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(GL小説)風のゆくえには~光彩4-2

2015年03月23日 10時18分58秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
「私のパパ、愛人がいるの」

 綾さんの娘の美咲から、そんなとんでもない話を聞いたのは、運動会の真っ最中のことだった。

**

 運動会のダンスの衣装を、急きょ綾さんに直してもらった。
 おかげで二人きりで誰もいない校舎内を歩くことができ、その途中、我慢できなくなって綾さんを後ろから抱きしめたところ、綾さん予想外の反応……。

 無抵抗! →由衣先生への嫉妬?発言 →19年前の浮気に対する文句?

 ……なんでしょうか。これは。脈があると思っていいのでしょうか?
 でも、先月の面談の時には、手を思いきり振り払われてしまったし……。

 観覧席に目をやると、綾さんが長身の男性と立っていた。

(あいつが旦那か………。くそー私より背高いな……)

 ムカつく……。

 そんな悶々とした気持ちで、生徒たちのダンスを見ていたら、あっという間に終了してしまった。
 生徒たちは難しい隊形移動も完璧にやり遂げていた。素晴らしい。あとでたくさん褒めなくては。


 昼休みに入るアナウンスを入れた直後、美咲が私のところにやってきて、家族を紹介したいと言い出した。
 おばあちゃんとお兄ちゃんはともかく、パパは無理、と思った。今、綾さんの旦那と向き合ったら自分でも何をしでかすか分からない。

 でも、美咲が「パパはいないんだけど」と言う。「さっき観覧席でママと並んで立ってたよ?」と答えると、

「もう帰っちゃった。あのね、私のパパ、愛人がいるの。で、その愛人の子供の父親参観なんだって今日」
「………………え?」

 あまりにもあっけらかんと言うので、何を言われたのか瞬時には理解できなかった。
 美咲は、こちらが驚いていることを楽しんでいるようだ。

「家族公認の愛人なの。ママもおばあちゃんも知ってるよ」
「そう……なの?」
「うん。昔のお殿様みたいでしょ?」

 ニコニコの美咲。

 なにそれ。………なにそれなにそれなにそれっっ。

 公認って……。本当に、納得の上でそんなの認めてるの? 綾さん。
 だったら、どうして先月の面談の時、私が「今、幸せ?」って聞いたら、困ったような顔をしてうつむいたの? さっき、無抵抗だったのは、どうして?
 今の生活が幸せと言いきれないからじゃないの?

 そんなことが頭をグルグル回っている状態で、美咲に腕を引っ張られ、綾さんの元に連れていかれた。戸惑った表情をした綾さん。

 くーーーかわいすぎる……。

 あまりにもかわいすぎたので、思わず隠れてちょっかいを出したところ、すっごい目で睨まれた。

 もーーー素敵すぎる……。

 ………決めた。
 そんなアホな旦那に遠慮することなんてないよね?
 あっちに愛人がいるなら、綾さんだって自由恋愛楽しんだっていいんじゃないの?

 ねえ綾さん。

 私、あなたをもう一度手に入れる。


***

 
 一週間後……。

 綾さんは私の腕の中にいた。
 綾さんの誕生日の朝を一緒に迎えられるなんて夢のようだ。

 深夜、綾さんが私のマンションを訪れてくれた。
 なんだかものすごく疲れた様子だった。寝不足だと言っていたけれど、それだけではない感じがする。

「どこから上書きしようか?」
 そう聞くと、涙をポロポロと流しながら、迷わず左手を差し出した綾さん。
 旦那に愛人がいるのなら、綾さんも……なんて簡単に考えていたけれど、そんな単純な話じゃなかった。綾さんは苦しんでいる。どれだけの苦しみの中にいるのだろう。
 私は少しでもその心の傷を癒してあげられるかな。助けてあげられるかな……。

「綾さん……」
 綾さんの左手を包み込み口づける。そのまま腕を伝い、白い肩にキスをする。
 ゆっくりゆっくり優しく優しく愛撫する。綾さんのうなじ、柔らかな胸、くびれた腰、しなやかな足……。一つ一つ大切に口づける。
 包み込み、癒したい。今は、官能ではなく、安らぎを与えたい。 

 閉じた瞳からこぼれ落ちた涙を唇で拭うと、綾さんの頬に笑みが浮かんだ。

「大好き……」
 頬に瞼に耳に首筋にキスの雨を降らせる。

「大好きだよ……」
 この気持ちが届きますように。あなたの心まで包みこめますように……。

 綾さんが微笑みを浮かべたまま、スーッと眠りに落ちた。穏やかな寝顔……。
 愛おしくて、ぎゅっと抱きしめる。

(今だったら……)

