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(GL小説)風のゆくえには~光彩3-5

2015年03月17日 09時58分44秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 満ち足りた、幸せな気持ちで目が覚めた。こんな穏やかな気持ちで目覚めたのは久しぶりな気がする。

「ん……綾さん?」

 隣にいるあかねが寝ぼけたように私を引き寄せた。私もぎゅっとあかねに抱きつく。

 今日、何曜日だったっけ?
 学校休み? サークルは? バイトは……

 眼鏡をしていないから何時なのかも見えない。
 でも、カーテンの隙間から漏れる日射しはもう朝のものではない気がする。

「……綾さん? 起きるの?」
「………今、何時?」
「んーーー、もうすぐ11時、かな……」
「11時……ずいぶんゆっくり寝ちゃった……」

 あかねのすべすべとした足に、自分の足を絡ませる。離れないようにたくさんくっついていたい。

「長い夢を見てたの」
「夢?」

 あかねが優しく頭を撫でてくれる。気持ちいい……。

「そう。長い夢。あかねが……」
「私が?」
「…………………」

 はた、と気づいた。

 違う。夢、じゃない。

 ようやく頭が働いてきた。
 ここどこ? ……あかねの部屋。
 そう、あかねの部屋。だけど、違う。
 ほとんど変わってないけど、違うでしょ?
 だって…………

「うそっ」
 勢いよく起きあがり……自分が何も着ていないことに気がついて、慌てて再び布団にもぐりこむ。

「どしたの?綾さん」
 きょとんとしているあかね。

 そうだ。昨日……ええと……。

 一気に昨日の記憶がよみがえってきた。


 あかねの部屋でケーキとワインをいただいた。
 まるで私が来ることが分かっていたかのような準備の良さ…。

「毎年、綾さんの誕生日の前日の夜にはケーキを買って、いつ綾さんがきても大丈夫なようにしてたんだ~。けなげでしょ? 私」
「……………」

 なんかウソっぽい……。

「あ、信じてない」
 クスクスと笑うあかね。
「本当なのにな~。毎年毎年色々妄想してたんだよ~。だからさっき綾さんがベンチに座ってるの見たときには、ついに幻覚まで見えるようになったのかと思ってちょっと焦ったよ」
「……ずっとここに住んでたの?」
「そうよ? 約束したでしょ?」
 あかね………本当に変わっていない。

「お誕生日おめでとう。綾さん」
 ソファに並んで座って、ワイングラスをかたむける。チョコレートケーキに合うのは赤の甘口、と力説するあかねがなんだか可愛いかった。とりとめもない話をたくさんした。故意に家族の話は避けた。 

 グラスが空になったところで、あかねがふと真顔になった。ドキッとする。

「………綾さん」

 手を取られ、

「!」
 個人面談の時と同様、思いきり振り払ってしまった。
 あかねが、バタリと床に倒れる。

「あ、あかね?!」
「…………ダメですか……」

 ボソボソと声がする。

「やっぱりもう望みはないんでしょうか……」
「あかね………」

 あかねはゆっくりと起き上がり、膝を抱えて座り込んだ。

「綾さん……私のこと嫌い?」
「そんなこと………」

 あるわけないじゃない……。
 あかねは独り言のようにブツブツと続ける。

「個人面談の時振り払われて、あーやっぱり諦めなくちゃいけないのかーと思ったんだけど、運動会で再会したらやっぱり抑えられなくて再アタックしてみたわけですが……」
「え………」
「今日ももう電話しないでって言ってたもんね……。やっぱり個人面談の時点で諦めなくちゃいけなかったのかあ。あの時も思いっきり振り払われたもんなあ……」

 それって……

「……それで面談のあと何も連絡くれなかったの?」

 思わず言ってしまって、あ、と口を閉じたが遅かった。あかねの目が大きく見開かれた。

「え、綾さん、連絡待っててくれてたの?」
「……………。幻滅されたのかと思ってた」
「幻滅? 何に?」
「私に」
「え? 綾さんの何に?」
「……おばさんになっちゃったから」
「………」

 あかねが私の横までスススッと寄ってきた。

「綾さん、変わってないよ。あ、変わってないっていうのは語弊があるな」
「うん。だから……」
「前よりも、艶っぽくなった。色っぽくなった。魅力が増した」
「………ウソばっかり」
「ホントだよ。……綾さん?」

 あかねが再び手を取ろうとするので、後ろに隠す。

「なんで隠すの」
「だって、私の手、もう前と違うから。節ばっちゃってて、カサカサで、シミもできてるし、それに……」

 汚れてる。私の手は汚れてる。

「だから、あの時も今も振り払ったの?」
「…………」

 黙ってうつむくと、ぎゅううっと抱きしめられた。

「かわいいなあ。綾さん」
「……かわいくないわ」
「かわいいよ」

 あかねの瞳、あかねの声に熱が帯びてくる。
 顔を寄せてこようとするのを、

「……ダメ」
 そっと押し返した。

「なんでー?! 今、絶対オッケーの雰囲気だったでしょ?!」
 あかねがムッとふくれる。

「だって……」
「なに? 生理?」
「…………違うけど」
 その発想がおかしくてちょっと笑ってしまう。
 あかねは首をかしげ、

「じゃ、いいじゃない? 何か問題でも?」
「問題だらけよ」
「何が?」

 言いながら、私のブラウスのボタンに手をかけているあかね。
 自分の意思に逆らって、鼓動が早くなってくる。

「だって……19年もたってるのよ。体のラインも崩れてるし、足も太くなったしお腹も…」
「うん……」
「胸だって、母乳だったから、その……」
「うん」

 ポツ、ポツ、とブラウスのボタンが外されていく。

「ねえ、あかね」
「うん」
「だから……」
「全部見せて」

 スルッとブラウスが落ちる。あかねの瞳に光彩が灯る。

「綾さんの19年、全部見せて」
「……………」

 眼鏡を取られ、瞼に口づけされる。

「会えなかった19年、全部教えて?」
「あかね……」

 でも、でも……

「でも、私、別の人に……だからもう……」
「じゃあ、上書きする」

 あかねが何でもないことのように言う。

「どこから上書きしようか?」
「……あかね」

 涙があふれてくる。
 震える左手をあかねの前に差し出すと、あかねは愛おしむように両手で包み込み、優しく口づけてくれた。



 それから……それから……。あれ?

