せやさかい・423
ちょっとマヌケ。
夏休みに入って、もう四日目やいうのに制服着て電車に乗ってる。
『朝から会議だから、いつもの登校時間に来てもらえるかなあ』
担任の小鳥遊先生に『終業式に出られなくてすみませんでした』の電話を入れて、先生と都合を合わせたら22日のこの時間になった。
ホームも車両の中も制服の高校生いうのはほとんど居てへん。
スマホを出して動画を観る。
こないだ『たこやきテレビ』に出た時の留美ちゃん。
もう何回も観てるねんけど、親友の晴れ姿は何べん見てもええもんや。
関連して、他の画像やら映像も観れるしね(^▽^)
留美ちゃんは、うちよりも映える。
放送局で思わず眼鏡をとったときの画像。
アニメ『JK戦士』のポップがロビーに立ってて、それが自分に似てるんで慌ててとったとこを写真に撮られた。
たしかに、ノッポはメグリン、三白眼はソニー、眼鏡っこは留美ちゃん。
メグリンとソニーはなんとなくやけど、留美ちゃんはかなり似てる。
眼鏡っこは、日ごろは無口で恥ずかしがりやねんけど、眼鏡取ったら、めちゃくちゃ雄弁で強くてベッピンさん。
あんまりベッピンなんで、敵が一瞬見惚れてしもて攻撃のタイミングが遅れてしまうほど。
「見とれてんじゃねえ!」
ブチギレしながら攻撃するとこがメチャクチャええ! らしい。
アニメ観て確認したら、まさに留美ちゃんが本気でキレたらこんな感じかなあと思った。
ポスターの方は、ハンゼイのマスターからもろたパステルカラーのヘルメット姿。
ベースが淡いエメラルドグリーンで、縁がピンク。
それが、安全運転を心がけて、ちょびっと緊張してるとこが美しい。
もう一枚は婦警さんとのツーショット。
この婦警さんは、瀬川さんいうて、いっつも堺東の駅前で交通指導やら取り締まりやらやってるお馴染みさん。
この瀬川さんが留美ちゃんに目ぇつけてポスターのモデルになった。
ちょびっと寂しいのは、いっしょに居てるうちのことは全然目ぇに留まってへんこと。
まあ、うちのヘルメットは兵隊さんが被ってるようなミリタリー。いかにも戦隊もののモブキャラみたいやし(^_^;)
ニヤニヤしてるうちに駅に着いて学校を目指す。
さすがに部活やら夏期講習やらで登校する聖真理愛の生徒がチラホラ。
その何人かが日傘差してる。
うちの感覚では日傘っちゅうのはオバハン以上が差すもんで、JKがさしてるのはちょっと変。
いま、うちを追い越していった子はキャップを被ってる。
放課後のグランドでよう見かけるソフボの子。
めっちゃ日焼けしてて、この子は日傘よりもキャップが似合う。
うちは、なんにも被ってへん。
制服の中に帽子が入ってたら被ってたと思う。
甲子園の入場行進でプラカード持って選手の前を歩いてるJK。
あの帽子がええなあ。
御同輩の後姿を観察してるうちに学校に着く。
階段を上がって職員室に向かう廊下。
ちょうどペコちゃん先生が出てくるとこ。
大きく腕を回して――さあ、がんばるぞ!――的な感じで、向こうの方へ歩き去って行く。
微妙にタイミングが合わへんで、声をかけそびれる。
「失礼しまぁ……」
最後まで言い切らんうちに小鳥遊先生が団扇でオイデオイデしてる。
「僕と酒井くんだけやから、ここでええよね」
「はい、めちゃ冷房効いてますし!」
「ハハ、そうやな。今から相談室とか行ったら蒸し風呂やしなあ……はい、通知表と成績伝票。ほかの配布物は榊原さんに預けといたさかい」
「はい、昨日留美ちゃんからもらいました」
ほんまは通知表とかも預けてもろてもよかったんやけど、こういうとこにキッチリしてる先生はええ先生やと思う。
「あんまりいい成績やないけど、欠点もあれへん」
「わあ、良かった」
「一年やったら『まあ、がんばりやぁ』で済ますねんけどね。もう二年生の夏休み、進学とか考えてるんやったら、ちょっとなあ……」
痛いとこを突かれた。
「怒られるかもしれませんけど、出たとこ勝負で行こぅと思てます」
「出たとこ勝負なあ……」
「はい、いままでいろいろあったんで、あんまり深刻に将来て考えたことないんです」
「ああ……お家の事は、ちょっとは聞いてるねんけど……暑いなぁ、ちょっと待って、麦茶淹れてくるわ」
「あ、すみません」
ああ、うちのために間ぁあけてくれはったんや。
先生は、再任用で、うちのお祖父ちゃんと同い年。ちょっと似てるかも。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
出されたグラスは大振りで、日の丸がプリントされてる!
「日の丸は虫よけにきくんや」
「アハハ……」
微妙に分かってしまうねんけど、スルーしとく。
「声優やっていくつもりなんか?」
「あ、えと……」
「百武真鈴いうえらい先輩もってしもたしなあ」
「真鈴先輩知ってはるんですか?」
「うん、一年の時担任してた」
「え、そうなんですか!?」
「真鈴は才能もあるし、行動力も頭抜けとおる。企画やらプロデュースの能力もすごい」
「はい、そうですね」
「まあ、根はただのイチビリやけどなあ」
「イ、イチビリ!?」
「うん、後先考えへんとこがある。イチビリ根性で百武真鈴と田中真央を使い分けとった。まあ、それだけでも大したやつやねんけどな。ちょっと危うい」
「危ういですか?」
「あいつは、人の才能とか力量とかも見える奴で、生徒会もそっちの仕事もそつがない。あんたも、そんな真鈴に目えつけられた一人や」
ああ、よう見てはる(^_^;)
「生徒会やる言うた時に、この人の話をしたんや」
本立てに手を伸ばして新聞を出しはる。
新聞には二十歳の将棋名人の写真と記事が大きく出てる。
「この名人は何十手、何百手先まで読んで駒を打つ。『真鈴、何十何百とは言わんけど、ちょっとは先の事読んで進めてるんかぁ?』て聞いた」
「なんて答えはりました、先輩?」
「『出たとこ勝負です!』やった」
やっぱり。
「まあ、そういうことも頭に入れて考えてくれると嬉しいかなあ」
「はい」
「進学を考えるとして、仮の話としてな」
「はい」
「どんな学部を考えるのか、いくとしたら私学でええのか、そこらへんはどうや?」
「あ……えと、いざとなったら坊さんになります」
「あ、そうか、酒井さんとこはお寺やったなあ。宗旨聞いてもええ?」
「はい、浄土真宗です」
「大谷派?」
「本願寺派です」
「そうか……よし。東京と大阪の行ったり来たりやろけど、体に気ぃ付けて頑張ってください。先生で間に合うことあったら、いつでも連絡して」
「はい、ありがとうございました」
先生もうちも腰を上げて、マウスが動いたんかパソコンの画面が点いた。
「え『JK戦士』?」
『JK戦士』のホームページが出てた( ´艸`)。
「あ、ああ、ちょっと観ててなあ、面白いアニメやなあ(^_^;)」
微妙に焦ってはるし、それ以上のツッコミはせんと家に帰った。
明日は、東京で収録。早めに台本読んでお昼寝することにする。
そう決めると、とたんに蝉の声が耳につく梅雨明けの夏空やった。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
- 江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行)
- 声優の人たち 花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎
- さくらの周辺の人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)