 今だったら、綾さんを守ってあげられる。
 19年前はハタチの無力な大学生だった私も、今はもうすぐ40歳の社会人。職もあり、貯えもそれなりにあり、生きる術も持っている。
 日本にいるのが窮屈ならば、二人で外国で暮らしてもいいかもしれない。浩介と慶くんのように。

 ただ、問題は子供たちのことだ。
 お兄ちゃんの方はともかく、美咲はまだ中学二年生。まだまだ母親が必要な年齢だ。綾さん自身も子供たちと離れたくないだろう。

(そうすると……9年……か)

 美咲が大学を卒業するのが9年後。
 そのころには、もしかしたら日本でも同性婚が認められるようになっているかもしれない。

 9年。9年なんてあっという間だ。何しろ19年待ったのだ。それが少し延びるだけのことだ。
 いや、ただ延びるだけではない。これからは会うことができる。

 綾さん。あなたを幸せにできるのは、私しかいない。


***


「結婚しよう、綾さん」

 翌朝。珈琲を入れてくれてる綾さんに、プロポーズをした。

「…………あかね?」
 きょとん、とした表情の綾さん。

「何言って………」
「9年したら、美咲さんも大学を卒業する。綾さんの親としての役目も一段落つく」
「……………」
「そのころにはきっと日本でも同性婚が認められるようになってると思うんだよね」
「……………」

 綾さんは何か言おうと口を開きかけ、また閉じ、また何か言おうとして、先に大きくため息をついた。

「そんな夢みたいなこと……」
「なんで? 全然現実的だよ? それでね、9年間は『仲の良いお友達』でいればいいと思って」
「………なにそれ」

 眉を寄せた綾さんに、ふっふっふ、と笑ってみせる。

「あのね、同性だと浮気を実証するの難しいんだよ。特に女性なんてノンケの子同士だって普通にベタベタしたりするでしょ? 旅行も泊まりも全然オッケー。仲の良い友達なら普通のことだし」
「………それは無理ね」
「え?!」

 バッサリと綾さんは言い切って、珈琲を持ってソファーの方へ行ってしまった。

 そ、そんな……

「な、なんで?!」
 慌てて後を追いかけ、わざと膝をくっつけて隣に座ると、綾さんは「当たり前じゃない」と言ってこちらを見上げた。

「だって、担任と保護者が個人的に仲良くしてたら問題でしょ?」
「あ………そっちの話」

 プロポーズ断られたのかと思って焦った……。

「あー、じゃあさ、綾さん、なんかの役員やってよ?」
「役員は学年はじめにもう決めたでしょ」

 綾さんがちょっと笑った。かわいい。

「じゃあ、演劇部の衣装指導やらない? 保護者の方に指導員お願いしてる部、他にもあるから怪しまれないよ」
「そんなの……家庭科の先生に悪いわよ」
「あー、全然大丈夫。あの子、裁縫系苦手だから」
「………あの子?」

 ピクリと綾さんの眉間にしわが寄った。

「あ……いや、その、由衣先生?」
「………ふーん」

 綾さんがフイッと膝を離して座り直し、無表情に珈琲に口をつける。
 まずい。由衣先生の話題は地雷だった。こ、こわい……。

「あの……綾さん? 由衣先生とは本当にもう何も………」
「……………」

 しばらく無言でいた綾さん。マグカップをテーブルに置き、大きく息をついた。

「………ごめんなさい」
「は?!」

 何がごめん?! それはお断りのごめん?! ど、どうしよう……
 焦っている私の横で、綾さんはポツリと言った。

「私、本当はすごく嫉妬深い嫌な人間みたい」
「え………」

 綾さんは顔を隠すように、手で頬を囲っている。

「大学生のころは余裕があったから大丈夫だったけど、今はもう無理。大人のくせに自分を誤魔化すこともできない」
「綾さん………」

 何を言うのかと思ったら、そんなこと……。
 綾さんは、うつむいたまま続ける。

「あかねはきっと私のこと嫌いになる。昔の『大人で余裕のある綾さん』じゃない私に幻滅していくわ」
「…………綾さん?」

 綾さんの白い手ごと頬を包み込み、その瞳を覗き込む。

「私も、もう昔の『自由奔放なあかね』じゃないよ? 綾さん、物足りなくなっちゃうかも」
「そんなこと……」

 綾さん。愛おしい瞳。

「でも、今の私は綾さんだけを見つめていく自信がある。昔の私にはできなかったこと、今ならできる。今なら綾さんを守れる自信があるよ」
「あかね………」
「私、綾さんがいてくれれば他には何もいらない。綾さんだけが欲しい」
「…………」

