アンドロイド アン・24
『アン おとなしくする』
杞憂であったらしい。
日本史の質問から春画の魅力に囚われて、あれだけキチンとしていた料理をオートでやってしまうほどのめり込んだのがピタリと止んだ。
うちの近所には町田夫人という、人柄はいいんだけど、おもしろい噂は天下国家に広めなければ止まれないご仁が居る。
案の定、通りすがりに見えてしまうキッチンを目撃されてしまったけど「あら、新一君もお料理するのね?」と、回覧板のついでに言われてしまった。
鍋やらフライパンやらのキッチン用品がオートで動いているのは、さすがにまずいだろうと思った俺は、台所に立って、遠目では俺が料理しているように見せかけたんだ(^_^;)
「いや、お恥ずかしいところを見せてしまいました(^_^;)」
アンも通りで出会った町田夫人にごまかして事なきを得た。
それからは、いつものように町内でも学校でも普通に過ごすアン。
学校は来月に迫った文化祭モード。
ホームルームは、その取り組みを何にするかで沸き立った。
数的にも多いので、いきおい女子が主導権を握る。
「いろいろ意見が出たけどさ、屋台とか喫茶店とか焼きそばとかさ、あ、それとステージでダンスとか。ちょっとまとめてみたいと思うの」
委員長の徳永さんが黒板に整理して書いた。
「それって、飲食店でくくれるかも~」
「あたし調理とかしたい🎵」
「おソロのエプロンとかいいよね~」
「ケーキとかもいいかも~🎵」
女子を中心にかまびすしくなる。
「ひとつ言っとくけど……」
ハッチャケそうな空気を読んで担任が水を注す。
「飲食店は、保健所の指示で調理に関わるものは検便だからな~」
けんべん!?
驚愕と笑いがミルフィーユのように重なって起こる。
「ああ、そうだ。厳密にはクラス全員なんだけど、最低でも調理員は必須だぞ」
「検便って、どういう風なんですかあ?」
「決まってんだろ、出したウ○コをケースとかに入れてえ~」
こういう話題になると、男子が活気づく。
「「「「「「「「「ヤダーーーーーー」」」」」」」」」
女子から非難半分、笑い半分の声が上がる。
「先生、どんなのですかあ?」
収拾させようと赤沢が担任に振る。
「大昔はマッチ箱とかに入れたけどな、今はな……」
担任は教壇に椅子を上げて実演し始めた。
「便器に前後逆に座ってだな、一ちぎり出した奴に……」
「出しかけたのを途中で止めるんっすか?」
「全部出してもいいけど、大変だろ」
たしかに。
「で、そのヒトちぎりに検査用のスティック……爪楊枝くらいなんだけど、それをぶっ差して、スティックを付属の密閉容器に入れて提出するんだ……こんな具合だな」
実演した後、黒板にダンドリのイラストを描いた。
シ~ンと見つめる俺たち。
「それって、下半身完全に脱がないとできねえ」
「うっかりドア開けられたら人生終わっちまうぜ」
ピンときた。
担任は飲食店をやらせたくないんだ。万が一食中毒になったら責任ものだし、準備や当日のシフト管理とかのもめ事、飲食店ならではの後始末のあれこれ、おそらく教師としていやな思い出があるんだろうなあ。
「それなら……市販のものを温めたりとかのことで凌げるかもしれません。ほら、コンビニとか、店内で食べさせたりするの、あれは保健所の管轄にはならないはずです」
さすがは徳永さん!
「でも、それだとイージーな分だけ面白みに欠けるから、どうだろ、メイド喫茶とか執事喫茶とかの触れ込みにしといて、余力で舞台パフォーマンスしてみたら! お店と舞台の両方で、互いに宣伝しまくってさ、うん、いいんじゃないかな!」
徳永委員長が上手にまとめ上げた。
さすがだと思ったが、似たアイデアはあるもんで、アンの三組でも店と舞台のコラボに決まった。
そして、特筆すべきは、目立ちたがりのアンが一言も意見を言わなかったことだった……。