大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・55《四人揃って来るこたーないだろ》

2021-04-17 06:28:28 | 小説3

レジデント・55

《四人揃って来るこたーないだろ》     

 

 

 

 俺が免許を持っているのは綾乃以外は知らない。

 

 だから、綾乃がバラしたのに違いないんだけど、久々に縋りつくような眼差しで頼んできたので引き受けてやることにする。

――四人揃って来るこたーないだろ――

 待ち合わせ場所のロータリーに生徒会執行部が雁首揃えて並んでいるのが目に入って、思わずハンドルを叩いた。

「エアコンの効きが悪いから、ちょいと暑いぞ」

「大丈夫よ、効きのいいエアコンを取りに行くんだからさ、さ、みんな乗って乗って(^▽^)」

 意味不明の小理屈を言って、どーしようかという顔をしている三人を急き立てて車に乗せる綾乃。

 こういう調子づいた行動は俺への甘えからなんだろうが、三人に気づかれても面白くないのでブスっとしておく。

 

「よろしくお願いします」

 会長の真凡が挨拶してくれる。

 真凡は常識ある生徒会長らしく、申し訳なさそうに眉をヘタレさせる。

 ほら、アニメとかでよくある表情、眉毛が「し」の字に、目が「へ」の字になってるやつ。

 意外に可愛い……きれいだ。

 取り留めのない造作で、かなり親しくなっても、真凡の素顔って? 考えてしまうほどに特徴が無い。アニメやゲームに出てくるNPCというか、へのへのもへじ顔というか、そんな感じ。

 しかし、元々、毎朝テレビ一押しの女子アナ田中美樹の妹ではある。磨けば相当の輝きを発する……と思って運転に集中する。安全運転のためでもあるが、助手席の綾乃の機嫌を損ねたくはない。綾乃に対して完全な優位に立てることも、近頃無いしな。

「ちょっと、窓開けていいか?」

「えーーーなんで!?」

「いや、その……窓開けた方が涼しいかなって……」

「やだ、温い風が入ってきてもしかたないよ」

 綾乃の反対に、後ろの三人があいまいな笑顔を返す。

 暑い以外に、四人の若い女のニオイで閉口しているんだけど、さすがに言えない。綾乃に、これ以上口を開かせることも剣呑だしな。

 

 毎朝テレビが近くなるにしたがって、言いようのない負のオーラを感じる。

 

 六十年以上民放の雄として君臨していた毎朝テレビが潰れたんだ。言葉では説明しきれない何かがあるのかもしれない。

 しかし、言っとくけど、俺のウィルスが原因で潰れたという呵責は爪の先ほどもない。

 駐車場に車を入れながら思ったのは、こいつらエアコンの据え付けまでやれって言うんじゃないだろうな? という心配。

 エアコンの取り付けっていうのは、テレビ局一つ潰すよりも面倒なんだぜ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 誤訳怪訳日本の神話・35『... | トップ | らいと古典・わたしの徒然草... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説3」カテゴリの最新記事