 綾さんがふっと視線をそらした。

「私はそんな風に思ってもらえるような人間じゃないわ」
「綾さん、そんな……、綾さん?」

 また、綾さんの瞳から、ポロッと涙が流れ落ちた。綾さん、昨日から泣いてばかりだ……。
 綾さんの眼鏡をそっと外して、涙をぬぐう。

「綾さん。私は大人で余裕のある綾さんだから好きになったんじゃないよ。綾さんだから好きなんだよ。どんな綾さんでも大好きだよ」

 何をすれば、何を言えば、その心を癒してあげられるのだろう。
 綾さんの頭をなでながら、言葉を続ける。

「私ね、先週も、今も、嬉しかったよ。綾さんが嫉妬してくれて」
「………」
「だってさ、昔は綾さん、私が誰と何しようがなーんにも言ってくれなかったでしょ。それはそれで心地よかったけど、寂しい時もあったもん。言わないってことは綾さんも後ろ暗いことあるのかなーとか思ったし。実際、綾さん合コンとかしょっちゅう行ってたし」
「それは………」
「友達の付き合いで、とか、人数合わせで、とか、タダでご飯食べられるから、とか、色々言い訳言ってたよね。私も私で遊んでたから文句言えなかったし、まだ若かったから格好つけて、そういう自由な関係がいいんだ、とか言ってたけど、本当は内心面白くない時もあったんだよ?」
「あかね……」

 綾さんが泣き笑いの顔になった。

「そんなこと一度も言ったことなかったじゃない」
「だって、綾さんに鬱陶しいって思われて嫌われたら嫌だもん」
「そんなこと……」
「思わない? じゃあ、好き? あ、そうだ」

 思いついた。

「ねえ、綾さんさ、最後の日、何て言ったの? 19年間ずっと気になってたんだけど」
「最後の日?」

 きょとんとした綾さん。良かった。泣き顔じゃなくなった。

「最後、寝てる私にキスして言ったでしょ?」
「……起きてたの?」

 綾さん、困ったような顔。うふふ、と思う。

「『あかね、ごめんね』の後。『あかね。………よ』って言ったでしょ?」
「…………」
「『よ』の前って、何だったの? 聞こえなかったんだけど」
「…………」
「私的には『大好きよ』だったら嬉しいんだけどなあ。……当たり?」
「…………」

 綾さん、しらばっくれるように、珈琲を飲み始めた。誤魔化す気だな……。

「綾さんってば」
「珈琲冷めるわよ?」
「もー……」

 追及したいところだけれども、せっかくの珈琲が冷めるのも嫌なので、珈琲を優先する。
 一口飲んで、思わず、おおっと感嘆の声をあげる。

「やっぱり綾さんの珈琲違う。おいしい。同じ珈琲使ってるのになんでなんだろう。どうやってるの?」

 綾さんが、ふふっと小さく笑った。

「どうやってるって、いつも見てるじゃないの」
「あー……だって、見てるっていったって、いつも珈琲じゃなくて、綾さんの真剣な目とか色っぽいうなじとか指先とか口元とかしか見てないもん」
「…………」

 バカねえ、と笑いながら言う綾さん。嬉しくなる。

「じゃあ、今度はちゃんと珈琲見てて」
「えー、いいよ。だってこれからは綾さんの珈琲、ちょくちょく飲めるでしょ?」
「…………」

 綾さんは一瞬目を大きく開き、それからふっと笑った。

「……そうね」

 よし! と心の中でガッツポーズをする。OKでた!!
 ここで、もう一つ、内心ドキドキしながら言ってみる。

「それで……9年後からは、毎日飲める、よね?」
「………………」

 綾さんはここではないどこか遠くに視線をおくり、静かな微笑みを浮かべた。

「………そうね」
「………………」

 それはYESということではなく、子供の無謀な夢の話に肯いているだけのような笑みだ。
 今は、夢みたいに感じるかもしれない。
 でも、絶対に、現実にしてみせる。
 今はまだ、答えを強要したりしない。

