ライトノベルベスト
アッと思ったときには階段を踏み外していた。
目の前に色様々な蝶々のように一クラス三十八冊のノートが舞った。
あたしは、アニメの『時をかける少女』の名シーンを思い出していた。
真琴が理科準備室で、人の気配に気づいて集めてきたノートといっしょに派手にひっくりかえり、時をかける少女になったところを……。
気づいたら、保健室に寝かされていた。
「おい、大丈夫か!?」
担任の保科先生の声が前方、やや上か聞こえた。
「はい、大丈夫……!」
「笹倉!」
そう言って保科先生は、前をかき合わせる仕草をした。
「アッ……!」
ブラウスの第二ボタンまで外され、胸を締め付けないために、ブラのホックまで外されていることに気づいた!
「だめでしょ、例え担任でも男は厳禁!」
養護教諭のミッチー先生が間に入った。
ブラは、起きあがった衝撃で、五センチは下に下がってしまい、見えてはいけないものが、見えてしまったことが、保科先生のリアクションで分かった。
「もう、救急車くるからね、身繕いだけはしときなさい。外傷は無いようだから、主に頭のCTだろうね」
その時、保健室のカーテン越しに救急車のサイレンが聞こえてきた。
そうだ!?
救急隊の人たちが来る前に、あたしは右の二の腕の裏を確かめた。
どうやら、タイムリープ出来る体にはなっていないようだった……残念!
救急隊のオジサンは、あたしの瞳孔をチェックし、名前とか、今日の日付や曜日の確認をした。
「宇宙歴3634年、オメガの月、第13日」
「……もう一度聞くよ。今日の日付は?」
「あ、2021年7月19日金曜、終業式の日……です」
「緊急搬送!」
オジサンは、そう部下に指示し、首を固定されてストレッチャーに載せられた。
なんか、変なこと言ったなあ……と、そのときは、そんくらいの認識だった。
おかしい……そう思ったのは、病院でCTをかけられている最中だった。
――アルタイル星団調査隊、太陽系第三惑星調査分隊、モエ・ナスターシャ、報告せよ――
そんな声が、頭の中でして、一瞬のうちに、いろんなことがごちゃ混ぜになった情景が頭にうかんだ。
「おくれ」
「手遅れじゃないよ。タンコブが出来てるけど、たいしたことはない」
「あ……」
「多少脳波にブレがでたけど、これは何かを思い出した波形だね。ジブリの『風立ちぬ』でも観にいって思い出していたのかな? あれは、感動的ないいアニメだったもんね」
ドクターはベテランらしく、あたしが頭に浮かんだことの半分は当てていた。リバイバル上映の『風立ちぬ』は実際観て感動したんだもん。
でも、半分は分からなかったようだ。自分でも忘れていた……。
あたしは、宇宙人だってこと……!