大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・1《いくつかの理由》

2021-02-22 06:09:47 | 小説3

プレジデント・1

《いくつかの理由》    

 

 

 第一の理由は二年生になったこと。

 

 二年と言うのは、もう高校生活が半分過ぎたのと同じ。

 だって、三年の一学期には進路は確定してしまうんだよ。

 そうでしょ、三年生はクラスそのものが進路別だし、一学期の終わりには就職にしろ進学にしろ行先が決定する。

 おまえなら……だいたいこんなとこだな。

 担任が、そう言って見せる資料には五つ六つの候補が上がるんだろうけど、みんな似たり寄ったり。

 なにも、卒業後の進路だけで一生が決まるわけじゃない。

 だけど、わたしって冒険するタイプじゃないからね、たぶん結婚するまで(するとしてね)の人生が決まってしまうと思うよ。

 

 第二の理由はお姉ちゃん。

 

 お姉ちゃんは三月で仕事を辞め、マンションも引き払って家に戻って来た。

 お姉ちゃんはいわゆる女子アナで、同年代の女性の中では勝ち組だと思っていた。

 妹のわたしが言うのもなんだけど、ルックスはいいし勉強はできるし(なんたって東京大学を出てる)人当たりはいいしスポーツは万能だし、他にもいろいろアドバンテージなんだ。

 そのお姉ちゃんが、一か月余りでひどく劣化した。

 ジャージ姿で一日を過ごし、連休からこっちは、ほとんど外にも出なくなった。

 もう東大出身勝ち組女子の面影もない。

 正直、こうはなりたくないという女子の見本のようになってしまった。

 

 わたしはお姉ちゃんのように美人でもなく勉強もできないしスポーツも苦手、人付き合いも最小限度で済ますというかできない。

 子どものころから存在感のないことおびただしく「あ、いたんだ」とか「忘れてた」とか言われることがしばしば。

 たまにお姉ちゃんと歩いていると、視線がお姉ちゃんだけに集まる……のはまだいいんだよ。

「えと、そちらは?」と人が聞いて「妹です」とお姉ちゃんが応える。で、たいていの人が「え!?」と言う顔になる。

「似てませんね」というようなデリカシーのない人はめったに居ないが、みんな、とんでもなく意外そうな顔になる。

 だから、もう三年くらい姉妹並んで歩くなんてことはしたことが無い。

 

 三つ目の理由は、藤田先生が困っていたから。

 

 藤田先生は来年で定年のオジイチャンなんだけど、仕事っぷりは誠実。

 不器用なところに親近感。藤田先生から誠実を抜いてしまったら……たぶん抜け殻。

 その藤田先生が困り切った顔で中庭のベンチに座っていた。手にはなにやら書類……後ろからチラ見。

――ああ、生徒会選挙の時期か――

 藤田先生は生徒会の顧問の一人で、立候補者の発掘をしているようなのだ。

 書類は目ぼしい生徒のリストで、十何人プリントされた名前にはことごとく二重線が引かれている。

 つまりは、声をかけたけどことごとく断られてしまったということらしい。

「お、まひろか……」

 一言あって、気弱な微笑みを浮かべると、先生は再び書類に熱中し始めた。

「……ども」

 わたしも、そっけない返事して、その場を離れた。

 その時は、自分が立候補するなんて毛ほども思わなかった。むろん、藤田先生も論外というか、気にもかけていなかった。

 

 でもね、五時間目が始まる前に〔生徒会長〕を電子辞書で調べてみたんだ。

 

 the president of the student council ……と出てきた。

 

 council(カウンシル)が生徒会、presidentが会長ということなんだ。

 

 プレジデント!

 この英訳の言葉で、わたしは決心。

 これが四つ目の、でも、一番大きな理由。

 


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