真凡プレジデント・44
盗難届が受理されたので、スタバなどから防犯ビデオが警察に提供された。
毎朝テレビの記者がUSBを抜き取るところだけ確認できればいいと思っていたが、毛利刑事は近隣の防犯カメラも確認して、記者がタクシーに乗り込むところまでの証拠を確保した。
タクシーは直ぐに割り出され、運行記録と運転手の証言で毎朝テレビまで客を乗せたことも裏がとれた。
そして、その記者がもどってから十二分後に毎朝テレビの放送電波が停まってしまったことも判明した。
「でもなあ、肝心のところが写ってない……」
毛利刑事は、ジュースのストローの袋を丸めたのに水を垂らしながら呟いた。ストローの袋は断末魔の蛇のようにクネクネと身をよじる。子どもがやりそうな遊びだが、喫茶店でさえタバコが喫えなくなってきたので、苦肉の策で編み出した禁煙対策であるらしい。
「キミがトイレに立った後、キミが居た席の前を二人の客が通過して……通過し終わった時にはUSBが消えている。スローで再生すると、毎朝テレビの記者がわずかに身じろぎしているんだが、盗った瞬間は確認できない。向かいの店のも通行人と被ってしまって、瞬間を捉えられてはいない」
「記者には聴取されたんですか?」
「任意でな。むろん盗ったとは言わないけどな」
あのUSBにはウィルスが仕込まれているが、毎朝テレビが欲しがっていた不都合な映像もちゃんと入っている。
時間的に言えば、USBを局のPCに繋いだのが電波停止と重なることが分かるんだけど、同時刻にいろんなPCのキーが叩かれ、ダウンロードやインストールが行われ、いろんなところから信号や情報が送られてくる。どれが感染の原因かは突き止めにくいし、そんなドジなことで放送局にとって命と言っていい放送電波が停止したとは思いたくないだろう。
「並の盗難事件なら、これ以上は追いかけられない。総務省からの指示もあって継続するけど、まあ、あまり期待はしないでくれ」
それだけ言うと、毛利刑事は伝票をつかんでレジに向かった。
これで十分だ。
警察も努力した。放送局も盗んだことを認めるわけにはいかない。あのUSBを解析しただけでは、それが原因だとは断ぜられない。
そして、俺はUSBを盗られた被害者の立場が確定した。
次の展開は予想よりも早くやって来た。
毎朝テレビはSNSを通して番組を配信し始めたのだ。
いつまでも電波が停まったままであると、スポンサーが黙っていない。
これも織り込み済みの話で、本当の勝負はこれからなのだ。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 園田 その子 真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生