創作小説屋

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ベベアンの扉(3/22)

2006年10月04日 14時14分09秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 六年ぶりの生家もすっかり変わっていた。
 水色だった家の壁はクリーム色に、青い屋根は茶色に塗り替えられており、殺風景だった庭は美しい花で彩られている。雑誌のガーデニング特集で紹介されてもおかしくないほどかわいらしい造りである。
 家の中もかなり変わっていた。カーテンはすべて白や黄緑といった明るい色。ソファやテーブルもすべて変えられていて、まるで印象が違う。おかげで懐かしいという感情はひとかけらも現れなかった。
 生家は予想通り居心地が悪かった。
 父はずっと目を合わせないし、父の再婚相手の優紀子さんには必要以上に気を使われた。今春から小学生になる母親違いの妹の萌だけが無邪気になついてくれた。
 夕食中、ふと萌が私に言った。
「七重さんはパパのシンセキなんでしょ? 誰の子供なの? シンジおじちゃん?」
「萌っ」
 優紀子さんが慌てて制したので、思わず鼻で笑ってしまった。やはり私が姉だと話していないんだ。何も言えない父と優紀子さんに代わって萌に言ってあげた。
「私はね、萌ちゃんのパパの妹の子供のおじいちゃんのお姉さんの子供のいとこの子供なのよ」
「え? もう一回言って!」
「そんなことより、さっさと食べてさっきのゲームの続きをしようよ」
「え~・・・」
 父は気まずそうにうつむいたままだ。
 家に泊まれといってきたのは父と優紀子さんの方なのに、全然受け入れるつもりないんじゃないか。やっぱりホテルにでも泊まればよかった。

 萌の部屋は元々は私の部屋だった。でもここもまったく面影がない。あえて言えば……怒りにまかせて笛をたたきつけた壁の傷が残っているくらいだ。
 私は隣の客室に通された。ここはさすがに変わっていなかった。
 優紀子さんが布団を用意してくれながら、わざとらしいくらいの明るい声で言った。
「七重ちゃん、明日、お父さんもお休みだし、みんなでどこかに行きましょうか?」
「いえ……友達と約束があるので」
 嘘である。でも優紀子さんは、あら残念ね、でも楽しんできてね、とホッとしたように言って部屋から出ていった。
 結局、このお泊まりは、父と優紀子さんの自己満足につきあわされたということか。妹にも話してくれて、家族、とまではいかなくても、家族に近い家族として受け入れてくれるのかと、ちょっと期待していた自分に嫌気がさしてきた。
 ここにもやっぱり自分の居場所はない。
コメント
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