創作小説屋

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ベベアンの扉(12/22)

2006年10月14日 20時42分53秒 | ベベアンの扉(原稿用紙73枚)
 明け方、また夢を見た。
 夢の中の私は、和也と一緒に緑澤君の部屋の窓から外をみている。
『はやくおいで』
 またあの声が聞こえてきた。
『ここにくれば幸せになれるよ。みーんな幸せになれるよ』
『赤い物を投げて、呪文を唱えて』
『そうすれば扉が開くよ』
 和也が無言で赤い小さなボールを窓の外に向かって放り投げた。
 すると、まぶしい光があたりを包み込み・・・窓の外に大きな扉が現れた。ヨーロッパのお城にでもついているような扉だ。
「呪文・・・」
 和也がぼんやりとつぶやいた。
「呪文って、あれかなあ・・・。お兄ちゃんが言ってた。ベベ・・」
「ダメ!」
 ダメだ。言ってはダメだ。扉が開いてしまう。扉の向こうに連れて行かれる!
「ダメだよ! 和也君!」
「七重さんも僕も、家に居場所がないじゃない。だから一緒に行こうよ。幸せになれるって言ってるよ」
「でも・・・」
「お兄ちゃんもあっちにいるよ。一緒に行こうよ。この世界に居場所はないんだから」
 グッと和也に腕を引っ張られる。
「じゃあ、呪文を言うよ。ベベ・・・」
 ピピピピピピピピピッ!
 突然、大きな音がした。まわり中に響き渡る、携帯電話の呼び出し音。
「メールだ・・・」
 携帯メールの着信音だ。きっと友達からだ。今日の集合時間の件に違いない。
 そう。そうだ。友達・・・。
「七重さん? 行くよ」
「ダメ!」
 やっぱりダメだ!
 和也の腕を振り払って叫んだ。
「居場所は自分で作るものだよ! 家にないのなら、外に作ればいい! こんな扉の中に入ったら一生出てこられなくなるよ!」
「じゃ、いいや。僕一人でいくよ」
 和也がふいっと私から離れた。ダメだ!
「ダメ!」
 ダメダメダメダメダメーーーーー!
「!」
 自分の声で目を覚ました。
 リアルな夢だった。ものすごい冷や汗をかいている。
「あ、メール・・・」
 手元に置いておいた携帯が、着信を知らせるランプを灯している。夢の中で聞こえた音は本物の着信音だったんだ。
『上京組の会合は、6時半、渋谷ハチ公前で変更なしだよ! こられるよね? PS.噂の彼とは会えたの~?!』
 高校の友人からだった。
『まだ会えてないんだよ。弟とは会えたんだけどね。待ち合わせ時間、了解です』
 返信するとすぐに返事がもどってきた。
『今日中に会いなさい!! それで連れてきてよ~。期待して待ってるぞ』
「期待されてもねえ」
 おもわず笑ってしまった。卒業しても変わらないノリが何だか嬉しい。笑っていたら、涙が出てきてしまった。
 長野の高校で出会った友人達は、無口な私を自然と受け入れてくれた。私は初めて居心地の良い場所を得ることができた。彼女たちのおかげで、家に居場所がない寂しさからも解放されていた。
 そう。私には居場所がある。
『がんばって探してみるよ。じゃ、後で!』
 返信して、決意を新たにした。
 緑澤君に会わなくては。
 彼のおかげで私は変われたのだ。彼の花火のおかげで、両親と向き合い、長野行きを決意できた。長野の中学では、緑澤君が思っていた私になりきって、毅然とした態度を貫いたおかげでイジメになんかあわなかった。そして高校で最高の仲間と出会えた。
 今、緑澤君が困っているのなら、今度は私が彼を助けてあげたい。

コメント
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