RE・友子パラドクス
ドイツの司教が贅沢三昧で非難されている。
S市に向かう車の中で、そのニュースを聞いた。自分の住居に何十億円も使い、インドの貧民街視察のための飛行機にファーストクラスを使うなど、司教にあらざる振る舞いにバチカンは対応に追われているという内容だった。
東京の法王庁大使館では、大使はじめ秘書の司祭や受付の平信徒の女性に至るまで、穏やかで真摯な人たちばかりだったので、とても意外に思う友子である。
「中世ヨーロッパじゃあるまいし、こんなのが今時いるんだな……」
ケント(滝川)は、S市へのルート66を走りながら呟いた。
「……あ、他の放送局でも同じことを言ってるよ」
マイク(ポチ)がチューナーを回しながら呟く。ミリーは後部座席で寝ている。本性は、やっと生後四か月の子犬なので、ポチの倍は眠くなるようだ。
「このあたりはカトリックが多いから関心が高いのよ」
ジェシカ(友子)は、そう言いながら、少し違和感を感じていた。
S市に入って、最初に見つけたレストランで食事をする。ナビで調べると、アメリカでもポピュラーになってきたのか寿司バーもあるのだが、八マイルも走ればカンザスという町で寿司を食べようとは思わない。料金は回転寿司の十倍近くするし、カラフルでポップな寿司ネタは話のタネにはなるだろうが、そんなことが目的の旅ではない。
そこの駐車場は学校の校庭ほどもあって日本の感覚ではドライブインなのだが、アメリカの中西部ではこんなものなのだろう。駐車場には8台の車が停まっているし、この界隈では並以上の店ではあるのだろう。
奥の席で聖職者の略服を着た老人が、助祭一人を相手につつましく食事をしているのに気づいた。
「今まで気づかなかった」
「静かに食事をされているんだ、邪魔しちゃいけないよ」
「そうよ、マイクもミリーも静かにお上がりなさい」
――でも、あの二人、なんの思念も感じない――
――聖職者だ、そういう人もいるさ――
食後のドリンクが運ばれたところで、十数人のマスメディアと思われる男女が、ドカドカと入ってきた。
「デイリーSのトンプソンです。司教、シカゴの大司教座での様子はどうだったんですか?」
これを皮切りに、各メディアがそれぞれに口を開いた。
「みなさん、ここはレストランです。他のお客さんもいらっしゃいます。どうか教会の司祭館でお待ちください、あと……五分でみなさんのお相手をいたします」
穏やかに司教が言うのでメディアの人間は、ゾロゾロと教会に向かった。少しあって食事を終えた司教と助祭は、ミリー(友子)達にも頬笑みを残して、教会へと向かった。
「ドイツの司教とは大違いだな、マスコミの連中も大人しい」
「人徳のある司教さんのようね。お供もひとりだけだったし」
――でも、少し変。平穏で澄み切った心しか感じない――
――聖職者としても?――
――メディアの人から読めたけど、司教の弟は、このS市の水道局長――
――水道水の成分がおかしいって言ってたな?――
――T町の水は100%このS市から買ってる――
――少し調べてみるか――
四人はレストランを出ると、プレスの人間に擬態して教会の司祭館を目指した……。
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士