私は今、湯河原に住んでいることもあり、隣町の熱海によく行く。そして、行くたびにその繁盛ぶりに驚くとともに羨ましく思う。港では頻繁に花火を上げているし、2年前には駅ビルが完成して買い物や食事に便利になった。
しかし、それで観光客が増えたとは思えない。60年ぐらい前までは、熱海は社内旅行や新婚旅行のメッカだった。それがいつしかダサい雰囲気の温泉街になって観光客が減り、寂れ果てた。その熱海が奇跡的に再生した。どうしてそんな奇跡が起きたのか。
ネットで調べてみると、熱海市役所の職員である山田久貴氏の存在が浮かび上がった。同氏は各テレビ局に働きかけ、旅行番組はもちろん他の番組でも熱海を舞台にすることを提案した。そのホームページ「ADさん、いらっしゃい」によれば、熱海市が提供する支援は次のようになっている。なお、ADとはアシスタント・ディレクターである。
番組の企画に見合うネタ(素材)・施設の情報提供
ロケ先における一般出演者(その道のプロ等)のご紹介、連絡調整
公共施設における撮影の申請補助
ロケバス等の関係車両の移動ルート、待機場所に関する情報と手配
出演者様の着替え・メイク、打ち合わせ場所等のご紹介と手配
ロケ弁等のご紹介と手配
ロケ中のご宿泊先、打ち上げ会場等の情報提供
その他、ロケハンの同行ご案内、ロケの同行・各種手配 etc.
つまり、番組制作の下ごしらえをする部分を熱海市が手配します、ということである。そう言われてみると、熱海をテーマにする旅番組を度々見た記憶がある。それで納得した。
http://www.city.atami.lg.jp/locashien/1001916.html
だが、熱海再生の功労者はほかにもいた。たまたま、図書館で「熱海の奇跡」という本をみつけ、てっきり上述の山田久貴氏のサクセス・ストーリーだと思って読んでみたら、違った。その著者は市来広一郎氏という方で、この本には同氏がいかにして30歳前後の若い層を呼び込むプロジェクトを立案し、実現したかが詳しく述べられている。
そのプロジェクトとは、ゲストハウスMARUYA、歩行者天国でのフリーマーケット「海辺のあたみマルシェークラフト&ファーマーズマーケット」などである。
MARUYAとは、素泊まりのカプセルホテル形式の宿泊施設で、30人の宿泊が可能。その趣旨は共有スペースで宿泊者が雑談し、お茶を飲みながら交流すること。
「海辺のあたみマルシェ・・・」とは熱海銀座の路上で2ヶ月に一度開催するフリーマーケットで、そのキモは熱海で商売したいとか、工房を持ちたいなどという意欲のある人に、その事業を実際にテストする場を提供すること。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56405
最近、熱海に若い人が増えたと思っていたら、こうしたプロジェクトが進行していたのだ!
要するに、熱海では別々のアプローチから再生プロジェクトが進められ、今なお現在進行中というわけだ。全国的に地方の地盤沈下が憂慮されているが、知恵を絞ればV字回復は可能であるこが実証されたと言えよう。