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(BL小説)風のゆくえには~自由への道3-3

2015年01月08日 13時27分43秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道

 女の子の情報網は恐ろしいほど素晴らしい。
 サークルの女の子達に『カウンターの君』の情報を求めたところ、名前、通っている大学名、バイト先まで調べてくれた。

 彼が所属するボランティア団体まで紹介してくれ、話の流れから、私もそのボランティアに参加することとなった。
 日本語が不自由な子供たちを集めて塾のようなことをしている団体らしい。私が頼まれたのは、絵本の読み聞かせだ。

 紹介してくれた女の子も、一度このボランティアに参加したことがあるそうで、

「『カウンターの君』の印象変わりますよ……」

 と、ガッカリしたように言っていた。

 どういう意味だろう?という疑問は、会場についてすぐに分かった。

 喫茶『アマリリリス』にいるときの彼は、寡黙で物憂げで影のある青年、という印象。
 でも、ここでの彼は、元気で明るい。子供好きなんだろう。皆に囲まれて楽しそうだ。

「浩介先生ー、ちょっといいー?」

 今日の責任者の中年女性が『カウンターの君』を呼んでくれた。

「はーい」

 思ったよりも若干高めの声。アジア系のかわいい女の子を腰にぶらさげたままこちらに歩いてきた『浩介先生』は、

「…………げ」

 私を見て、「げ」と言った。絶対言った。なんなんだ!?

「今日読み聞かせに入ってくれる、木村あかねさんよ。浩介先生、色々教えてあげて」
「はい」

 げ、と言ったことはなかったことのように、にっこりと返事をした浩介先生は、はりついた笑顔のまま、私の方に振り返った。

「よろしくお願いします。桜井浩介です」
「……お願いします」

 そして。これからの流れをザーッと説明してくれると、そそくさと行ってしまった。
 何となく、避けられている気がする。だいたい、あの「げ」は何だったんだ。

 その後も、見られている気配を感じて、そちらを見るとパッと視線をそらされるということが数回。その視線も友好的とはいいがたいものだから余計に気になる。思い返してみれば、喫茶『アマリリリス』にいるときも、これと同じような視線を感じたことがある気がする。

 なんなんだ……という疑問の答えも出ないまま、読み聞かせの時間になった。

 頼まれた本は「白雪姫」。

 私の古傷に抵触する話なのでできればご遠慮願いたかったのだけれど、プロとしてそんなこと言わない。完璧にやってみせる。

 はじめはソワソワしていた子供たちが、すぐに物語に引き込まれていくのが分かった。他のボランティアさん達も食い入るように見てくれている。

 私は演じることが大好きだ。別人になれる瞬間。
 娘に嫉妬する母親。純真無垢な白雪姫。姫を崇拝する小人たち。そして、姫を生き返らせてくれる王子様(死体にキスをする変態王子だ)。

 白雪姫が王子と結ばれるハッピーエンド。
 読み終わると、わっと拍手が起こった。子供たちの目がキラキラしている。

(子供って、かわいいな)

 初めて生まれた感情だった。
 でもそのあと、子供たちにさんざんまとわりつかれて、若干辟易してしまったことは内緒にしておく。


 ボランティア終了後、帰路につこうとしたところで呼び止められた。浩介先生だ。

「あかね先生!今日はありがとうございました!」

 打って変わった友好的な笑顔。元気な声。

「おれ、すっごい感動しました!また是非よろしくお願いします!」
「はあ……」

 あまりもの変わりように毒気を抜かれてしまう。こいつ、どの顔が本当の顔なんだろう?

「あの……」
 気になることはすぐに解決しないと気が済まない。ニコニコしている浩介先生に直球を投げる。

「今日、はじめに私を見て『げ』って言いましたよね? 何でですか?」
「…………」

 うっと詰まったような顔をした浩介先生は、頭を深々と下げ、

「……スミマセン」
「いや、謝ってほしいわけではなく、理由を知りたいんですけど?」

 浩介先生の目が一回転する。

「……スミマセン。理由は言えません」
「はああ?!」

 意味が分からん!!!

