創作小説屋

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イノセントチャイルド (8/8)

2006年08月30日 01時08分14秒 | イノセントチャイルド(原稿用紙30枚)
 結論からいうと―
 ユウは幽霊なんかじゃなかった。
 ユウの正体はお隣の斎藤さんちのイサム君だった。
 どうやら「勇気のユウでイサム」と紹介されたのをミカのお母さんが勘違いして覚えていたらしい。斉藤さんは勇君を保育所に入れるつもりなのだが、現在空きがなく、今はミカのお母さんにお金を払って面倒をみてもらっているそうだ。
 勇君は普通の子より小柄なので実年齢よりも小さくみられるらしい。言葉も遅く、まだ数語しか話せないそうだ。
 そして顔もかわいらしいのでいつも女の子に間違われているらしい。池田さんが勇君の名前を言わなかったのは、私が「女の子の名前」を聞いたからだ。池田さんにとって勇君は孫なのだから当然男の子であることなど百も承知なわけだ。
 うちの庭に突然現れて消えた理由もわかった。お隣との境目の垣根に小さな子供であれば通り抜けられる隙間があったのだ。
 全ての謎があっさり解けてしまった。なんとも間抜けな勘違いだった。
 でも、大切なことがわかった。
「ショーコちゃん着いたよー。降りるよー」
 ミカが先頭をきって電車から飛び降りた。サユリとマユリも奇声をあげながらそれに続く。
「子犬ってこのくらいかなあ?」
「楽しみだねー」
 出発したときから三人は飽きずに繰り返し同じ話をしている。
 昨日の母からの電話にでたところ、飼い犬が子犬を産んだというので、冬休みに入ったサユリ・マユリ・ミカをつれて実家に遊びにいくことにしたのだ。三ヶ月ぶりの帰省である。自分一人で帰るのは何となくバツが悪いので、子犬をだしに子供達についてきてもらうことにした、というのが本当のところだ。勇君は母親の仕事が休みなので一緒ではない。
「誠実に生きること」
と、池田さんは言っていた。
 逃げていてはいけない、と思った。母からも、自分がしてしまったことからも、自分がされたことからも、これからの自分からも。
「ねえ、うちにいく前に寄りたいところがあるんだけど」
 近所の水子地蔵のある神社にいって、あのときいなくなった私の赤ちゃんに誓うつもりなのだ。
 一生あなたのこと忘れない。もう逃げない。あなたの無垢な魂を背負って私は生きていく。一生懸命生きていく。
「あーあ、ユウにも子犬みせてあげたかったなー」
 ミカが残念そうにつぶやいた。
「それじゃ、一匹もらって帰ろうか。あのアパート動物飼ってもいいからさ」
 提案すると三人は目を輝かせて叫んだ。
「さんせーい!」
 これからは前を向いて歩いていく。



〈完〉
コメント (2)
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