わたしの徒然草・75
『つれづれわぶる人は、いかなる心ならん』
第七十五段
つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるる方なく、ただひとりあるのみこそよけれ。
智に働けば角が立つ情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
夏目漱石『草枕』冒頭の言葉の後に付けると似合いそうな段です。
簡単に言えば「世の中、人と交わって生きるのは、ウザったくてむつかしいもんだ」ということであり、この七十五段は「だから一人で、居ようぜ!」という孤独の勧めのようです。
府教委の強い指示で、学校行事には国旗の掲揚と国家の斉唱を実施すると言うことが提案さた時の事です。
相変わらず教職員の間からは「軍国主義、侵略戦争の象徴」「外国籍の生徒への配慮に欠ける」「教育現場に持ち込むことではない」というような反対が為されました。
言われっぱなしでは面白くないので、そろりと手を挙げて反論を試みました。
「侵略戦争の象徴と言われるならば、他にもいっぱいあります。東京都は、かつて東京府で、特別区は、まとめて東京市なっていましたが、戦時国策の遂行のため戦時中に今の特別区になりました。東京は、いまだに戦時体制なのです」
なにそれ?
「電力会社や、ガス会社、私鉄などは寡占状態ですが、これも戦時中に国が統制しやすいようにまとめられたものがそのままになっています」
そうなん?
「日本語を横書きにするときは、右から左に書きます。授業でも、そうやっていますし、この職員会議でも議事内容は右から左に書かれています」
なにを当たり前なことを。
「これは、戦時中に南洋庁、南洋庁というのは、当時の日本が国際連盟から信託統治領として任されていた島々を収めるために作られた役所です。その南洋庁が『横書きの日本語が左書き右書きが混在していて、南洋の現地人には、とても読みにくいので、統一してほしい』という要望があって閣議決定で右から左に書く、今の形になっとものです。これも戦時政策の残滓どころか戦時政策そのものです」
へえ……
「だから、そういう、明らかに戦時政策であるものが反対されずに、日の丸君が代だけを問題にするのはおかしいです」
そんなん聞いたことないわ……
会議室は、実に薄い反応しかなく、反論も返って来ません。
けっきょくは、言いたい者が言いたいことを言って、校長が締めくくります。
「府教委からの指示通りに実施いたします」
これでおしまいです。
あとは「大橋は変な奴」「あいつは右翼」という空気だけが残って、とても気分の悪いものでした。
―― ああ、知に働けば角が立つというやつか ――
と思いましたが、先輩がボソリと言ってくれました。
「いや、あんたは情に竿さしたんや」
ああ、なるほど……