「お昼だね。お腹空かない?」
 わざと明るく話を変える。

「せっかく誕生日なんだし、おいしい物食べに行こうか? 近所にイタリアンのお店があるんだけど」
「うん」
「綾さん何時まで大丈夫?」
「!」

 綾さんの手がビクッと震えた。
 先ほどまでの柔らかい笑みが一変、固い表情になる。

「そうね……二時半頃出ればいいかな」

 声も震えている。綾さん……。

 帰したくない、けれど、それを言ったら困らせることになる。綾さんの動揺に気づいていないフリで明るく続ける。

「じゃあ、あと3時間はあるね。そこのお店わりと混むんだけど、今の時間だったらまだ大丈夫だと思うから」
「うん……」
「それから、綾さん。誕生日プレゼント何が欲しい? 独身アラフォー女子、結構金持ってるよ。何でも言って。何が欲しい?」

 綾さんはうつむいたまま、ポツリと言った。

「……あかね……が欲しい」
「……え」

 綾さんの握りしめた拳にぐっと力がこもった。

「あかねと二人きりの時間が欲しい」
「……綾さん」

 固く握られた綾さんの手をそっと掴む。こんなに力を入れていては爪で手の平が傷ついてしまう。ゆっくり手をひろげさせ、手をからめるようにつなぎ、包み込む。

「……じゃ、ずっとここにいよう。二人きりで」
「うん……」

 こっくりと肯いた綾さんの額にキスをする。

「あのね、クロワッサンがあるの。結構大きくて、切って中に何か入れられる感じの。お昼それにしよっか?」
「うん」
「ハムとチーズとレタスと玉ねぎ、それからトマトもあるよ。綾さんトマト好きだったよね?」
「うん」
「今も好き?」

 綾さんは切ない光の瞳でこちらを見上げ、泣きそうな顔で笑った。

「大好きよ」
「………………」

 胸のあたりがぎゅっと掴まれたようになる。
 愛おしい綾さん……。

 20年前に付き合っていたころ、一度も好きって言ってくれたことがなかった。
 初めて聞いた。綾さんの「大好き」。でも。

「………トマトが、でしょ?」
「そう。トマトが、ね」

 優しく笑う綾さんの唇に、そっと唇を重ねる。
 再会してから初めての唇へのキス。

 記憶の中の唇よりも、もっと柔らかくもっと切ない。気持ちがあふれてくる。

 20年以上前、舞台裏で不意打ちでした、初めてのキス。
 帰り道に人目を忍んで重ねたキス。
 欲情のまま求め合ったキス。 
 別れの時に綾さんがしてくれた最後のキス。

 そのどのキスとも違う。
 このキスは……これから再びはじまる二人のキス。


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ああ、良かった。これからはじまるのね、二人。

ということで……

長かった…。切るに切れなかった。

はじめの話が、光彩2-2光彩3-1の裏話。

真ん中の話が、光彩3-5の裏話。

最後の話が、同じく光彩3-5、の続きの話。


年齢を重ねて分かることとか、できることとかありますよね。
子供のころは強がってできないことも「できる!」って言ったりしてたけど、
大人になるにつれ、自分のできないことも認められるようになったりね。

今だったら、もう少しうまく付き合えたかな……とか思うことがあったりなかったり。

ちなみに、作中は、2014年6月21日(土)です。
渋谷区の条例の話が出る前の話です。



以下、全然どうでもいい話なんですけど、細かい設定として。

綾さんがあかねのマンションを訪れるきっかけになったのは、夜遅くに息子の健人を中島先輩のところに車で送っていったからなんですがね。
綾さんはその前にお風呂に入っていたのでスッピンでした。

あかねは仕事帰りにスポーツジムにいって一汗かいたあと、スパでのんびりしてました。
その後、ケーキを買って(東京はケーキ屋さんも遅くまで開いていて感心する)、最寄り駅からプラプラ歩いて帰ってきたら、マンションの前の公園に綾さんがいてビックリ仰天した、というわけです。

本当に細かい話なんですけど……
よくドラマとか漫画とか小説とかで、「二人はそのまま朝を迎え……」的な流れの話の時ってさ…
女の子、お化粧したまま寝ちゃって、朝、カピカピになってないの? 嫌じゃないの?
って疑問に思いません? 私だけ? そんなことないよね?

そういうわけで。
あかねと綾さんは「そのまま朝を迎え」状態ではありましたが、二人ともお風呂上りのためお化粧してませんのでご安心ください。
ってことでした。

なんかそういう細かいことまでリアルに想像しちゃうんだよねー。
前に書いた慶と浩介のR18の話もそうだけど。出るもん出れば汚れるし。誰がそれ掃除すんだよ?ってね……。


次回もまだあかね視点です。
話の内容的に今回、「一部・完」的になってますが、全然続きます。まだ問題山積みです。

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