真凡プレジデント・1
第一の理由は二年生になったこと。
二年と言うのは、もう高校生活が半分過ぎたのと同じ。
だって、三年の一学期には進路は確定してしまうんだよ。
そうでしょ、三年生はクラスそのものが進路別だし、一学期の終わりには就職にしろ進学にしろ行先が決定する。
おまえなら……だいたいこんなとこだな。
担任が、そう言って見せる資料には五つ六つの候補が上がるんだろうけど、みんな似たり寄ったり。
なにも、卒業後の進路だけで一生が決まるわけじゃない。
だけど、わたしって冒険するタイプじゃないからね、たぶん結婚するまで(するとしてね)の人生が決まってしまうと思うよ。
第二の理由はお姉ちゃん。
お姉ちゃんは三月で仕事を辞め、マンションも引き払って家に戻って来た。
お姉ちゃんはいわゆる女子アナで、同年代の女性の中では勝ち組だと思っていた。
妹のわたしが言うのもなんだけど、ルックスはいいし勉強はできるし(なんたって東京大学を出てる)人当たりはいいしスポーツは万能だし、他にもいろいろアドバンテージなんだ。
そのお姉ちゃんが、一か月余りでひどく劣化した。
ジャージ姿で一日を過ごし、連休からこっちは、ほとんど外にも出なくなった。
もう東大出身勝ち組女子の面影もない。
正直、こうはなりたくないという女子の見本のようになってしまった。
わたしはお姉ちゃんのように美人でもなく勉強もできないしスポーツも苦手、人付き合いも最小限度で済ますというかできない。
子どものころから存在感のないことおびただしく「あ、いたんだ」とか「忘れてた」とか言われることがしばしば。
たまにお姉ちゃんと歩いていると、視線がお姉ちゃんだけに集まる……のはまだいいんだよ。
「えと、そちらは?」と人が聞いて「妹です」とお姉ちゃんが応える。で、たいていの人が「え!?」と言う顔になる。
「似てませんね」というようなデリカシーのない人はめったに居ないが、みんな、とんでもなく意外そうな顔になる。
だから、もう三年くらい姉妹並んで歩くなんてことはしたことが無い。
三つ目の理由は、藤田先生が困っていたから。
藤田先生は来年で定年のオジイチャンなんだけど、仕事っぷりは誠実。
不器用なところに親近感。藤田先生から誠実を抜いてしまったら……たぶん抜け殻。
その藤田先生が困り切った顔で中庭のベンチに座っていた。手にはなにやら書類……後ろからチラ見。
――ああ、生徒会選挙の時期か――
藤田先生は生徒会の顧問の一人で、立候補者の発掘をしているようなのだ。
書類は目ぼしい生徒のリストで、十何人プリントされた名前にはことごとく二重線が引かれている。
つまりは、声をかけたけどことごとく断られてしまったということらしい。
「お、まひろか……」
一言あって、気弱な微笑みを浮かべると、先生は再び書類に熱中し始めた。
「……ども」
わたしも、そっけない返事して、その場を離れた。
その時は、自分が立候補するなんて毛ほども思わなかった。むろん、藤田先生も論外というか、気にもかけていなかった。
でもね、五時間目が始まる前に〔生徒会長〕を電子辞書で調べてみたんだ。
the president of the student council ……と出てきた。
council(カウンシル)が生徒会、presidentが会長ということなんだ。
プレジデント!
この英訳の言葉で、わたしは決心。
これが四つ目の、でも、一番大きな理由。