RE・かの世界この世界
……白い闇の真ん中がドーナツ状に凝縮していき、二呼吸するほどの間にUFOのような発光体になった。
拉致られる!? キャトられる!? 異世界にとばされる!?
弾けるように妄想が膨らむと、リング状の蛍光灯だと合点がいく。
どこかで見たような……考えていると霧が晴れるように白い闇が消えていき、部室の天井だと分かる。
ウ……
分かると同時に背中に引力を感じる。
何のことは無い、見えているのが天井ならば背中は床だ。床方向に引力があるのはあたりまえ。
どうも、わたしの感覚は視覚的なようだ。
気が付いたか?
ギクッとした。
視界の左にピーターパンみたいな志村先輩の心配顔。
ホッと吐息が漏れる。
右側にかぐや姫みたいに中臣先輩。
突然見えたみたいだけど、さっきから居たんだろう。私の感覚は聴覚的?
「大変だったわねぇ」
「そっと起きるんだぞ」
「あ、はい……ああ……」
上半身を起こすと部室がグラ~っと回って、わたしはカエルを潰したように腹這いになった。めちゃくちゃ気持ちが悪い。
体中の穴から寺井光子の実体が溶けだしてクラゲかバクテリアになってしまいそう。
ソロリと先輩の優しい手で上向きにされる……すると中臣先輩の顔がズ~ンと寄って来た。
どうやら抱き起されている……先輩の美しい顔はさらに寄って来る。先輩のロンゲがハラリと頬に掛かった。
ア……
わたしの口が先輩の唇で覆われてしまった。
生まれて初めてのキスが先輩……すると口移しに爽やかなものが流し込まれ、ビックリしたけど不快じゃない。
爽やかなものは、瞬くうちに全身に漲って平衡感覚が戻って来た。
「初めてだから次元酔いしたのよ」
「次元酔い?」
「口移しにしてごめんね」
「あたしの方が良かったかぁ( ̄∀ ̄)?」
「茶化しちゃダメよ時美」
「ハハ、この次は自分で飲みな、冷蔵庫に冷やしてあるから」
「は、はい。ありがとうございました志村先輩」
て……この次があるの(;'∀')?
「よかった無事に戻ってきて……あれを見て」
先輩が指したモニターを見ると、三本の柱の右端のが青みを増している。ようく見ると、柱は無数の小部屋と言うか細胞というかで出来ていて、その半分ほどが青くなっている。残りは赤やどっちつかずの白。見ようによっては無数のフランス国旗が埋め込まれているように見える。
「ミッチャンのお蔭よ」
「わたしですか?」
「うん、光子がミカドの窓際に座ったんで、あの学生と営業見習い風の女は出会わずに済んだ」
「あ、あの二人……」
「二人が出会うと、二年後には結婚して子供が生まれるの」
「男の子なんだけど、五十年後に総理大臣になるんだ」
「そして国策を誤って、日本どころか世界をメチャクチャにしてしまう」
「メチャクチャに?」
「うん、でも生まれないことになったから、多分大丈夫よ」
「あの青いところが安全になった世界なんですね」
「そう、青が安全。赤は滅亡、白は一進一退というところだ」
「真ん中のひときわ明るい青がね、ミッチャンが修正したところ」
「あ、でも……」
思い出した。わたしと出会ったことで三十年前のお母さんは死んでしまうんだ。
「……そう。危機は回避したけど光子は生まれない世界になってしまったのね」
「それで戻ってきたんですか?」
「まあ……でも、あの世界は大丈夫だからな」
自分が生まれない世界と言うのは釈然としないが、母親の事故死を防げなかったという衝撃は小さくなった。
だって、他の世界、真ん中と左側の柱には、母が生きていて、当然わたしも生まれている世界がたくさん残っているんだ。
「そして、光子が冴子を殺さずに済む世界も、まだ現れてないんだ」
「それって……」
「もうひと頑張りしなくっちゃ……」
志村先輩がノーパソを操作すると、モニターに新しい任務が表示された。
☆ 主な登場人物
- 寺井光子 二年生
- 二宮冴子 二年生、不幸な事故で光子に殺される
- 中臣美空 三年生、セミロングの『かの世部』部長
- 志村時美 三年生、ポニテの『かの世部』副部長