大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真夏ダイアリー・68『省吾との再会』

2019-11-11 06:25:54 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・68 
『省吾との再会』    


「ノックはしたんですが、お気づきになられないようなので、失礼しました」
 来栖大使がメガネをずらして、わたしを見た。
 
「君、悪いが席を外してくれたまえ。野村大使と話があるんだ」
「男同士の飲み会だったら、ご遠慮しますが、外務省からの機密訓電だったら同席します」
「君……?」
「東郷さんから、この件については彼女を同席させるように……ほら、これだよ」
 野村大使は、わたしに関する書類を来栖さんに見せた。
「しかし、こんな若い女性を……それに君はポーランドの血が……」
「四分の一。来栖さんの息子さんは、ハーフだけど陸軍の将校でいらっしゃる。一つ教えていただけませんか。外交官の資質って、どんなことですか?」
「明るく誠実な嘘つき」
「明るさ以外は自信ないなあ。三つを一まとめにしたら、なんになりますか?」
「インスピレーション……かな、来栖さん」
「よかった、経験だって言われなくて。わたしは外交官じゃないけど、今度の日米交渉には、くれぐれも役に立つように言われてるんです、東郷外務大臣から」
「と、言うわけさ。来栖さん」
 
 ここまでは前回と同じだった。ジョ-ジとの出会いもそのままだったので違和感はない。しかし、そこからは、新しい展開だった。

「君の言った通りだ、入ってきたまえ高野君」
「失礼します」
 入ってきたのは、四十過ぎの気のよさそうなおじさんだった。少し顔色が悪い。
「高野君の言ったとおりの女性だ。度胸もいいし、機転も利く。あとは、君のようなスキルがあるかどうかだが」
「それは、大丈夫です。日本で十分鍛えておきましたから」
 なんのことだろう、この高野という人物についての情報はインストールされていない……。
「じゃ、さっそく仕事にかかろう」
「真夏君は、いま来たところだ。荷物の整理ぐらい……」
「間もなく訓電が入ってきます、時間がありません。この数時間が勝負です。それが終わったら、祝勝会をやりましょう。大使のおごりで」
「どっちの大使かね、ここにはわたしと、特命大使の来栖君の二人がいるんだがね」
「ポーカーでもやって決めておいてください。なんなら両大使お二人でという、わたし達には嬉しい選択肢もありますがね」
「ハハ、さすが山本さんの甥だ」
 野村大使が笑った。
「かなわんな、高野君にかかっちゃ」
 来栖大使も眉を八の字にした。かなりの信頼を得ているようだ。それにしても、省吾は……。

「分からないか、ボクが省吾だよ」
 通信室に入るなり、高野が言った。
「え……!?」
「もう高校生には、見えないけどね」
「ほんとに、省吾なの……!?」
「ああ、根性で、踏みとどまってるけど、もう二時間ほどが限界だった。ぼくの実年齢は八十に近いんだ」
「高校生にもみえないけど、八十のオジイチャンにも見えないわ」
「加齢は、内蔵に集中させてある。外見は四十前さ。ここでの設定は山本五十六の甥ということにしてある。リベラルな二人の大使の信用を勝ち得るのには最適な設定だ」
「ほんとに……ほんとに省吾なの……?」
「ちょっと残念な姿だけどね」
 真夏の胸に熱いものがこみ上げてきた。
「で……わたしは何を?」
「それはインストールされているだろう。側にいてくれるだけでいい」
「やっぱり……」
「そう、このタイムリープは、かなりの無茶をやっている。真夏が、ぼくのタイムリープのジェネレーターなんだ」
 限界を超えたタイムリ-プをすると急速に歳をとり、やがては死に至る。それを防ぐために必要なのが、ジェネレーターという者の存在。適合者は数千万人に一人。省吾のタイムリープの限界2013年に絞れば、何十億人に一人の割でしかない。頭では理解しているが、心では少し違った感情があった。それを察したのか省吾は、優しくハグしてくれた。
「ただの適合者というだけで、無理ばかりさせて……ごめん。この歴史を変えたら解放してあげられるから、もう少し……」

――解放なんかされなくていい、オジサンになっていてもいい。省吾の側にいられるなら。役に立つなら――

 わたしの心は、省吾への気持ちで溢れそうになった。その時、省吾の体が、一瞬ピクリとした。
「真夏、ヒットした!」
 一瞬、想いを悟られたかと思ったが、省吾は、レトロな無線機に見せかけたCPに飛びついた……。
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