すぎなの風(ノルウェー編)       ∼北欧の北極圏・トロムソから∼

北欧の中のノルウェー、
北極圏でも、
穏やかで住みやすいトロムソから
お届けいたします。

車椅子の母が帰ってきた!

2010-12-10 | 素老日誌

【14日より】

●神社で社を見据える瞳

息子が帰ってきてくれて、
レモンの里に母を迎えに一緒に行ってくれた。

家の駐車場から降りて、
目に入った神社にまず行ってみることにした。

以前、
認知症になった母を元気にしてくれたものの一つに、
神社の掃除があった。

ここ数カ月で近所のに大型ショッピングセンターができ、
うちの前には新しい家が立ち並び、
家の周りの景観が全く変わってしまった。

見違えるような景色の中、
神社は、
母が結婚してからずっとそこにあり、
変わらぬ空間がそこにあった。

神社の中に入ると、
母の眼はキョロキョロするでもなく
何かを見据えるように木々や社を見つめる。

何か頭の中に浮かんでくるものをキャッチしているようにも見える。

それくらい落ち着いて
じっくりと自分の内部と外部とに向きあっているかのような表情だった。

その表情を見ただけで、
私は帰ってきてよかったと思った。

こういうことは、
人の力では到底及ばない力を発揮するものだ。

涙が封じ込めたものを溶かしてくれる

この日、母はとにかく泣いた。

グループホームに行ってから脳梗塞も経験し、
こうして回復するまで、
家を離れていた5カ月、
母は一体どんな想いをしてきたことだろう。

母の涙は、
言葉ではいい表わせないさまざまな想いの結晶だろう。

そして、
封じ込めていたものをきっと溶かしてくれているのではないだろうか?

家の門まで来くると、
車いすに座って立ちつくすように母は言った。

「ああ、うちやなあ」。

母は、覚えていた。
それだけで私はホッとして、嬉しくてたまらなかった。

玄関に入ると・・・

「ああ、帰ってきたんやわ」。
「おかあさん、お帰り!」
「おばあちゃん、おかえり!」

その場で、母は顔を覆って泣き出した。

「帰ってこれたんや。
こんなに迎えてくれて・・・
喜んでくれて・・・
うれしいわ。

ありがとう。ありがとう・・・」

それは、何分ほど続いただろうか。
「もう玄関でお茶にしよか?」なんて、息子が言ったほどだ。


息子が母をお姫様だっこしてくれて、家の中に車いすが入った。
この家が車いすを迎えるのは初めてだ。

キッチンのテーブルについて、またひと泣き。

昨日、「おばあちゃんと食べて」
といただいたシフォンケーキを紅茶でいただく。

こんなふうに母と我が家のテーブルでお茶をすることができるとは・・・
3週間前までは思いもしていなかった。

しかし、母は車いすで帰ってきたのだ。
帰って来ることができたのだ。

コメント
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