一週間に一度、近くのスーパーで買いだめをすることにしている。普段は余計なものはいっさい買わないのだが、今日はレジ前でみつけたキャラクターもののチョコレートを購入した。
先日、彼女達がテレビCMをみて食べたい食べたいと騒いでいたからだ。サユリマユリ姉妹の母親は既製のお菓子を毒物だと思いこんでいて、水商売をしているミカの母親はお菓子類を一切買ってくれず、ユウは話せないので要求できないらしい。
買っていってあげたらみんな喜ぶだろう。誰かのために物を買うというのは嬉しいものだ。
「お……メール!」
部屋に入った途端、携帯メールが入った。
『も~最悪よ~』
美由紀からのメールだった。時々くだらないメールをくれる一番親しい友人だ。
『昨日合コンいったら横内に会っちゃったよ! あいかわらずチャラ男だったよ!』
思わず携帯を落としそうになった。
『あいつしゃあしゃあと「ショウコちゃん元気?」なんて言って、あたしのこと口説いてきたんだよ! 最低! なんか連絡あっても絶対に相手にしちゃダメだからね!』
「……最悪」
だから大嫌いなんだよ、美由紀って。無神経でお節介でお喋りで本当に癇に障る女。
連絡なんてくるわけないじゃない。二年前さんざん待ったよ。こっちからもたくさん電話したよ。でも番号変えられてアパートも引越しされて音信不通になったんだよ。なのにくるわけないじゃない。ばっかじゃないの。
涙が出てきた。もう涸れたと思っていたのに。まだ出るんだ。そろそろサユリ達がくる時間なのにまずいな。気晴らしにお風呂でも洗おう。
でも。お風呂を洗い終わってトイレ掃除をして台所を磨いても、サユリ達はこなかった。もうすぐ四時になる。来なかったことなどこの三週間で一度もなかったのに。
変なメールのせいで思い出さないようにしていた二年前の記憶が蘇ってきた。
リダイアルボタンを押し続けた夜。彼のアパートの前に座り込んだ休日。携帯の電波が圏外にならないように外出もせず部屋にこもり続けた毎日。そして―『処置』が終わったあとに飲んだ紅茶の苦さ。
期待したって何もないのに。期待したって何もないのに。期待した私が馬鹿だった。期待した私が馬鹿だった。何も期待しちゃいけない。期待なんてしちゃいけない。
「こんなものっ」
バンッと音をたててサユリ達に買ってきたお菓子の箱が壁にぶつかって落ちた。喜んでもらえると思って買ってきたお菓子。でもそんなこと期待した私が馬鹿だった。あの子達はもうこないのかもしれないのに。期待した私が馬鹿だった。馬鹿だった。
「……う」
久しぶりに吐き気が込み上げてきた。口の中に嫌な酸っぱさが広がる。胃が背中にくっつきそうだ。部屋の隅に体を押しつけて耳をふさぐ。
誰か助けて。誰か助けて。誰か助けて!
「あ! テレビでやってたお菓子だ!」
「!」
急に、部屋の中が明るくなった。
「これ食べていい? ショーコちゃん」
満面の笑みを浮かべたサユリとマユリ。
「あれ、もうこんな時間なんだ。池田のおじいちゃんのとこに寄ってたらすっかり遅くなっちゃったね」
勝手にテレビをつけてアニメを見始めるミカ。
力が抜けた。いつものまったりとした空気が充満しはじめている。ようやく普通に息ができる。
温かい気配を感じて見上げると、ユウが優しい笑顔でお菓子を差し出してくれていた。その手に触れると柔らかい抱きしめたくなるような気持ちがこみ上げてきた。
「……ありがとう」
ふと、気がついた。あのとき『処置』された子供が生きていれば、ちょうどユウくらいの歳になっているはずだ。
先日、彼女達がテレビCMをみて食べたい食べたいと騒いでいたからだ。サユリマユリ姉妹の母親は既製のお菓子を毒物だと思いこんでいて、水商売をしているミカの母親はお菓子類を一切買ってくれず、ユウは話せないので要求できないらしい。
買っていってあげたらみんな喜ぶだろう。誰かのために物を買うというのは嬉しいものだ。
「お……メール!」
部屋に入った途端、携帯メールが入った。
『も~最悪よ~』
美由紀からのメールだった。時々くだらないメールをくれる一番親しい友人だ。
『昨日合コンいったら横内に会っちゃったよ! あいかわらずチャラ男だったよ!』
思わず携帯を落としそうになった。
『あいつしゃあしゃあと「ショウコちゃん元気?」なんて言って、あたしのこと口説いてきたんだよ! 最低! なんか連絡あっても絶対に相手にしちゃダメだからね!』
「……最悪」
だから大嫌いなんだよ、美由紀って。無神経でお節介でお喋りで本当に癇に障る女。
連絡なんてくるわけないじゃない。二年前さんざん待ったよ。こっちからもたくさん電話したよ。でも番号変えられてアパートも引越しされて音信不通になったんだよ。なのにくるわけないじゃない。ばっかじゃないの。
涙が出てきた。もう涸れたと思っていたのに。まだ出るんだ。そろそろサユリ達がくる時間なのにまずいな。気晴らしにお風呂でも洗おう。
でも。お風呂を洗い終わってトイレ掃除をして台所を磨いても、サユリ達はこなかった。もうすぐ四時になる。来なかったことなどこの三週間で一度もなかったのに。
変なメールのせいで思い出さないようにしていた二年前の記憶が蘇ってきた。
リダイアルボタンを押し続けた夜。彼のアパートの前に座り込んだ休日。携帯の電波が圏外にならないように外出もせず部屋にこもり続けた毎日。そして―『処置』が終わったあとに飲んだ紅茶の苦さ。
期待したって何もないのに。期待したって何もないのに。期待した私が馬鹿だった。期待した私が馬鹿だった。何も期待しちゃいけない。期待なんてしちゃいけない。
「こんなものっ」
バンッと音をたててサユリ達に買ってきたお菓子の箱が壁にぶつかって落ちた。喜んでもらえると思って買ってきたお菓子。でもそんなこと期待した私が馬鹿だった。あの子達はもうこないのかもしれないのに。期待した私が馬鹿だった。馬鹿だった。
「……う」
久しぶりに吐き気が込み上げてきた。口の中に嫌な酸っぱさが広がる。胃が背中にくっつきそうだ。部屋の隅に体を押しつけて耳をふさぐ。
誰か助けて。誰か助けて。誰か助けて!
「あ! テレビでやってたお菓子だ!」
「!」
急に、部屋の中が明るくなった。
「これ食べていい? ショーコちゃん」
満面の笑みを浮かべたサユリとマユリ。
「あれ、もうこんな時間なんだ。池田のおじいちゃんのとこに寄ってたらすっかり遅くなっちゃったね」
勝手にテレビをつけてアニメを見始めるミカ。
力が抜けた。いつものまったりとした空気が充満しはじめている。ようやく普通に息ができる。
温かい気配を感じて見上げると、ユウが優しい笑顔でお菓子を差し出してくれていた。その手に触れると柔らかい抱きしめたくなるような気持ちがこみ上げてきた。
「……ありがとう」
ふと、気がついた。あのとき『処置』された子供が生きていれば、ちょうどユウくらいの歳になっているはずだ。