RE・かの世界この世界
ムヘンブルグの西端、シュタインドルフのヴァイゼンハオスを目指している。
シリンダー融合体との闘いが苛烈だったせいか、単調なムヘン川の景色のためか、武骨な二号戦車のエンジンの振動さえも心地よく、つい居眠りしてしまいそうになる。
「よく、こんな体勢で寝られるなあ」
知恵の輪のように絡み合って寝ているヒルデとケイトに感心したのは、寝てはいけないと思う自分への戒めであるのかもしれない。
敵の襲撃に備えて、狭い車内に居るようにしているのだ。
「この緩い峠を越すとシュタインドルフです。車外に出ても大丈夫でしょう」
「どんなところなんだろう、シュタインドルフというのは?」
「厳つく聞こえますが、日本語に訳せばシュタインが石、ドルフが村ですから、石村です」
「石村……」
拍子抜けがする。
「村全体がオーディンシュタインという岩盤の上にあるんです」
「主神オーディーンの名を冠した石?」
「はい、絶大な魔よけの効果があります。この石の上に居れば安全なので、一時は州都を持ってこようと言う話もあったのですが、さすがに城塞を築けるほどの広さもありませんし、西に偏り過ぎていることもあって、トール元帥はムヘンブルグに決めました。かわりに小さな村が拓かれて、シュタインドルフと名付けられたのです」
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
う!
軽い耳鳴りがして、耳が詰まったような感じになった。
「峠を越えました。外に出ても大丈夫ですよ」
最初に飛び出したのはヒルデだ、今の耳鳴りで目が覚めたのだろう。
「ふわああああああ(´Д`)…………え……ちょ、みんなも出てみろ……」
車外に出て猫のようにノビをしたヒルデが沈んだ声で呼んだ。
「どうかしたんですか……」
続いて出たタングリスが息をのんだ。
「これは……」
驚いた。
一キロほど先に見えてきたシュタインドルフは、ヴァイゼンハオスらしき建物を残して廃墟になっているではないか!?
魔物の襲撃が無いとは言え、辺境の自然は苛烈なのだろう、十数軒の家屋は、いずれも棟が落ちたり壁が崩れたりの無残な姿だ。
「孤児院は生きています、ポールに聖旗が翻っています」
目を凝らすと、ムヘンブルグの城頭にも掲げられていたオーディーン旗が翻っている。聖旗とも呼ばれるそれは定時の掲揚と降納が決められているという話だ。
「給水塔とポンプ小屋が壊れている……ちょっと川に寄ります」
「それがいいようだな」
タングリスの提案は直ぐに理解できた。給水塔とポンプ小屋が壊れているということは、水の補給がままならないということだ。
川から水を汲んで持って行ってやるのは妥当な土産だと思う。
二号戦車はグリの意をくんで川辺に進路をとった。
ブン! ブン! ブン! ベチャ!
何かが四つ飛んできて、反射的に避けたが、ドジなケイトがまともに顔で受けてしまった。
「と、取って~! 気持ち悪~い(;'∀')!」
アハハハハハ
狭い二号の車内から解放されたからだろう、いささか荒れた光景にもかかわらず、みんな、ケイトの小さな不幸を笑うことができた。
「じっとしてろ、いま取ってやるから」
それは、よく肥えたカエルであった。
ヌチョっと音を立てて取ってやると、また、ひとしきりの笑い声。
ムヘンの旅も、最初のインターバルにさしかかったかと思った。
☆ ステータス
HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
グリ(タングリス) トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長