魔法少女マヂカ・210
「西郷さん、その姿は!?」
「ワハハ、被災者ん者らが安否確認やら尋ね人ん張り紙をすっんで、こんありさまじゃ」
まるで色を塗る前の張り子のだるまのようになっているが、どこか楽しそうで、思わずつられて笑ってしまう。
「フフ、なんか楽しそうですね」
「ああ、いつもはボサっと突っ立ていっしか能んなかおいじゃが、こうやって尋ね人ん手助けになれれば、ちょっと嬉しか」
楽しそうに腹をゆすって笑う西郷さん。
こんな大災害の後でも気負うこともなく、ワハハと笑える西郷さん。リアルに見えたら被災者の人たちの心も和むんだろうが、この姿は魔法少女のわたしらにしか見えていない。
「最初は、こげん西郷でも遠慮して張り紙すっ者もおらんかったが、父親とはぐれた子供が居って、そいを憐れに思うた学生が紙に書いちょいん腹に貼りよってな。おいもツンを遣わして探したりしてやって、無事に再会すっこっがでけた。
すっと、我も我もと真似をすっ者が増えて、こんありさまじゃ。今じゃ、広瀬中佐も楠木正成も掲示板になっとっらしか」
「これはいい、アメリカだったら、コロンブスやリンカーンの銅像が掲示板になるようなものだな」
「じゃっどん、ちょっと困った張り紙があってな。魔法少女に頼みたか」
「なんでしょう、わたし達で間に合うことなら力になります」
「すまんな……これなんじゃ」
一枚の張り紙がスポットライトを浴びたように明らかになった。
――羅行五段の者仏蘭西波止場にて待つ 聖ヨセフ――
16文字の簡単なメッセージが聖ヨセフの名と共に書かれている。
「これは……?」
「難しい日本語だ、訳してくれないか」
「うん、でも何だろう、仏蘭西波止場はフランス波止場ね。羅行五段……聖ヨセフ。簡単だけど意味深だ……」
「聖ヨセフ……イタリアの聖人だと思う。たしか飛行機乗りの守護聖人……フランス波止場というのは?」
「横浜の波止場だ、震災後は瓦礫の捨て場になって、埋め立てた後は山下公園と呼ばれるようになる」
「波止場に飛行機……羅行五段というのは?」
「羅行……ラ行……そうか、ラリルレロの五段『ロ』のことか?」
「ロだと?」
「ロというとロシアの事か?」
「聖ヨセフ……待て、飛行機意外に日付であるかもしれない。キリスト教には聖人の日というのがあるんだ。聖ヨセフは……たしか9月18日」
「明日のことじゃないか」
「明日、フランス波止場でロシア関係で集まりがあるんじゃないか?」
「うん、おいも、悪か予感がすっ。すまんが、ひとっ走り見に行ってくれんじゃろうか、おいは動っわけにはいかんでな」
張り紙の掲示板になっていては、軽々と動くわけにもいかないだろう。
「分かりました。明日の朝、一番で行ってみることにします」
横浜は、ちょっと遠い。人間の霧子と準魔法少女のノンコは置いて行かざるを得ないだろう。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手