ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第132話《髑髏ものがたり・4》惣一
自衛隊員たる者、常住坐臥、機に臨み変に応じ、いついかなる時も沈着冷静でなければならない。任官以来五省と共に心がけてきたし、これからもそうである自信もある。
だが、これには驚いた。
久々の上陸休暇で豪徳寺の自宅に帰ると、玄関の框で上の妹さつきが待っていて、そのまま狭いカーポートに連れていかれた。
「ホンダZじゃないか、こんなレトロな車に乗ってんのか!?」
「車は、どうでもいいの。ちょっと中に入って」
180に近いガタイを無理やり助手席に収めると、さつきがシートの後ろから、なにやら小汚い箱を取り出した。
さつきは怖い顔をして蓋を開けた。
で、常住坐臥も五省も吹っ飛んでしまった。
そこには、一目で人間のそれと分かる頭蓋骨が入っていた。
「さつき、おまえ、これ……!?」
180に近いガタイを無理やり助手席に収めると、さつきがシートの後ろから、なにやら小汚い箱を取り出した。
さつきは怖い顔をして蓋を開けた。
で、常住坐臥も五省も吹っ飛んでしまった。
そこには、一目で人間のそれと分かる頭蓋骨が入っていた。
「さつき、おまえ、これ……!?」
「そう、髑髏よ。それも旧帝国陸軍中尉の……」
それから、さつきは、その頭蓋骨にまつわる話と、夢にひい祖母ちゃんが出てきて話したことなどをまくし立てた。
「要するに、この中尉殿の身元を明らかにして遺族にお返ししたい。ついては、オレになんとかしろってことだな……?」
さつきは、黙ったまま頷いた。
「……分かった」
当てがあっての返事ではない。激戦地のニューギニアで戦死し、その首を刈り取られ、骨格標本のようにされた旧軍人を、自衛隊員としては放置しておくわけにはいかない。
「こんな車の中に放置しておいちゃいけない。仏壇の前に安置しよう」
それから、さつきは、その頭蓋骨にまつわる話と、夢にひい祖母ちゃんが出てきて話したことなどをまくし立てた。
「要するに、この中尉殿の身元を明らかにして遺族にお返ししたい。ついては、オレになんとかしろってことだな……?」
さつきは、黙ったまま頷いた。
「……分かった」
当てがあっての返事ではない。激戦地のニューギニアで戦死し、その首を刈り取られ、骨格標本のようにされた旧軍人を、自衛隊員としては放置しておくわけにはいかない。
「こんな車の中に放置しておいちゃいけない。仏壇の前に安置しよう」
「でも、お母さん、こういうの苦手だからいやがるよ」
「そういう問題じゃない。車を出せ!」
オレはさつきに命じて、豪徳寺近くの仏具屋に行き、新しい骨箱と4寸用の骨箱覆いを買って入れなおした。
「母さん、殉職した先輩の遺骨を預かってきたんだ、今夜一晩仏壇の前に置かせてくれ」
大きな意味では間違いではない理由を言って納得してもらった。それでも渋い顔をするので話題を変えた。
「さくらのやつ、なんだか急に歌で有名になったな。艦の中でも聞いてるやつがいてさ。『佐倉さくらってのは、君の妹さんじゃないか?』って艦長に聞かれて返事のしように困ったよ」
オレはさつきに命じて、豪徳寺近くの仏具屋に行き、新しい骨箱と4寸用の骨箱覆いを買って入れなおした。
「母さん、殉職した先輩の遺骨を預かってきたんだ、今夜一晩仏壇の前に置かせてくれ」
大きな意味では間違いではない理由を言って納得してもらった。それでも渋い顔をするので話題を変えた。
「さくらのやつ、なんだか急に歌で有名になったな。艦の中でも聞いてるやつがいてさ。『佐倉さくらってのは、君の妹さんじゃないか?』って艦長に聞かれて返事のしように困ったよ」
「困ることないじゃない、ちょっと曲は古いけど、アイドルの『ア』ぐらいにはなってるんだから自慢しときゃいいじゃない」
「自慢はしないけど、艦長に聞かれて白も切れないから、そうですって返事したよ」
「それでよろしい」
「おかげで、こんなにサイン頼まれちまったよ」
白地に青の碇のマークやあかぎのロゴの入ったハンカチの束を出した。
「で、さくらは? そろそろ帰ってくる時間じゃないの?」
白地に青の碇のマークやあかぎのロゴの入ったハンカチの束を出した。
「で、さくらは? そろそろ帰ってくる時間じゃないの?」
「フフ、それがラジオに出演するって……あら、そろそろ時間!」
おふくろは古いCDラジカセを出して、無邪気に末娘の紙屑が燃えるようなバカ話に、うんうん頷いて、さつきといっしょに笑っている。
これも親孝行、渋茶を飲みながらさくらとパーソナリティーのやり取りに耳を傾ける。
おふくろは古いCDラジカセを出して、無邪気に末娘の紙屑が燃えるようなバカ話に、うんうん頷いて、さつきといっしょに笑っている。
これも親孝行、渋茶を飲みながらさくらとパーソナリティーのやり取りに耳を傾ける。
人の話を最後まで聞いていないとか鼻濁音ができていないとか、語彙が少ないとか、でも声だけは可愛いとか兄らしい半畳を入れる。
そうやって一家の団欒をリードしながら、残った休暇で大先輩の身元確認をどうやろうかと頭を悩ませる佐倉一等海尉であった……。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
- 周恩華 謎の留学生