パペッティア
陸軍特務旅団のベースは首都の南にある。
ベースは二十年前のヨミのファーストアクトで出来た巨大なクレーターの中に潜むように存在している。
クレーターの直径は差し渡し三キロほどもあり、所狭しと対空兵器が並んでいる。
中央にはベースのコアに通じる入り口があり、入り口はカメラの絞りのような構造になっていて、出入りするものの大きさに合わせて変化する。
直径二十メートルほどに開かれた入り口を、夏子たちを乗せたオスプレイが巣に着地する猛禽類のように下りていく。
バラバラバラバラバラバラバラバラ!
絞りの上十メートルぐらいに差しかかると、とたんに爆音が大きくなる。元祖のオスプレイよりもプロペラの効率がいいんだろう、巻き起こした風圧は、あまり横には逃げず真下に圧を掛けている。絞りの周囲の排気ダクトからはオスプレイの爆風がいなされて直上に噴き上がっている。演出というわけじゃないんだろうけど、勇壮な雰囲気がいい。
発着デッキまでは少しある。
空港の手荷物検査を縦にしたみたいなところを通過して緑に光る。隔壁通過を知らせるシグナルだろう、それが三つ光って発着デッキ。
ガクン ガチャン
着地すると同時にギアがロックされ、前方にキャリーされる。キャリーされる間にプロペラは急速に回転速度を落とし、ハンガーが口を開けるころには風車ぐらいに落ち着いて停止。
ブーーーー
油圧シリンダーが唸ってハッチが開く。ベテランの添乗員みたいに開き切っていないハッチを飛び出るみなみ大尉。
デッキボスの端末にチェックを入れ、ボスがOKサイン、それを受けてみなみ大尉がノルマンディー上陸の隊長が部下をせかすように腕を回して夏子を呼ぶ。
スターウォーズの基地のように思えてキョロキョロする夏子。
「ウッヒョオオオオオ……」
遠慮なく感嘆の声をあげる。ちょっと恥ずかしい。
こういう、遠慮のない反射が良くも悪くも夏子の個性だ。どっちかっていうと、生前の俺は、妹のそういうところが苦手だったが、いまの俺には好ましく思える。過去帳を住み家として二年目、少しはホトケさんらしくなってきたか。
「さ、ここからはリフトよ。三回乗り換えるから、迷子にならないでね」
みなみ大尉はテーマパークのベテランスタッフのようにまりあをエスコートしていく。
「大尉、またお腹が空いたんですか?」
二つ目のリフトに向かう途中、カーネルサンダースの孫みたいな曹長に声をかけられた。
「え、CICに行くとこだけど?」
「そっちは士官食堂ですよ。CICはリフトを下りて三番通路を右です」
「わ、分かってるわよ」
見かけの割には抜けているところがあるようだ。
「こちらは主計科の徳川曹長、ベース内での日常生活は彼が面倒見てくれるわ。こちら舵司令の娘さん、いろいろ面倒見てもらうことになるから、まず徳川君のところに連れて来たんじゃない(^_^;)」
強引な強がりに、夏子も徳川曹長も吹き出しかける。
「えと、舵夏子です。お世話になります」
「こちらこそよろしく。司令からも話があるだろうけど、ここでは君は少尉待遇だ。一応士官だからベース内の大概のところには行けるよ。当面必要なものは後で届ける。ベースの詳しいことは、その時にレクチャーさせてもらうよ、みなみ大尉に任せたら日が暮れそうだ」
「ちょっとねえ!」
「はい、回れ右して二つ目を左、二番のリフトに乗って……自分が案内しましょうか?」
「大丈夫、ここへは君に会わせに来たんだからね!」
「それは恐縮です……じゃ、幸運を祈ります」
夏子は徳川さんに付いて来てほしかったが、目を三角にしたみなみ大尉には言えなかった。
曹長の案内が良かったのか、それからは迷うことなくCICに着いた。
「司令、夏子さんを連れてまいりました」
レーダーやインターフェースを見ていた四人が振り返った。夏子の姿を確認すると三人は任務があるのかでCIC内のパネルやモニターをいくつか確認したあとCICを出て行き、残った老士官も夏子とみなみ大尉に笑顔を残して出ていってしまった。任務じゃなくて人払いかよ。
で、驚いた。
え?
CICは俺たちだけになってしまった。
☆彡 主な登場人物
- 舵 夏子 高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
- 舵 晋三 夏子の兄
- 井上 幸子 夏子のバイトともだち
- 高安みなみ 特務旅団大尉
- 徳川曹長 主計科の下士官