「綾さん、覚えてない、とか?」
 あかねの面白がっている声が布団の向こうから聞こえてくる。
 ゆっくり目だけ出すと、あかねの綺麗な瞳が目の前にあった。笑ってる。

「覚えてる。覚えてるけど……」

 思い出して赤くなってくる。あかねの優しい指、柔らかい唇、低い声……
 でも……

「途中から記憶が……」
「ああ、綾さん、途中で寝ちゃったからね」
「え?!」
 そういえば、前の晩一睡もしていないんだった。日中に少し仮眠はとったけれど、そんなもので足りるような歳ではもうない。どうりで11時まで寝てしまうわけだ……。

 あかねがニヤニヤと言う。
「だから、あんまりスゴイことはしてないよ~」
「……スゴイことって何よ」

 でも何も着ていない時点でアウトな気がするんですけど……。

「んーー? じゃ、今からする?」
「え?!」
「しようしよう」
「ちょっ」

 布団をめくられ、耳元に唇が下りてくる。

「………綾さん、愛してるよ」
「!」

 わざと低音のメチャメチャ良い声でささやくあかね。かあっと体中が火照ってくる。

 この………っ

「朝っぱらからサカリつくな!」
「うわっ」
 思いっきり突き飛ばすと、あかねがベッドから転がり落ちた。ものすごい音がした。

「あ………、ごめ……」

 やりすぎた、と心配してベッドの下をみると……しゃがみこんだあかねが肩を震わせている。

「……あかね?」
「…………………綾さん、最高」

 あかね、笑ってる…………。

「ホント、綾さん、大好き」
「………なにそれ」

 呆れるあまり、こっちまで笑ってしまったところ、

「あれ……?」
 ふいにあかねが窓辺により、外をみて、あ!と叫んだ。

「まずい。緑のおじさん回ってきてる。綾さんの車だよね?あれ」
「えっ」

 駐禁の取締りらしい。
 あかねは即座にイスにひっかけてあったTシャツとGパンを身に着けると、

「鍵借りるね。駐車場に移してくるからちょっと待ってて」
 あっという間に出ていってしまった。

 取り残された私。
 しばらくボケっとしてしまったが、外から聞こえてくるあかねの声に我に返った。緑のおじさんと話している。どうやらうまくかわせたようだ。

「………珈琲入れようかな」
 急いで着替えて、懐かしいキッチンに入ってみる。
 驚いたことに、当時使っていたマグカップがそのまま同じ場所にしまわれていた。

「どんだけ物持ちいいのよ……」
 泣きたいような笑いたいようなくすぐったいような、そんな気持ち。

「駐禁セーフだったよー」
 あかねが戻ってきた。ずっと一緒に過ごしてきたような気軽さで。

 お湯の沸く音。珈琲の香しい匂い。そして……

「わあ。綾さんの珈琲うれしい」
 後ろからフワリと抱きしめてくるあかね。

(ああ……幸せ……)

 この幸せを手放して手に入れた結婚生活は、3年前に崩壊した。

『お母さんの人生ってなんなの?』
 健人の言葉がまた頭をよぎる。
『ちょっとは自分の気持ち大事にしたら?』

 私の気持ち……それは……。

「綾さん? どうかした?」
「………なんでもない。お湯、危ないから」
「はーい」
 素直に一歩下がるあかね。

 フィルターにセットした珈琲の上に少量のお湯を注ぐ。蒸らし時間20秒。それから中央から円をかくようにお湯を注いでいく……

「……何?」
 後ろからクスクス笑う声がきこえてきたので、振り返らずに尋ねると、

「んー珈琲入れるときの真剣な綾さん。そそられる。うなじにキスしたい。していい?」
「……お湯かけるわよ?」
「だよね~」
 うふふふふ、とあかねが笑う。
「そう言われるだろうなって思ったら嬉しくて」
「…………何それ」

 あいかわらずだ。本当にあいかわらず。変なことばっかり言ってる。

「ねえ? 綾さん?」
「ん?」

 サーバーからカップに珈琲を移しているので目が離せない。

「何?」
「あと……9年たったらさ」
「うん」

「結婚しない? 私達」
「…………………………え?」

 何て言った?今……

「結婚しよう、綾さん」
「…………あかね?」

 振り返った先のあかねの瞳は、吸い込まれてしまいそうなほど澄んで輝いていた。


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R18にならないよう、セーブしました。はい。
でも二人がラブラブしてるところがかけて満足~~。

今回書きたかったセリフの一つ、
「綾さんの19年、全部見せて」
が書けて、ホッとしましたー。

「光彩」には片づけなければならない話が3つあります。

一つは佐藤家が今後どうなっていくかという話。
美咲はパパのこと割り切ってる、と綾は思ってるけど、本当にそうなんでしょうか…。

それからもう一つは、あかねとあかねの母親の話。

で、当然、あかねと綾の関係がどうなっていくのかという話。

そんなわけでまだまだ続きます。次からあかね目線。

ちなみに……私も20年前から同じマグカップ使ってまーす。別に悪くならないもんね。


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