真凡プレジデント・62
ちょっと子どもっぽいんだけど、構わない!
三人の私服は大人を感じさせる。
綾乃はモテカワのカットソーに虹色キュロット。
みずきはオールディーズ風水玉ワンピ。
真凡はパステルピンクのキュロットに淡い水色のカットソー、その上にオフホワイトのボレロ。姉の美樹さんのだと見当はつくけど、似合ってるということは、真凡に、それだけの大人の魅力あるということよ。
わたしは、ひまわり模様のワンピ。
中学でグレてたとき、お盆休みの旅行の為に買ってくれたんだ。
パートの篠田さんや、バイトの女の子もいっしょに行くはずだった。
前の晩からブッチしてたわたしは、けっきょく帰らずに、いっしょに行かなかった。
――探した方がいいですよ――
心配顔の篠田さんを――だいじょうぶ、だいじょうぶ――お呪いみたいに明るく言って予定通りの二泊三日に出かけた。
二日日目の夜に家に戻って、ひまわりワンピが、そのまま長押に掛けてあって、ポケットに宿泊先の電話番号と行き方を書いたメモ、それに運賃の諭吉が一緒に入っていた。
それっきりになってたワンピなんだけど、今日のケーキバイキングに着ていくことに決めた。
決めたんだけど、きまりが悪くって言い出せずにバッグに入れて学校まで持ってきた。
「似合ってるじゃん、そうだ、みんなで写真撮ろう!」
真凡の提案で写真を撮った、四人一緒と一人のと。
「いやー、こういう写真を撮ろうと思うのも、暑い中エアコンつけてくれた柳沢先輩のお蔭ね。そうだ、先輩に写真送っておこうか!?」
企んでやったわけではないんだろうけど、真凡のこういうところはプレジデントの器だと思う。
おかげで、自然な形でお母さんに写真を送れた。
折り返し――てっきりメルカリに出されたのかと思った――のメールには、ランチタイムの忙しさを楽し気に働くお母さんの写真が添付されていた。
やっぱ、殊勲賞だよ真凡は!
その真凡が、信号を渡り損ねた。
横断歩道を挟んでバツ悪げに佇む真凡。
その真凡の前をオフホワイトのワゴンが一瞬停まって、動き出した時には真凡の姿が無かった……。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長