すぎなの風(ノルウェー編)       ∼北欧の北極圏・トロムソから∼

北欧の中のノルウェー、
北極圏でも、
穏やかで住みやすいトロムソから
お届けいたします。

さあ、ここからだよ!(14日の続き)

2010-12-13 | 素老日誌

●「人生これからが、本番」に惹かれて

お茶をしてから、
母の部屋に行く。

母の視線は、
壁に貼ってあるものから棚に並んでいるものに移って行った。
そして、
きゅっと視線が止まった。

視線の先には、一冊の本。

「人生、これからが本番」
(日野原重明著、日本経済新聞社)

4年ほど前だった。
あの時も本屋さんの本棚で母の視線が止まったのだ。

買ってきて、
家でとりつかれたように読んでいたものだ。

そして、再びこの日、
母はこの本のタイトルに惹かれたのだ。

この日、何度本を手にとってタイトルを口にしたことだろう。
母のどこかで覚えているのだろうが、
今の母の心に潜むものとも共鳴するからではないだろうか。

そんな母の一面を見ることができたのも私には嬉しいことだった。

「人生、これからが本番」

そのとおりよ。

がんばれ、お母さん!
がんばれ、おばあちゃん!

●家族の賑やかさの中で

後は夕食のなべの準備ができるまで、母は眠った。

息子が買物から帰ってくると、起きようとする。

できないし、やらないんだけど、
以前の母には必ず出てきていた言葉が出た。

「私も手伝うわ。
ああ、嬉し、手伝わせてもらえるなんて・・・」。

そして、ひと泣き。

「人の役に立てると思ったら、
こんなにうれしいことはない」。

これは、認知症になってからの母の口癖だったのだ。

「人の役に立ちたい」。

それは生きている限り母が・・・人が願うことなのかもしれない。

車いすでテーブルについてまたひと泣き。

兄の家族と7人でなべをつつく。

母は、鍋に触らないように気をつけてそっととっている。

母は食べながら話すことはほとんどない。

食べるなら食べるだけ。
とるなら取るだけ。
周りとは無関係のように見える。

それでも、
鍋に近づく暖かさ、
賑やかなしゃべりの中で家族ならではの空気を感じているに違いない。

横になっても流しの音が聞こえ、
人の声がし、呼べば誰かが来てくれる。

狭い我が家だからこそ抱く安心を感じているに違いない。

私はそう思う。

しかし、今晩皆が帰ると残されるのは、
私と母の二人だけ。

さて、ここからだよ。

ゆっくりと二人で過ごすのだ。
きっとそこから見えてくることがある。

ここからだ。

 

コメント
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