鳴かぬなら 信長転生記
96窟は外側に楼閣の設えがあって、莫高窟(ばっこうくつ)の表玄関のようになっている。
おお……!
大きなもの見事なものには素直に感嘆の声が出る。
俺自身、大きなもの見事なものをプロディユースして人を喜ばせたり驚かせることは好きだった。
安土城を作った時は、完成記念に大見学会をやった。
俺自身大手門の門前に立って入場料を徴収してやった。
入場料は百文。
そんなに安い料金ではないが、百姓どもも喜んで料金を払って見学に押し寄せたぞ。
「御城を見世物になさるのですか!?」
光秀は目を丸くして反対しおったがな。
もし、臨時に百文の税をとると言ったら、みんな嫌な顔をする。無理な徴収は反発も招く。
だが『安土城完成記念見学会』ということにしてやると、進んで百文握って門前に並ぶ。そして、ヘーとかホーとか感嘆の声を上げて喜んでおる。中には何度も列に並び直して安土城ファンになる者もおって、茶屋や宿も賑わい、城下には物売りたちも出てお祭り騒ぎになった、みなが喜び、ほどよく儲かって面白かった。
大手門の内側で賑わっていると思ったら、サルの奴めはサイン入りの瓢箪を握手しながら売っておった。
「あいつは小便の後に手も洗わん奴だぞ!」
悔しいから大声でバラシてやったら、女子供がキャーキャー言いおって、かえってサルの売り上げが増えたのはシャクだったがな。俺は、次に大坂に城を作ったら年パスとか発行して、影武者とかも使って握手会をやろうと思ったぞ。光秀のお蔭で狸の皮算用になってしまったがな。
おお……!
中に入って、また驚いた。
奈良の大仏よりも大きく華麗な超大仏が俺を見下ろしている。
おお! うわあ! ええ! すごい! かっこいい! きれい! ギョエ! ホエ~!
感嘆の声があちこちであがっている。
高さは33・5メートルというから、奈良の大仏の倍ほどか「フン、こんなものやわらかい岩を彫っただけじゃん、奈良とか鎌倉のはブロンズだよ」と、市の声が聞こえてきそう……な?
「なんで出てきたんだ、宿で大人しくしてろって言っただろ、仮装も解いてしまいおって!?」
「だって、宿に着くまでも着いてからでもなにも起こらないし、退屈だし、街は賑やかだし、茶姫と交代で出ることにしたの」
「しかし、その姿は……」
「イケてるっしょ(^▽^)/」
猪八戒の姿に飽きたのは分かるが、いまの市の姿はペルシャ辺りからやってきた胡旋舞の踊り子のようだ。
「仮にも、俺は三蔵法師の成りをしてるんだ、そんな姿で寄ってくんな」
「だって、他にもいるよ。坊主のナリして酒飲んだり女連れみたいなのも」
「ん……?」
仏画や彫刻に気を取られて気づかなかったが、たしかに怪しげな……中には尼僧がイケメンの優男を連れているのも居る。
「比叡山を焼き討ちした時も、女人禁制のはずが、けっこう遊女みたいなのもいたって言うじゃん」
「ああ、みんなぶった切ってやったがな」
「そういうことするから、天魔だとかサタンだとか言われるんじゃん」
「うっせー、とにかく10メートルは離れてろ、せいぜい、三蔵法師の追っかけ的なポジションにしてろ」
「ま、いいや。語尾にブヒブヒ付けなくていいだけでもラクチンだからね」
そう言うと、しおらしく跪き、ズタブクロにおひねりを入れて合掌。
なんとか、西域の踊り子が旅の高僧に喜捨しているの図になる。
市が隣の石窟に行くのを待って調べてみる。
え?
いったいいくら包んだのかとズタブクロの中を見ると指輪の形になった一言主(ひとことぬし)。
そうか、三蔵法師の姿になった時に三蔵が変身した悟空の頭に引っ越していたんだ。
人にコスプレさせるしか能のない一言主だが、居ないよりはマシ。
旅の高僧らしく、うやうやしく大仏に合掌すると、もう一つの大仏の石窟に向かったぞ。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主