真凡プレジデント・88
水害被害地の救援ボランティアに行くことになった。
前回(88:火曜の授業だぞ)の流れで分かってもらえると思うんだけど、藤田先生がボランティアに行っていたことを知った我々生徒会執行部は、その意気に感じて、次のボランティアに同行することになったのだ!
そして、ボランティアというのは大変なのだと思い知った。
ちゅ、注射すんのーーーーーーー!?
なつきの声がひっくり返った。
かなりの落ち着きを取り戻したとはいえ、被災地のO県S市には廃棄物の片づけや運搬・整理などの仕事があって、当然怪我をする可能性がある。破傷風と言う厄介なのがあって、その予防注射をしないと参加できないのだ。
根っからの注射嫌いのなつきは、そのことだけで怖気をふるってしまったが、生徒会執行部のバッジを握りしめて耐えた。
「なつき、後悔してる?」
「う~~( ;∀;)つぎ行こ、つぎ」
涙目になって注射の痕をさすって先頭を進んだ。
被災地へは藤田先生の車で出かける。
その車を見てぶったまげた!
予防注射が終わったら、すぐに出かけられるように、迎えを兼ねて病院の駐車場で待っていてくれた。
「おーーい。こっちこっち!」
車の群れの向こうから声が掛かった。
クネクネと車の隙間を縫い、先生の車を見て驚いた。
「これ、軍用のハンビーじゃないですか!」
さすがの琢磨も目を丸くしている。
女子の執行部は車の名前なんか分からないんだけども、迷彩塗装のいかつい四輪駆動に感心した。
藤田先生は、定年間近の生徒会顧問で、後輩の中谷先生などからは「ジミー」の愛称で呼ばれている。
面と向かっては呼ばれない「ジミー」が地味からきていることで想像がつく風情なんだ。
むろん、ハンビーの前に立ってる先生は、いつものジミー。
洗いざらしのTシャツにGパン。学校での先生は地味なりに清潔なナリで、先生らしさがうかがえるんだけど、今の姿は、夜道でお巡りさんに会ったら間違いなく職質されるだろう。
それで、ハンビーとかいう目の前の車。
「先生の車なんですか?」
「ああ、趣味のサバゲーのために買ったんだが、こういう時には大いに役に立つ。さ、前に二人、後ろに三人。荷物は後ろのハッチから」
ハッチの中に驚いた。
これから戦争がやれるんじゃないかというくらいの禍々しいものが詰め込まれていた。
「ミリタリーばかりだが、ドンパチのものは一つもない。みんなボランティアで使うものばかりだ」
「分かります。ジェリカン、シャベル、テント、レーション、ジェネレーター、メデシンパック、CPR、ライフジャケット、携帯トイレ……」
琢磨先輩があれこれ指さすのを、綾乃、みずき、なつきが興味津々に目を輝かせている。
サバゲーというのは、ウェポン以外はミリタリーの実物を使うものらしく、ハンビーという車と、その中の諸々は実際に使われた様子がありありで、あっちこっち禿げていたり補修されていたりで、イメージとしては中学の時の飯盒炊爨の道具に通じる雰囲気が合った。
「乗り心地は悪いが、ちょっと辛抱してくれ」
先生は、そう言ったけど、見かけほどに悪くはなかった。車に弱いなつきなどは「こういう沈みこまないシートがいいよ!」とかえって気に入った様子だ。
環状道路に入って驚いた。
なんと、いつの間にか前後を軍用車両に取り巻かれているではないか!
「ああ、サバゲー仲間と合流していくんだ」
いろんな意味で藤田先生を見直すことになった……。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長
- ビッチェ 赤い少女
- コウブン スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号