この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

伊坂幸太郎はそんなフェアじゃないことはしない。

2016-01-07 21:21:22 | 読書
 正月早々ですが、あまり歓迎したくないコメントがある記事につきました。
 その記事は伊坂幸太郎の著作『残り全部バケーション』が文庫化された折りに書いたのですが、まぁ誤読しやすい作品なので、文庫で初めて読む人のために読み間違えないようにと思って書きました(文才がないので非常に読みにくいです)。
 そのコメントは、他人の想像を否定するべきではないと言いながら、こちらの想像は思いっ切り否定するような、言動不一致の内容でした。
 
 で、その人が、コメントの中である読書ブログを紹介したんですよ。わかりやすい解説が書かれていますよ、といった感じでした(つまり遠回しにあなたの解釈は間違っていると言いたかったのでしょう)。
 正直紹介された読書ブログを読む気にはなれなかったんですよね。
 なぜかというと、自分と異なる考えの意見は読む気になれなかったから、、、ではなく、異なる考えの中に誤った部分があれば、それを訂正したくなるから、です(異なった考え=誤った考えではない)。
 誤りを指摘されてそれを素直に受け入れてくれればいいですが、世の中、そういう人間ばかりじゃないですからねぇ(自分も含めて)。
 でも結局読んじゃいました。
 やっぱり一つの小説に関して、自分と異なる解釈、考えをしている人がいたらどうしても気になりますからね。

 その読書ブログに目を通してまず思ったのは、この管理人さんは本当に伊坂幸太郎のことが大好きなんだな、ってことでした。
 自分もまぁ伊坂幸太郎は好きな作家ではありますが、あくまで好きな作家の1人であって、群を抜いて好きというわけではないですからね。
 そして次に思ったのは、この管理人さんはやっぱり読み間違っているなぁということです。
 伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』は、様々な媒体で掲載されたものを集め、書き下ろし作品を一編加えた連作集です。
 単行本化に際し、伊坂幸太郎は大幅な加筆・修正を行っているのですが、管理人さんはその加筆・修正した部分に何かしら大きな意味がある、と思っているようなのです。そしてその前提の元に文章を書き進めています。
 はっきり言います。
 その前提は二重の意味で間違っています。
 一つ目、伊坂幸太郎に限らず、単行本化に際し、作家が加筆・修正することは珍しくありません(むしろ当然というか)。
 しかしその理由は作家によって、そして作品によって様々です。重要な理由があるのかもしれないし、ただ文章の体裁を整えただけかもしれません。
 加筆・修正した個所に重要なポイントがあるのかどうかは、作家当人に聞かなければわからないことです。
 『残り全部バケーション』で言えば、伊坂本人が加筆・修正した個所には重要な意味があると明言しない限り、誰にも断定できないことのはずです。
 加筆・修正した部分に何かしら大きな意味がある、そう断定した時点で、件の管理人さんは間違っているのです。
 もう一つ、こちらの方が重要なのですが、管理人さんは、二つの媒体に書かれた『残り全部バケーション』を読み比べることで、加筆・修正した部分に重要な意味があるということを確信した、というようなことを書かれています。
 つまり、読み比べなければ、そのことに気づかなかった、ということに他なりません。
 そしていうまでもなく、ほとんどの読者は単行本のバージョンしか読むことはありません。
 仮に、加筆・修正した個所に重要な意味があったとしても、そのことが二つのバージョンを読み比べなければ気づけないものだとしたら、どうでしょう?真っ当な読み物だと言えるでしょうか?
 言えないですよね。
 二つのバージョンを読み比べて初めてわかる意味、初めてたどり着ける真相、そんなものはフェアでも何でもありません。
 伊坂幸太郎はそんなフェアじゃないことはしないと思います。 
 以上が自分の主張です。
 繰り返しになりますが、件の読書ブログの管理人さんの『残り全部バケーション』の解釈は間違っているのです。
 ただ、なぜ間違えたのかは何となくわかります。
 想像ですが、おそらく伊坂幸太郎の著作を、中でも『残り全部バケーション』のことを好きすぎたからではないでしょうか。
 自分は一定の距離を置いているから、客観的な判断が下せて、結果正しい解釈が出来た(と思う)のですけれど、でもどちらが本当に幸せかというと、好きで好きでたまらない小説があることの方じゃないかって思うんですよね。
 自分もいつか、その小説のことを考えると正常な判断が下せなくなる、それぐらい好きになれる小説に巡り合いたいものです。
コメント (3)
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