創作小説屋

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イノセントチャイルド (1/8)

2006年08月22日 23時42分36秒 | イノセントチャイルド(原稿用紙30枚)
「ショーコちゃん、携帯なってるよ」
 テレビに夢中になっていたはずのミカがいつのまにか横にいた。栄養失調ではないかと疑ってしまう貧弱な体つきと顔色の悪さとは裏腹に眼光は非常に鋭い。小学校四年生とは思えない大人びた表情をする子だ。
「出ないからいいよ。ほっといて」
 実家からのしつこい電話は無視することにしている。
「ショーコちゃんもママの作ったクッキー食べてー」
 サユリとマユリがテーブルにクッキーを並べている。彼女たちの母親は病的なほど手作りにこだわっていて、姉妹の着ている洋服はすべて母親の手製のものらしい。サユリのオサゲを結っているリボンもマユリのカチューシャも手作りというから驚きだ。ミカと同じ四年生のサユリはお嬢様育ちらしくおっとりとしていて、一年生のマユリはそれに輪をかけてのほほんとしている。
「一番小さいのをちょうだい」
 言うと、ユウが小さなクッキーを持ってきてくれた。二歳くらいのユウは話すことはできないが、こちらの言っていることはほとんど理解できる。特にいつも一緒にいるミカの言うことはよくきく。ミカとユウは私の住んでいるこのアパートの住人らしい。でも姉妹ではないという。
 この四人がどういう関係なのか詳しくは知らないが、彼女達も二十歳を過ぎたいい大人の私が毎日部屋にこもって何をしているのかなど何も聞いてこないので、私も干渉しないことにしている。
 二ヶ月ほど前、人と接したくなくてここで一人暮しを始めたはずなのだが、十二月に入った北風の厳しいある日、アパート前の公園で遊んでいた彼女達があまりにも寒そうだったものだから、つい声をかけて部屋に招き入れてしまったのだ。それ以来、彼女達は毎日学校帰りに私の部屋に入り浸るようになった。もう三週間近くになる。
「ショーコちゃん、ジュースちょうだいね」
「どうぞご勝手にー」
 しかし勝手にワヤワヤ騒ぐだけの彼女達の存在は思いのほか心地よかった。やはり少し人恋しくなっていたのかもしれない。おかげで最近は嘔吐の回数が減ってきた。すごい進歩だ。
コメント
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