創作小説屋

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ベベアンの扉(2/22)

2006年10月02日 22時23分46秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 それ以来、その柿の木のことを密かに『ベベアンの木』と呼んでいた。
 しかしその木も今はなくなっており、かわりに新築らしい大きな家が建っていた。
 洋風の出窓に白いレースのカーテン。ベランダには思いきり日本風の布団が干されている。小さな庭にはカラフルな花々が植えられているが、雑草は伸び放題。どこかちぐはぐな印象を受ける家だ。
「え? 緑澤?」
 その家の表札をみて思わず手を口にあてた。しかもその下に『一・多恵子・達之・和也』とある。
 郷里で会いたいと思っていた唯一の人の名が『緑澤達之』なのだ。
 達之は中学校の近くのマンションに住んでいたはずなのだが、こちらに引越しをしたのだろうか?
「うちに何か用ですか?」
 突然、真横から声をかけられて飛び上がってしまった。
 振り返ると達之によく似た少年が立っていた。
 それで確信した。ここは達之の家で、この少年は弟の『和也』なのだろう、と。
「あの、私、お兄さんの……」
「ああ、お兄ちゃんのお友達?」
 少年はけだるそうに門をあけた。白い洋風の門なのだが、薄汚れていて古くみえる。
「お兄ちゃんはベベアンに行っちゃったからうちにはいないよ」
「え?」
 ベベアン?
 聞き返そうとしたが、
「達之。おかえりー」
 母親らしき人の声にかき消された。ベランダから中年の女性が顔を出している。きちんとメイクをした綺麗な女性だ。
「はーい。ただいまー」
 少年が間延びした声で答えた。
「達之って……」
 お兄さんのことでしょ、と言いかけると、少年は少し首をすくめ、
「うちの母さん、オレのこと兄ちゃんだって思いこんでるんだよ」
 じゃあね、と手を振って家の中に入っていってしまった。
「あなた、うちに何かご用?」
 上からきつい声が降ってきたので、私もそそくさとその場を立ち去った。心臓の速度が速まっているのが自分で分かった。
 ベベアン、と和也は言った。小学校の時に見た高校生のように達之も消えてしまったのだろうか?
 和也に真相を確認したい、と思ったのだが、インターフォンを押す勇気はでなかった。


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更新していないのに見に来てくださっていた方々、本当に本当にありがとうございます!!

全部書き終わってからアップしていきたかったのですが、書いても書いても終わらないので、チビチビとアップすることにしました・・・。
追いつかれないようがんばります

今後ともよろしくお願いいたします。

コメント
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