「もしかして、私が渋谷慶君をデートに誘ったから?」
「…………」

 イエスともノーとも言わない。困ったように天を仰いでいる。……ムカつく。
 再び超直球を投げてやる。

「あなたたち、付き合ってるんでしょ?」
「…………」

 すると、すっと視線が下りてきた。驚くほど冷静な瞳。怖いくらい。

「付き合ってません」
「ふーん?」

 まあ、いいや。今日はこのくらいにしておいてあげよう。

「これから『アマリリリス』行く? 一緒に行かない?」
「行きますけど、あなたと一緒には行きません。失礼します」

 ぷいっと浩介先生は行ってしまった。どうやら怒らせてしまったらしい。なんだかキャラのつかめない奴だ。ますます興味がわいてきた。


 浩介先生とは初めはギクシャクしたものの、ボランティアでしょっちゅう顔を合わせるようになってからは、普通に話しをするようになった。ボランティアの仲間の一員として認められた感じだ。アマリリリスにいるときと違って、ボランティア活動での浩介先生は明るく饒舌だ。


 夏休み。
 2人が申込みしていた自動車免許の合宿に私も参加することにした。締切日ギリギリの申し込みだったけれど、無事に同じ日程で予約を取ることができた。浩介先生が渋い顔をしていたことには気がついていないことにする。

 合宿は、免許を取る、という同じ目的を持つことによる連帯感からか、参加メンバーたちとはすぐに打ち解けることができた。仲良くなった十数人で毎晩のように宴会を行ったりして、なかなか楽しい日々。

 で。一週間ほどたった、ある夜の宴会中、2人が別々にコッソリと集会室を抜け出したのを、私は見逃さなかった。スリッパを脱いで、足音を立てないように2人を探していたら……すぐに見つかった。
 いや。見つかった、どころではない。めちゃめちゃ激しいキスシーンを目撃してしまった。

「見ーーーちゃった♪」

 声をかけると、慶君が転がるように浩介先生の膝から飛び降りた。浩介先生も呆然としている。

「これで言い逃れできないわよ?浩介先生? 前聞いたときはきっぱり否定したけど、本当は2人、付き合ってるんでしょ?」
「…………」

 浩介先生がムッと押し黙る。
 すると。慶君が、え? と浩介先生を振り返った。

「お前、否定したの? 意外……」
「だって」

 ムーっとしたまま、浩介先生が言う。

「安倍に言われたじゃん。店の客には絶対にばれないようにしろって」
「ヤスが? ああ、そういえばそんなこと言ってたな」

 ヤス、というのは、アマリリリスの店長の甥っ子で、慶君を紹介した人物らしい。

「だから浩介先生、お店では全然しゃべらないの?」
「……………うん」

 ポリポリと頬をかく浩介先生。

「しゃべるとボロがでそうで……」
「なるほどね……」

 寡黙で影のある青年の正体ここにあり。

「あ、『げ』は? やっぱり私がデートに誘ったから?」
「まだその話覚えてたの?あかね先生、しつこいね……」
「失礼ね。気になってるのよっ」
「げってなに?」

 かわいく眉を寄せた慶君に、ボランティア初日に「げ」と言われた話をすると、慶君は呆れたように浩介先生を小突いた。

「おっ前、初対面の人に失礼だなー」
「だーーーって!それは!」

 ぷうっとふくれ顔を作る浩介先生。また、初めて見る顔だ。

「慶が悪いんでしょーっ」
「なんでおれが……っ」
「だって……」

 口を尖らせたまま浩介先生が言う。
 
「一番はじめ、慶があかね先生に……」
「それはっ」
「え? 私?」

 なんだなんだ?

「慶がデートに誘われることなんてしょっちゅうだから気にしてないよ。誘われても慶はいつも断ってくれてるし。でもあかね……」
「お前っ本人目の前にっ」

 慌てたように慶君が白い手で浩介先生の口をふさぐ。

「え? なになになに?」
「何でもない何でもないっ」

 三人でわらわらとしていたところに、宴会メンバーが飲み物を買いにおりてきたので、この時はこれ以上は聞けなかった。
 で。後日、浩介先生を問い詰めたところ、なんとか白状した。
 なんでも、私が初めてアマリリリスを訪れた時に、慶君が私にみとれたそうで。それで浩介先生は私に対して一方的に敵愾心を持っていたらしい。

「慶君、かわいい~~~。男でなければ襲っちゃうんだけどな~~」

 そういったら、浩介先生にものすっごい殺意のこもった目で睨まれた。怖い怖い……。


 私も同性愛者であることをカミングアウトしたら、浩介先生はボランティアの行き帰りなどに慶君の話をよくするようになった。今まで誰にも話せなかったから話せて嬉しいらしい。のろけ話ばかり聞かされるのもしゃくに触るので、私も綾さんの話をしている。考えてみれば、私も綾さんのことは誰にも話していないので話せて楽しい。

 そのうち浩介先生に綾さんのこと紹介してあげよう。


--------------


あかねターン終了!!
次回からは、希衣子ターン。


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