団塊の世代の世間話

60年を生きてきた思いを綴った「ゼロマイナス1 団塊の世代の世間話」を上梓し、その延長でブログを発信。

初めて席を譲られた

2013-10-24 12:41:23 | Weblog
 人生最初の経験というのは、戸惑いと含羞と複雑な感情が入り混じるものだ。なんだって、初体験? この齢でそれはないが、つまり生まれてはじめて電車の中で席を譲られたのだ。
 いつか来るだろうな、と思っていたが、意外と突然にやってきた。新宿からの丸の内線だった。こちらはキャリーケースを引っぱって先に乗り込んだ。2つ目の駅で降りるから、もともと腰かける気はなかった。横に十代の女の子を連れた中年の男性の二人が立った。女の子は自分の前の席が空いているのに気づいて、さっと座った。ふっと横上に視線を送ると、私が目に入ったのだろう。
「どうぞ」と言って、スクっと立った。私は、たぶん「エッ」という顔をしたろう。
 その間、ほんの数秒なのだが、ようやく私は席を譲られたことに気がついた。「そうか、そうだったのか、私にか」と思い知った。よく見ると、シルバーシートだった。
「いえ、すぐに降りますから」と断った。女の子は、父親らしい男性の横に立ったままになった。席は空いている状態が続いた。
 これが初体験である。帰って女房に話すと、それは座ってあげなきゃあ失礼よ、と当然の如く言う。ところが、こちらは一瞬何が起こったのか分からず、そのまま突っ立っていたのだ。
 とうとうジジイになってしまったね、と二人で笑い合った。女房は私より年上だから、何年も前に譲られていて、もう抵抗感はなかった。もともと座りたガールである。
 女房は席が空いていれば、絶対に座るほうだ。座らなければ損よ、というのが人生訓だ。こっちは、無理には座らないし、ずらりと空いていれば座る程度。だいたいは立っている。齢をとっても、人それぞれである。
 それで考えてみると、シルバーシート、最近はプライオリティシートと書いてあるが、だいたいよく席を譲る人は、十代の女の子と40~50代の女性だろう。中年の女性は相手が恥ずかしくなるほどに大仰に、こっちこっちと招く。
 譲らないのは、20~30代の女性、一般的なサラリーマン男性。どちらかといえば疲れているタイプなのだろう。
 私はあまり座らないが、目の前にそうした人が立ったら迷わず譲ることにしている。別に相手に同情しているわけではなく、座りたい人を優先しているだけだ。知らん顔しているのも面倒である。
 ただかなり身体が疲れている時は、腰が浮かないことはある。ごめんなさいである。席ひとつも、いろいろな人生模様があるものであるが、譲られて当然、というのも困ったものである。
 傲岸な高齢者が多くなっているのは、どうしてだろう。やってもらって当たり前の権利意識が膨張して、自分の身の丈が分からなくなっているのだろう。どんな人でも、いつも感謝の気持ちを持って公共の場所にいる、という意識がほしいものである。

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