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(BL小説)風のゆくえには~自由への道4-3

2015年01月14日 13時53分32秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道

 どこにいけば浩介先生に会えるんだろう? 家も知らない。大学の場所も知らない。
 思いついたのは隣の駅。歩いて行ってみよう。こないだみたいに先生がケイを待っているかもしれない。

 若干迷いながらも頑張って歩いて、なんとか隣の駅についた。
 ちょうど先週の今日、由美ちゃんと一緒にいたのと同じくらいの時間だ。
 ここにいれば、会えるかも……。

 期待を胸に、先生が立っていた場所に立ってみる。
 飛び出してきてしまったから、上着を着ていなくて寒い。

 目の前を人の波が何重にも通り過ぎていくけれど、先生は現れない。
 寒い……。

「浩介先生……」
 私のせいでバイトを首になったなんて……先生怒ってるかな。怒ってるよね……。
 油断してると涙があふれてきそうになる。

 人の波をにらみ続けて、どのくらいたっただろう。

「希衣子ちゃん?」

 呼ばれてビックリして振り返ると、大輪の華のような女性が立っていた。大きな目が驚いたようにますます大きくなっている。

「あかねさん……」
「寒そう~~~ほらこれ、貸してあげる」
「あ、いえ、だいじょう……」

 ぶ、と言い終わる前に、あかねさんのしていた鮮やかなコバルトブルーのショールでグルグル巻きにされた。
 温かい……。

「どうしたの? こんな時間にこんなところで……」
「浩介先生に……」
「浩介センセ?」
「謝らないと……」
「謝る?」

 こっくりと肯くと同時に涙がボロッとこぼれた。
 あかねさんは大きく瞬きをすると、そっと抱き寄せてくれた。


 それから駅の近くの喫茶店に連れていかれた。
 もうclosedの札がかかっている扉を気にせず開けるあかねさん。

「あれ?」

 モップを手に持った男の人がキョトンと振り返った。
 浩介先生だ。浩介先生。

「希衣子ちゃん?」
「浩介先生……」

 止まったはずの涙がまた出てきた。浩介先生が慌てたように駆け寄ってくる。

「どうしたの?! あかねサンに何かされた?!」
「ちょっと! ほんっと失礼よね、センセー」

 あかねさんが長い足で浩介先生を蹴る真似をした。

「なんかしたのはセンセーでしょ。希衣子ちゃん、話があるんだって」
「そうなの? どうしたの?」

 浩介先生の優しい瞳。
 わっと泣き出したい衝動をどうにかこらえて、話し出そうとした、その時。

「……あ」
 奥の扉が開いた。入ってきた人をみて、心臓が跳ね上がる。

「あれ? あかねさん? ……と?」
 こちらをみて不思議そうな表情を浮かべた綺麗な男の人。浩介先生の恋人、ケイ、だ。

**

 渋谷慶さんは、想像していた人とは全く違っていた。
 その外見から勝手に、女性っぽくてフワフワした人なのかと思ってたんだけど、全然そんなことなくて、むしろ浩介先生よりも男っぽくてサバサバした人だった。
 そういえば、浩介先生が「男らしい人」って言ってたな、と思いだした。

 慶さんが真っ先に言ったことは「おうちの人に連絡しなさい」ってことだった。
 私が全力で拒否したら、慶さんがあかねさんに電話してって言って、あかねさんがうちに電話してくれた。ママ、泣いていたそうだ。もうすぐパパが帰ってくるから、そうしたらパパを車で迎えにいかせると言っていたらしい。

「もうレジ締めちゃったから何も出せなくてごめんね」
と、慶さん。そして、閉店作業があるからと言ってカウンターの中に引っ込んでいった。気をきかせてくれたんだろうな。

 一番奥の、通りからは見えない席に浩介先生と向い合わせに座る。少し離れたところであかねさんが足を組んで座っている。どこにいても絵になる人だ。

「先生」
 意を決して先生を正面から見返す。

「ごめんなさい。私のせいで、家庭教師のバイト首になって……」
「希衣子ちゃんのせいじゃないよ?」

 悲しいほど優しく浩介先生が微笑む。胸が痛む。

「だって……」
「これは、おれの責任。おれが悪いんだよ」
「なんで……っ先生は何も悪いことしてないのに!」

 私が叫ぶと、浩介先生は急に1、2……と指折り数えだした。

「おれが希衣子ちゃんの家に行くようになって、もうすぐ7ヶ月だよね?」
「……うん。それがなに?」

 首をかしげると、浩介先生があっさりとした口調でいった。

「やっぱりおれの責任。7ヶ月もあったのに、希衣子ちゃんのお母さんの信用を得られてなかった」
「そんな……っ」

 あのババアの凝り固まった頭を崩すなんて何年あっても無理!

「おかしいよ、そんなのっ」
「いや……」

 浩介先生が勉強を教えるときのように、コツコツとテーブルを軽くたたいた。

「少数派の人間は、多数派の理解を得るための努力を惜しんでは、多数派の社会では生きていけない」
「は?」
「まず一人の人間として信頼を得ること。それから理解してもらう努力をする」
「……はい?」

 少数派?多数派?何言っちゃってんの?
 ぽかんとした私に、浩介先生がニコリと笑う。

「これ、慶とおれが出した結論。なかなか難しいけどね。実際、隠してないといけないことの方が多いし」
「そんな……」

 そんなの悲しすぎる。理解してもらう努力? なんで? こんなにお似合いなのに?

