「昨日、お隣の斉藤さんの家うるさかったでしょ?」
このアパートの大家であり母の妹でもある留美叔母さんが、りんごのおすそわけと共にやってきてそんなことを言い出した。
「そう? 気がつかなかったけど?」
「じゃ、あんたが出かけてた間かもしれないわね。彼女のお兄さんと叔父さんがきて怒鳴りあいしてたのよ」
斉藤さんの実家はすごいお金持ちらしい。私が買い物をするスーパーの近くにある豪邸がその家だそうだ。庭に動物の形をした植木があるのでよく覚えている。
彼女は出来ちゃった婚で家をでたが今は離婚調停中らしい。実家には兄夫婦がいるので家には戻らずこのアパートに住んでいるそうだ。一度だけみかけたことがあるが、二十五、六歳のなかなか印象的な美人だと記憶している。
「何でもね、斉藤さんのお父さんが入院先で遺言書を書いたんだけど、『一番大切な人に預けた』とかいって隠しちゃったんだって。彼女は一番かわいがられてたから預かってるんじゃないかって疑われてるらしいの」
叔母さんは何だか楽しそうだ。
「昨日はイサムくんも怯えちゃって大変だったそうよ」
「イサムくん?」
誰それ?
「斉藤さんの子供よ。今三歳くらいかな。みたことない?」
「ないよ。声も全然聞こえないよ。このアパートにミカとユウ以外に子供なんていたんだね。知らなかった」
「え?」
訝しげに叔母さんが首をかしげた。
「ユウって誰? ミカちゃんは吉川さんのとこの子よね? あとはイサムくんしかいないわよ?」
「へ? ユウって子いるよね? まだ二歳にならないくらいの女の子」
「いないわよ。私が知らないはずないでしょ」
なんだ。同じアパートだと思ってたのに。
「本当にいない? 結構かわいい子だよ?」
「いないわよ。いやあね。吉川さんみたいなこといわないでよ」
どういうこと?
「あの人、霊感があって普通の人には見えないものが見えるんだって」
それは初耳だ。それではミカが謎めいた感じなのも納得できる。
「あ、占いも得意だからあんたも見てもらったらいいわよ。私もみてもらったけど結構あたるのよ」
「興味ないからいい」
「またそんなこという!」
叔母さんは眉を寄せると母によく似ている。
「何事にも興味ないって一日中部屋にこもりっきりでよくないわよ。それに最近病院にいくのもサボってるそうね。姉さんから連絡あったわよ。あんた姉さんからの電話に全然でてないんだって?」
やっぱりお説教をしにきたのか。
「姉さんがキツイこといいすぎたから謝りたいっていってたわよ。何いわれたの?」
色々いわれすぎてどのことを言っているのかわからない。
「とにかく。あんたを預かってる私の身にもなってよね。たまには家に帰りなさいよ。電車ですぐじゃないの」
「……帰りたくない」
「そんなこといわないの。姉さんはあんたがかわいくてしょうがないのよ。何しろあんたは姉さんが不妊治療十年もがんばってようやくできた子供なんだからね」
とにかく電話に出なさい、と念を押して叔母は帰っていった。
病院にいって「目標をもって生活しなさい。君なら出来る」とか知ったかぶっていわれるのももううんざりだし、自分の理想を押しつけてくる母の愛情ももうたくさんだ。
このアパートの大家であり母の妹でもある留美叔母さんが、りんごのおすそわけと共にやってきてそんなことを言い出した。
「そう? 気がつかなかったけど?」
「じゃ、あんたが出かけてた間かもしれないわね。彼女のお兄さんと叔父さんがきて怒鳴りあいしてたのよ」
斉藤さんの実家はすごいお金持ちらしい。私が買い物をするスーパーの近くにある豪邸がその家だそうだ。庭に動物の形をした植木があるのでよく覚えている。
彼女は出来ちゃった婚で家をでたが今は離婚調停中らしい。実家には兄夫婦がいるので家には戻らずこのアパートに住んでいるそうだ。一度だけみかけたことがあるが、二十五、六歳のなかなか印象的な美人だと記憶している。
「何でもね、斉藤さんのお父さんが入院先で遺言書を書いたんだけど、『一番大切な人に預けた』とかいって隠しちゃったんだって。彼女は一番かわいがられてたから預かってるんじゃないかって疑われてるらしいの」
叔母さんは何だか楽しそうだ。
「昨日はイサムくんも怯えちゃって大変だったそうよ」
「イサムくん?」
誰それ?
「斉藤さんの子供よ。今三歳くらいかな。みたことない?」
「ないよ。声も全然聞こえないよ。このアパートにミカとユウ以外に子供なんていたんだね。知らなかった」
「え?」
訝しげに叔母さんが首をかしげた。
「ユウって誰? ミカちゃんは吉川さんのとこの子よね? あとはイサムくんしかいないわよ?」
「へ? ユウって子いるよね? まだ二歳にならないくらいの女の子」
「いないわよ。私が知らないはずないでしょ」
なんだ。同じアパートだと思ってたのに。
「本当にいない? 結構かわいい子だよ?」
「いないわよ。いやあね。吉川さんみたいなこといわないでよ」
どういうこと?
「あの人、霊感があって普通の人には見えないものが見えるんだって」
それは初耳だ。それではミカが謎めいた感じなのも納得できる。
「あ、占いも得意だからあんたも見てもらったらいいわよ。私もみてもらったけど結構あたるのよ」
「興味ないからいい」
「またそんなこという!」
叔母さんは眉を寄せると母によく似ている。
「何事にも興味ないって一日中部屋にこもりっきりでよくないわよ。それに最近病院にいくのもサボってるそうね。姉さんから連絡あったわよ。あんた姉さんからの電話に全然でてないんだって?」
やっぱりお説教をしにきたのか。
「姉さんがキツイこといいすぎたから謝りたいっていってたわよ。何いわれたの?」
色々いわれすぎてどのことを言っているのかわからない。
「とにかく。あんたを預かってる私の身にもなってよね。たまには家に帰りなさいよ。電車ですぐじゃないの」
「……帰りたくない」
「そんなこといわないの。姉さんはあんたがかわいくてしょうがないのよ。何しろあんたは姉さんが不妊治療十年もがんばってようやくできた子供なんだからね」
とにかく電話に出なさい、と念を押して叔母は帰っていった。
病院にいって「目標をもって生活しなさい。君なら出来る」とか知ったかぶっていわれるのももううんざりだし、自分の理想を押しつけてくる母の愛情ももうたくさんだ。