真凡プレジデント・37
こんな取材は止めてください。
静かに三回繰り返した。
相手は各社との取材合戦に、いささか興奮気味だ。俺が先日の列車停止事件の張本人だという興奮もあるんだろう。
こういう場合は、相手よりも冷めたトーンで静かに繰り返す方がいい。相手がいっそう薄っぺらに見えるからだ。
三回繰り返したところで、スタジオから――話を聞いてやれ――の指示があった。一点リードだ。
「ありがとうスタジオの青木プロディユーサーと報道局の佐藤さん」
あらかじめ調べておいたスタジオの責任者の名前を上げて置く。
スタジオに軽いどよめきが起こったのが、取材チームの表情からでも分かる。
「本件の決定は教育委員会です。学校は、その指導に従っているだけです。入試当時の学校長・教務主任・入試委員長は、すでに退職・転勤されています。取材するなら、当事者にあたるべきでしょ。単に絵面がいいからというだけで学校に押しかけられるのは迷惑な話です。そんな基本的なウラも取らないで取材に来たとしたら、取材のリテラシーやマスメディアの常識をわきまえない行為だと言っていいでしょう、どうなんですか?」
「いや、でも、世間の注目は……」
「数字さえ取れればいいというゲスな狙いからだけじゃないですよね」
「それは、もちろん」
「じゃあ、お引き取りください。こんなことをされては授業も部活も満足にできない」
「だから、学校の裏通りからやってるし……」
「そこの立て看板や住居表示を映しといて、それはないでしょ。ネットの時代、これで学校名は秘匿したということにはならないでしょう、それに上空のヘリコプターはオタクのでしょ」
「でも、我々を追い返したら、ますます学校は疑われるわけで……」
「威力業務妨害です、通報しますよ」
「だから、そうはならないように……」
「見えるでしょグラウンド、みんな部活どころじゃないんです。あの三階では補習をやっていますが、みんな落ち着きがない、カーテンの隙間から、こっちを伺ってるんですよ」
「それは、ぼくらの……」
「責任ではないと? らちがあきません……」
「なに、いまスマホ触ったのは?」
「あらかじめ用意していたものを添えて通報しました、通報先は……」
スマホを掲げて見せてやった。地元警察始め、当該放送局以下主要メディア、文科省、CNNテレビまで135か所余りに流れた。
「それに、あなた方の対応には幻滅しました。この二十四時間以内に、この行き過ぎた取材と放送に局として陳謝し回復措置をとらない限り、僕は市民として許される範囲で報復に出ます」
そこまで畳みかけた時にパトカーがやってきた。
「な、なんですか! 正当な取材ですよ! 横暴なことは止めて……」
警察は、その場で記者と現場ディレクターに任意同行を求めた。
取材の苦情対応にしては大げさなのだが、警察は譲らない。
「潔白なら行った方がいいですよ、もし無事に出てこられたら、その時は取材してもらえるように協力しますから」
「ほんと?」
「僕が、今まで嘘を言ったことが無いのは御承知でしょ。そうだ、こうしましょう。僕も警察に同行しますよ(^▽^)」
そう言うと、警官もありがたがり、記者もディレクターも大人しく俺と一緒にパトカーに乗った。
二人は一晩警察に泊まることになって、俺も自分の意思で泊ってやった。
あくる日、いったん保釈されて俺と一緒に警察署を出たところで逮捕されてしまう。
それぞれ婦女暴行と薬物使用教唆の容疑だ。
俺は、警察で二人に関するあれこれを写真や映像付きで開示してやったからね。
その後の取材には協力してやった。駆けつけてきた他局や新聞の取材にね。
ね、ちゃんと約束通りだろ。
俺は戦うとなったら、あいつらの吐く息の成分まで調べ上げてかかるんだ。ニュースソースは勘弁してほしいけどね。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問