ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第69話《ポニーテール》さくら
ポニーテールのゴールデンポイントって知ってます?
アゴと耳を結んだ延長線上の頭の頂点に結び目をもってくると一番カッコいい。これをポニテのゴールデンポイントというんだそうです。
ポニテの始まりは吹部のフルート。ちょっと髪が邪魔で後ろで括ったのが始まり。
「どうせならハツラツポニテにしちゃえ!」
オオ!
お姉ちゃんが、グッと上で結んでくれて目尻も頬っぺたもキリリと上がって、気分もアゲアゲで気に入った。
そして部活以外や他の季節でも気分転換したいときなんかには、これにする。このお話の第一回もそうだったんじゃないかな? で自分のブログを調べる。どうも第一回は書いていない。でも記憶にはある。
あの四ノ宮クンがガードマンのバイトで道に立ってて、彼の誘導灯がスカートにひっかかって、その一瞬を後ろ歩いてたオッサンに撮られてSNSに投稿されて大恥。その日の午後には髪を下ろしていて、白石優奈を助けた大掃除ではポニテにしていたと思う。
撮影の時は由香ってポニーテールの役だったので、あたし個人のイメージと被るんで、ちょっとサイドポニーテールにし、前髪も変えた。
で、今日からは佐倉さくらという普通の女子高生に戻って登校。髪は少し迷って自分のポニテ。
東京は、街で芸能人に会っても、プライベートだと分かると、快くシカトしてくれる。大阪でロケやってたころは「やあ、あんたサクラ×2やんか!」などと気安い。よくアメチャンをもらったり「いっしょに写真!」と二人撮りなんかやらされた。
その点、渋谷は気楽だった。もちろん、あたしが坂東はるかさんみたく一流でないことや、朝の忙しさは、それどころではないということもあるけど。
やっぱ、東京はいいなあと思った……のは、学校の校門を潜るまでだった!
学校に着いた途端、視線をあちこちから感じた。むろん帝都女学院なので、大阪のオバチャンのようなことはなかったけど、自分の視界から外れたところから視線を感じるのは、気持ちのいいもんじゃないよ。
「さくら、撮影のときのままなの?」
席に着くとマクサが横に来た。
「なにが? いつものあたしだよ」
撮影の時は由香ってポニーテールの役だったので、あたし個人のイメージと被るんで、ちょっとサイドポニーテールにし、前髪も変えた。
で、今日からは佐倉さくらという普通の女子高生に戻って登校。髪は少し迷って自分のポニテ。
東京は、街で芸能人に会っても、プライベートだと分かると、快くシカトしてくれる。大阪でロケやってたころは「やあ、あんたサクラ×2やんか!」などと気安い。よくアメチャンをもらったり「いっしょに写真!」と二人撮りなんかやらされた。
その点、渋谷は気楽だった。もちろん、あたしが坂東はるかさんみたく一流でないことや、朝の忙しさは、それどころではないということもあるけど。
やっぱ、東京はいいなあと思った……のは、学校の校門を潜るまでだった!
学校に着いた途端、視線をあちこちから感じた。むろん帝都女学院なので、大阪のオバチャンのようなことはなかったけど、自分の視界から外れたところから視線を感じるのは、気持ちのいいもんじゃないよ。
「さくら、撮影のときのままなの?」
席に着くとマクサが横に来た。
「なにが? いつものあたしだよ」
「でも、撮影のときのままだって、ポニテとかさ」
「これはあたしのスタイル。役の時は、サイドだよ!」
「だっけ?」
「そうだよ。さくらは暑い季節や気分転換のときは、いつもこれやん」
恵里奈がフォローしてくれた。さすがはバレーのセッター、記憶力がいい。
担任の北川先生は微妙によそよそしい。
覚悟はしていた。北川先生は、元アイドル志望で、学生のころには事務所に所属していて、ほとんどプロだった。それも、ごく数年前のことで、当時同じ事務所にいる人とは、今回の撮影でもいっしょだった。いささかおもしろくないだろうことは覚悟していた。
「佐倉さんて、チョッチいい気になってるよね。役と同じポニテで学校来る、普通? いい気になってるよね」
恵里奈がフォローしてくれた。さすがはバレーのセッター、記憶力がいい。
担任の北川先生は微妙によそよそしい。
覚悟はしていた。北川先生は、元アイドル志望で、学生のころには事務所に所属していて、ほとんどプロだった。それも、ごく数年前のことで、当時同じ事務所にいる人とは、今回の撮影でもいっしょだった。いささかおもしろくないだろうことは覚悟していた。
「佐倉さんて、チョッチいい気になってるよね。役と同じポニテで学校来る、普通? いい気になってるよね」
「女優たって、ほんの二三本出ただけなのにね。まあ、舞い上がってる子は仕方ないよ」
「それにさぁ……」
ゴボゴボゴボ
そのあとは水を流す音で聞こえなかった。
個室を出た時には、声の主はいなかったけど、クラスで口もきいたことがない子だということは分かった。
そのあとは水を流す音で聞こえなかった。
個室を出た時には、声の主はいなかったけど、クラスで口もきいたことがない子だということは分かった。
ウウ……それまでも、時どきはポニテにしてたのにぃ。特別なことじゃないのにぃ。いい気になんかなってないしぃ……
「どないしたん、さくら?」
トイレに入ってきた恵里奈が心配げに顔を覗きこんできた。恵里奈は大阪の子なので、このへんの距離の取り方は遠慮がない。大阪のオバチャンたちが懐かしくなってきた。
「なんでもないよ。手洗ってたら水しぶきが目に入っちゃって」
「どないしたん、さくら?」
トイレに入ってきた恵里奈が心配げに顔を覗きこんできた。恵里奈は大阪の子なので、このへんの距離の取り方は遠慮がない。大阪のオバチャンたちが懐かしくなってきた。
「なんでもないよ。手洗ってたら水しぶきが目に入っちゃって」
「そうか、ほんなら、うちは失礼して……」
個室に消えた。恵里奈は大阪人のせいなのか本人の性格なのか、まわりを気にせずトイレで無駄な水は流さない。水道ではない元気な水音をさせたあと、可愛く「PU」という音がした。
「あ、今の音は聞かんかったいうことで(^_^;)!」
個室からの声に思わず吹き出した。恵里奈なりのいたわりだろうと思った。
昼休み、ショックなことを聞いた。
わたしを、この世界に引きずり込んだ張本人の原鈴奈が退学した。
ダスゲマイネ……
久々の口癖が口をついて出た……。
個室に消えた。恵里奈は大阪人のせいなのか本人の性格なのか、まわりを気にせずトイレで無駄な水は流さない。水道ではない元気な水音をさせたあと、可愛く「PU」という音がした。
「あ、今の音は聞かんかったいうことで(^_^;)!」
個室からの声に思わず吹き出した。恵里奈なりのいたわりだろうと思った。
昼休み、ショックなことを聞いた。
わたしを、この世界に引きずり込んだ張本人の原鈴奈が退学した。
ダスゲマイネ……
久々の口癖が口をついて出た……。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員