「ねえ、先生、私、ママにもう一回かけあうから、だから……」
「希衣子ちゃん」

 ポンポンと頭をたたかれた。思わずきゅんっとなる。

「ありがとうね。すごく嬉しい」
「先生……」
「だけど、もう決まったことなんだ。それにね、もう次のバイトも紹介してもらってて」
「え?!」

 さっきのモップ……もしかしてっ。

「ここでバイトするの?! 先生やめちゃうの?!」
「ああ、違う違う」

 あはは、と浩介先生が笑う。

「ここは慶のバイト先。今日、一人で閉店作業するっていうから手伝ってただけ。いつもは他のバイトの人もいるからおれは先に出て駅で待ってるんだけど」
「ああ……そうなんだ」

 ホッとした。あんなに教えるの上手なのに、先生辞めちゃうなんてもったいないもん。

「今度は塾の講師をすることになったんだよ。学校に行くのが難しい子をフォローする塾なんだ」
「へえ……」

 浩介先生ならどんな子でも上手に教えられるんだろうな。

「浩介先生の塾、私も行きたい」
「ごめんね。中学生対象の塾なんだ」

 ………ちぇ。

「希衣子ちゃんは今まで通り頑張って。坂本先生にはちゃんと引き継いであるから」
「………あの人、暗いからヤダ」
「誠実で良い人だよ?」
「ヤダ」

 誰でもヤダ。浩介先生がいい。

「もうヤダ。全部ヤダ。もう、ママのいうこと聞くのも疲れた」
「希衣子ちゃん………」
「希衣子ちゃん」

 ふいにあかねさんが立ち上がると私の横に座った。
 怒られる?とドキッとしたけれど、そんなことはなく、あかねさんは一度優しく私の頭をくしゃくしゃっとすると、きっぱりと言い切った。

「子供は親に逆らえないよ」
「…………」

 そんな……

「食費も住居費も学費も、全部親が出してくれてる。親が子供を扶養する義務があるうちは、子供も親に従う義務がある」
「…………」

 じゃあ、子供の意見は?主張は?希望は?

「子供の意見が通るのは、親の許容範囲内でだけ。自由になりたかったら、家から出て自立するしかないの」
「自立……」

 あかねさんの大きな目には、冷静な光が灯っている。

「囚われの身である今は準備期間だと思いなさい。親の力を利用して、一人で生きていくためのスキルを身に着けるの」
「一人で生きる……」

「そして、時がきたら、自由への道をいく」

 自由への道。
 時がきたら、私はママから逃げ出すのかな? ママは……私を手離してくれるのかな。

「だから今は親に服従しているフリをすればいい。それで……」
「あかねサン」

 ちょっと困ったように浩介先生があかねさんを制する。

「希衣子ちゃんはまだ高校一年生だよ」
「16歳でしょ。立派な大人よ。女の16っていったら結婚だってできるんだから」
「それはそうだけど、でも……」

 二人の言い争いが始まろうとしたところに、

「お父さん、いらしたみたいだよ」
 慶さんが現れた。店の横に車が止まったという。

「じゃあ、希衣子ちゃん」
 浩介先生に再びポンポンと頭をたたかれる。………先生、それ、反則だよ。

「来てくれてありがとうね。お別れの挨拶できなかったことが心残りだったから余計に嬉しかったよ」
「お別れの挨拶って……」

 じわっと再び涙がにじんでくる。

「私、もう先生に会えないの?」
「そんなことないよ」

 あかねさんがピュッと何か差し出してきた。……名刺?

「お母さんの手前、直接は連絡取りにくいでしょ? だから会いたくなったら私に連絡して。セッティングするから」
「あかねさん……」
「あかねサン?」

 浩介先生が言うと、あかねさんの長い足が再び浩介先生に繰り出された。

「何よその目はっ下心なんてないわよっ」
「何もいってないでしょっ」

 二人のやり取りに涙が引っ込む。この二人、本当に仲良いんだなあ。ちょっと妬けてしまう。慶さんは気にならないのかな。

 そこへ、カランカランとドアが開く音がした。パパの声がする。

「じゃ、先生、あかねさん……」
「頑張ってね」

 浩介先生の笑顔。忘れない。絶対忘れない。
 もらった名刺を握りしめて、2人に深々と頭を下げてから出口に向かう。

「希衣」
 パパが心配そうな顔をして立っている。優しい優しいパパ。何でもママの言うなりのところ、パパに似たんだろうな私……。

 その横に立っている慶さんに頭を下げる。

「慶さん……ありがとうございました」
「今度は営業時間内においで。おいしいケーキがあるよ」
「はい」

 慶さんはやっぱり綺麗。人形みたい。でも、その瞳の輝きは人形のものじゃない。しっかりとした強い意思のある輝きだ。
 きっと浩介先生は、慶さんのそういうところが好きなんだろうな。私もこんな風になれるかな。

 自由への道。自由への道……。

 まだ、一人で生きていく勇気なんてない。
 でも、いつか、自分の思った通りに生きていく日がくるのかな。
 そうしたら、きっと……。


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希衣子ターン、ようやく終了。なんか時間かかった……。

次は浩介ターン。さらに時間かかりそう。
実は、浩介ターンのラストはもう先に書いて保存してある。
この「自由への道」書き始めようと思った時に我慢できなくて書いちゃったの。
そこまで行くのが、つらい道だなあーーー。頑張れ浩介。


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