鳴かぬなら 信長転生記
トンビに見守られながら鬼ヶ島への道を進むと、いつの間にか海辺に出てきた。
砂浜の背後は崖になっていて、見上げると見覚えのある巨木の上半分が見える。
巨木は、あの桃の木だ。
なんだ、ここは村長(むらおさ)の屋敷の裏だったのか。
よく見ると、崖の上辺は石垣になっていて容易には登れない仕組みになっている。
石垣に上にはダビット(救命ボートやラッタルの上げ下げに使われる小さなクレーン)があって、船の舷梯のような階段が吊り上げられている。そういうダビットが見ただけで五六個はあって、日ごろは、ここから出入りしている様子だ。
この階段を上げてしまえば、容易に村には入り込めない。
我々がここにたどり着くまでは桶狭間を小型にしたような谷があって、うかつに通れば、谷の上から攻撃されて全滅させられる仕掛けになっていた。そこを易々と通ってきた鬼どももなかなかのものだ。あるいは、鬼どもが村の者さえ気づかぬ間道を見つけたか。いずれにしても油断がならない。
『誰かいるわよ』
あっちゃんが呟いて、再び海岸に目を戻すと、砂浜に引き上げられた小船の陰に人の脚が見える。
『土左衛門かのう?』
『土左衛門なら祀ってあげて、住吉神社が建てられるぅ♪』
「水死体を祀るのか?」
『そうよ、戎とか住吉とかいうのは、流れ着いた土左衛門たちを祀った神社なのよ』
「変な趣味だな」
『神道の常識!』
「であるか……ん?……まだ生きておるぞ」
漁師の若者のようだが、呼吸に合わせて花提灯が出たり入ったりしている。
そして、傍らには漆塗りに螺鈿を施した立派な箱が転がっている。
怪しい奴だ、どこかで盗みを働いて、浜に着いたとたんに疲れと安心で寝てしまったというところか?
これは場合によっては成敗してやらねばならん。
俺は、事の大小にかかわらず悪事、曲事には容赦がない。門番の最中に通行人の女をからかった足軽や、俺の留守中に勝手に遊びに行った女どもは、みんな成敗してやったぞ!
『あ、いきなり切ったりしてはならんぞ』
『いま、あんたが持ってる刃物は、このわたしだけなんだから。させないわよ』
「分かっておる、生前の俺とはちがう。とりあえず、起こして事情を聞く。おい、起きろ!」
ゲシ!
一発で決まった。
「ウッ、なにすんだ……あ……ああ……乙姫!?」
「乙姫?」
「あ、ごめん、乙姫、これは違うんだ……(;゚Д゚)」
目が泳いでいる、嘘バレバレ。
しかし、俺を乙姫と見間違って……こいつ、浦島太郎か?
平手の爺からいろんなお伽話を聞いたが、浦島太郎の話を聞いた時は腹が立った。
こいつの話は、徹頭徹尾の現実逃避だ! ろくすっぽ漁にも行かずに竜宮城で無駄な時間を過ごして、それにも飽きて戻ってきたら、村は知らない奴ばかりとか言い訳して、玉手箱をネタにもう一つ言い訳して年寄りのふり。結局一生引きこもった大うつけ者だ!
こんな奴、生かしておいてはためにならん!
『ちょっと待って!』
シャキーーーン
あっちゃんの一言で、周囲の時間が停まった。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)