魔法少女マヂカ・173
というわけで、大塚から山手線に乗って原宿駅に向かった。
代々木を過ぎると右手に見えるのは明治神宮の森。
九月とは言え日中はまだまだ夏の暑さ。車内は冷房が効いているけど、大塚から乗った体の芯は火照っているので、神宮の森の視覚的冷涼感は格別だ。
「あれ、駅が変わってる!?」
「おまえは話聞いてねえだろ」
ブリンダに叱られて、ノンコはクエスチョンマークを人格化したような顔になる。
「この春から新駅になって、古いのは取り壊しが始まるから観に行こうってことになったんだろーが」
「あ、そうだっけ。キャハハ、ノンコ宿題やるので頭まわんなかったから(;^_^A」
「よく言うよ、急きょ原宿に行くってなって、みんなで手伝った」
「ほんの三十分前なのに忘れるう!?」
友里も晴美も容赦ない。
「ほら、あっちが旧駅舎だよ」
サムが指差したのは新駅の三十メートルほど代々木側で、工事用のパネルで囲われてしまって、先っぽの塔しか見えない。
「ちょっと残念」
「あんな塔があったけ?」
「原宿駅って山小屋風だと思ってた」
パネルは駅舎の屋根まで隠して、銅葺き屋根の尖塔だけが覗いている。山小屋風のイメージが強いせいか、建物の大きさの割に小さいせいか、ふだん意識する者は少ないのかもしれない。
「ロッジの上に尖塔……ちょっと合わないような気がするぞ」
「そうかしら、ちょっと異世界の入り口めいていて素敵よ」
アメリカ人と異世界人は意見が合わない。
「原宿空中戦(48話)以来だな」
水を向けるとブリンダは小鼻にしわを寄せてくすぐったそうな顔になる。
あれは安倍ちゃんが隊長になったころで、まだ北斗の運用が今ほどではなく、大塚台公園のライオンのオブジェに跨って戦っていた。東郷神社の池から現れたイズムルードを追いかけて、あれがバルチック魔法少女隊相手の戦いの端緒であった。
「昨日の事のようだな」
言葉にせずとも同じ思いだったのか、ブリンダが応じる。思えば、まだ決着の付いていない戦いではある。
「尖塔だけ見えてもじゃつまんないよ」
原宿空中戦に参加していないノンコたちは工事用の囲いを眺めても面白いはずもない。
「三人いれば、なんとかなるかなあ」
「何を考えている、マヂカ?」
「映像だけなら、時間を巻き戻して見れるだろうと思って」
「ああ、やってみるか」
「サムも手伝って」
「うん、いいわよ」
魔法少女三人で手を繋いで、それぞれの間に半魔法少女の友里・清美・ノンコの三人を入れる。
「え、なにすんの?」
「早くして、ちょっと恥ずかしいから」
「じゃ、行くよ。ゆっくりと反時計回りに回って」
「六回周ったら、つないだまま手を空に上げて」
掛け声をかけると、道行く人たちが怪訝な顔をする。まるで鬼が抜きの『かごめかごめ』だ。「なに、UFO呼んでるとか?」「新興宗教?」「ストリートパフォーマンス?」「見ない方がいい」道行く人たちに薄気味わるがれる。
六回周って「えい!」の掛け声とともに繋いだ六組の手が挙げられる。
周囲の人たちにはCGのように六人の女子高生が、少し浮遊したかと思うと虚空に掻き消えたように見えた。