分からなかった。

 千に余る聖杯が並んでいたのだろう。その中に本物はただ一つ。他の聖杯はフェイクで、それに満たされた水を飲んだものは……ことごとく血反吐を吐いて死んでいたのだ。

「お、お前達は天使か……二千年にわたり、世の人々を苦しみの底に追いやった、禍々しき神の僕(しもべ)どもか!」

――天使?――

――バリアでそう見えるんだろう――

――混乱しているのね――

――このままでいこう――

 聖ガブリエル  聖ヨハネ  聖ラファエル

 司教は、その知識と恐怖心から勝手に思い込んでいる。よく見ればラファエルは上半身と下半身にズレがあるのだが(ポチの背中にハナが乗っている)思い込んだ司教には分からないようだ。

 司教の傍らには、まだ十数人の人間が残っていた。

 一人は、あのモーテルのオヤジ。他は町の最後の生き残りの人たち。マインドコントロールされているのだろう、みんな目には生気が無かった。そしてその手には、それぞれ聖杯が……。

 そして、二人と司教の間には車椅子に乗った少女と、その母親がいた。この三人は聖杯を手にしてはいなかった。

「みなさん、その聖杯は、捨てなさい。いずれもニセモノです」

 ミカエルが言うと、町の人たちは動きを止めた。しかし目の光は、まだ戻ってこない。

「司教、その子が、あなたの娘ですね。そして横の女性が、あなたの妻だ」

「違う! この子は神の子だ。この女は、その神の子の母。新しきマリアだ。この神の子は病んでいる。放っておくと、あと一月と肉体はもたない。この子は、この現世で肉体を成長させ、永遠の若さと命を授かり、本当の神の御教えを、人々に伝えなければならない。その為には真の聖杯に満たされた聖水を飲まねばならない」

「そのために、町の人たちに試させたのですね……」

「聖骸布の全てが手に入っていれば、こんな手間はいらなかった。手に入らなかった聖骸布を取り戻すのには時間がない。そこで、こんなに大勢の信者が犠牲にならなければならなかった」

「司教、あなたは聖職の身でありながら子をもうけた。それを罪と感じ、その子を神の子と思いこんでしまった」

「違う。この御子こそが神の子なのだ。わたしは神の子が生まれる手助けをしたに過ぎない。この神の子を護持する僕(しもべ)にすぎない」

「ならば、残った人々と共に盃をあおるがいい、神の恩寵があれば、その願い聞き遂げられ、御子一人だけが無事であろう。さあ、司教、迷うことはない、どうぞ飲みなさい」

「グヌヌ……」

「ならば、このヨハネが音頭をとってやろう」

 ヨハネの友子も調子に乗ってきた。

「ガブリエルもラファエルもいっしょに……」

「「「ワン……ツー……スリー……」」」

 

「ええい! 聖水は後だ、みな、あの天使どもを贄にせよ!」

 

 司教が目を血走らせて叫ぶ!

 住人たちは盃を台に戻し、光に包まれたかと思うと一斉にクリーチャーに変身し、死んだ住人たちは血反吐を垂らしたままアンデッドとして蘇った!

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 


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