一年目 前夜 第一話「少年バード」
少年は「バード」と呼ばれていた。
無論それは彼の本名ではなかったのだけれど、誰もが彼のことをそう呼ぶものだから、いつの間にか彼自身もそう名乗るようになっていた。
今彼はビルの屋上から大晦日の夜の街を見下ろしていた。
『大崩壊』の日を境に、人々はかつての栄光を失ってしまった。
それでも夜の街には深海魚が海の底を蠢くかのように人々が暮らしているのが見て取れた。
バードはそれを見るのが好きだった。
「バード、明日のことを考えてるのかい?」
そう後ろから問いかけたのはロボだった。
ロボは義理の父親からの虐待によって足があり得ぬ方向に曲がっていて、そのせいでロボットのようにしか歩けなかった。けれど彼は仲間の中で一番すばしこかった。
明日のことというのはバードたち「白の翼団」と敵対する「血塗道化団」の対決のことを指すのはバードにもわかった。
だがバードが考えていたのは別のことだった。
バードの無言を肯定と捉えたロボは黙って彼の横に立った。
「俺たち、勝てるよね、あいつらに」
白の翼団と血塗道化団とは不倶戴天の敵同士だ。血塗道化団の幹部は自分たちのグループに所属しない少年たちに、それはつまり主に白の翼団のメンバーのことだが、「粛清」と称して無用の暴力を加えてきた。
だがそれも限界に近づいてきた。
ロボの問いに今度はバードも、あぁと小さく頷いた。
「ほんと?ほんとにそう思う?」
念を押すように問い直したロボに、バードは「あぁ、勝てるさ」と短く、だが力強く答えた。
「よし、やった。バードがそう言うなら間違いないよね」
そう無邪気に喜んだロボはギクシャクとした動きで飛び跳ねた。
そんなロボを見て、バードは優しく目を細めた。
彼は明日の対決のことは心配していなかった。
白の翼団のメンバーは体の小さい者ばかりだが、ロボを始めとして皆すばしっこい。
彼らがバードの指示に従って、血塗道化団のメンバーを挑発し、逃げ、挑発し、逃げ、それを繰り返してやつらの体力が尽きたところで一斉に反撃に打って出れば、必ず倒せるはずだった。
その夜、バードの心を占めていたのは黒い夢のことだった。
「ちょっと出かけてくるよ」
そうロボに言い捨てて、バードは階下へと続くドアへと向かった。
第二話「黒い夢」へ続く
少年は「バード」と呼ばれていた。
無論それは彼の本名ではなかったのだけれど、誰もが彼のことをそう呼ぶものだから、いつの間にか彼自身もそう名乗るようになっていた。
今彼はビルの屋上から大晦日の夜の街を見下ろしていた。
『大崩壊』の日を境に、人々はかつての栄光を失ってしまった。
それでも夜の街には深海魚が海の底を蠢くかのように人々が暮らしているのが見て取れた。
バードはそれを見るのが好きだった。
「バード、明日のことを考えてるのかい?」
そう後ろから問いかけたのはロボだった。
ロボは義理の父親からの虐待によって足があり得ぬ方向に曲がっていて、そのせいでロボットのようにしか歩けなかった。けれど彼は仲間の中で一番すばしこかった。
明日のことというのはバードたち「白の翼団」と敵対する「血塗道化団」の対決のことを指すのはバードにもわかった。
だがバードが考えていたのは別のことだった。
バードの無言を肯定と捉えたロボは黙って彼の横に立った。
「俺たち、勝てるよね、あいつらに」
白の翼団と血塗道化団とは不倶戴天の敵同士だ。血塗道化団の幹部は自分たちのグループに所属しない少年たちに、それはつまり主に白の翼団のメンバーのことだが、「粛清」と称して無用の暴力を加えてきた。
だがそれも限界に近づいてきた。
ロボの問いに今度はバードも、あぁと小さく頷いた。
「ほんと?ほんとにそう思う?」
念を押すように問い直したロボに、バードは「あぁ、勝てるさ」と短く、だが力強く答えた。
「よし、やった。バードがそう言うなら間違いないよね」
そう無邪気に喜んだロボはギクシャクとした動きで飛び跳ねた。
そんなロボを見て、バードは優しく目を細めた。
彼は明日の対決のことは心配していなかった。
白の翼団のメンバーは体の小さい者ばかりだが、ロボを始めとして皆すばしっこい。
彼らがバードの指示に従って、血塗道化団のメンバーを挑発し、逃げ、挑発し、逃げ、それを繰り返してやつらの体力が尽きたところで一斉に反撃に打って出れば、必ず倒せるはずだった。
その夜、バードの心を占めていたのは黒い夢のことだった。
「ちょっと出かけてくるよ」
そうロボに言い捨てて、バードは階下へと続くドアへと向かった。
第二話「黒い夢」へ続く