(具体的性描写大丈夫な方→10の続きは「R18・黒い翼」になります)
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結局、夜明けまでセックスをしていた。途中で風呂に入ったりしたものの、この歳で朝までやり続けるってのはちょっと異常だと思う。
でも、正常な状態でない浩介を救う方法を、これ以外に思いつかなかった。
浩介は明らかにおかしかった。
触れるとおれに黒い染みができる、と怯えはじめ……、挙げ句のはてに、おれの背中に黒い羽が生えているとまで言いはじめたときには、さすがに血の気が引いた。
何でもないことのように、浩介の言うことを受け入れたように振る舞ったつもりだが、上手くできていただろうか……。
ここまで浩介を追いつめたのはおれだ。おれが浩介の母親に連絡しよう、と言ったことで、こんな幻覚まで見えるようになってしまったのだろう。
おれはどうしたら浩介を救えるのだろうか……。
視線を感じて目を開けると、浩介の顔がいつもより少し離れたところにあった。
いつもは額が触れ合うくらい近くにいるのに……
「浩介? お前、まさかあれから寝てないのか?」
「………。慶もまだ一時間くらいしか寝てないよ?今日休みなんだからゆっくり寝てたら?」
ひそやかな声。まるで話すのが怖いかのような……。
「お前……大丈夫か?」
「何が?」
「何がって……」
手を伸ばすと、ビクッと浩介が震えた。構わず額に手をあてる。
「熱は……ないみたいだな」
「………」
そのまま頬に触れる。薄い唇をなぞる。
浩介は緊張した面持ちでされるがままになっていたが、
「……慶」
そっとおれの頬に手を寄せた。
そして、ホッと……心の底から安心したように息をついた。
「大丈夫……みたい」
「そうか」
おれも安心して出そうになったため息をひっこめて、浩介の方に体を寄せる。すると浩介が遠慮がちにおれの背中に腕を回して、ポツリと言った。
「ごめんね。おれ昨日、変だったでしょ?」
「お前が変なのなんていつものことだろ」
言うと、浩介は、そうだね、と低く笑った。
「今日、ちょっと遅くなるかも。目黒さんの面接に付き添うことになると思うから……」
「わかった」
目黒さんというのは、浩介の勤める学校の卒業生で、訳あって浩介が住み込みの勤め先を紹介することになったのだ。
「だったら余計にちょっとでいいから寝ろよ? バテるぞ?」
「うん……」
頭を引き寄せ、腕枕をしてやる。額に口づける。髪の毛を優しくなでる。
それから…それから……。おれは何をしてやればいい?
頭をなで続けていたら、身を固くしていた浩介がようやく力を抜いて、ポツリと言った。
「慶……いなくならないでね」
「………」
胸をつく切実な言葉……。
いなくならないで、なんてこの25年の間で言われたの初めてじゃないか?
一緒にいてね、なら何度もあるけれど、いなくならないで……って………。
いつもならば、ばーかとかあほかとか切り返すところだけれども、ぐっと詰まってしまった。
「………慶?」
おれが黙ってしまったので、浩介が不安げにおれの肩口から顔を離した。いかんいかん。
「慶?」
「いなくなんねえよ。ばーか」
おでことおでこをくっつけ、その不安に揺れる瞳を間近から見つめ返す。
「あんまアホみてーなこと言ってると襲うぞ?」
「……………慶」
ふっと浩介が笑った。
「さすがに4回目は………」
「いけないこともなさそうだな」
「そんなことされたら、そりゃ……、あ」
不安でいっぱいの浩介。余計なことを考えさせたくない。快楽の海に溺れてしまえばいい。
「浩介………」
お前を守りたい。そのためにおれができること……できることはなんだろう……。
***
その夜……
おれは一人で、浩介の実家を訪れた。
浩介の母親に追い返されそうになったけれど、父親の鶴の一声で中に通してもらえた。
浩介の父親に会うのは20年以上ぶりになる。もう80歳を超えているのに矍鑠としている。でも、20年前に比べたら、二回りくらい小さくなった印象だ。
家の中はあいかわらず広くて綺麗で、まるでモデルルームのよう。人の住んでいる気配のない不思議な家だ、と高校生の時に感じたことと同じことを感じる。
「それで……浩介は?」
手を揉み絞りながら浩介の母親が言う。この仕草、昔から全然変わっていない……。
「浩介さんはいらっしゃいません。申し訳ありませんが、しばらく会わせることはできません。これは医師としての判断です」
「なにを……っ」
きっぱり言い切ると、母親は青くなって悲鳴じみた声をあげかけた、が、夫に手で制されて慌てたように悲鳴を飲み込んだ。
「医師としての判断、とは?」
「こちらをご覧ください」
少々小さくなったとはいえ、まだまだ迫力のある浩介の父親に、若干ビビりながらも用意してきた資料一式を手渡す。
今日、一日かけて仕上げた資料だ。以前から、浩介の過換気症候群の症状については記録を取っていた。日本を離れていた間に、精神科医でもあるアメリカ人医師に診てもらっていた時期もあり、そちらの診断結果もすべて翻訳した。
結論からいって、幼少期からのトラウマが原因でいまだ発作を起こしている状態なので、今、無理にご両親に会うことは危険である。こちらもカウンセリングに通わせるなど、よい方向に向かえるよう努力するので、ご両親の方でも配慮をお願いしたい。
「そんな……」
おれがざっくりと説明すると、母親は見た目にも分かるほどブルブルと震えだした。
一方、父親は冷静に資料を読み返していたが……
「あの出来損ないに伝えてくれ」
バサリと資料をテーブルに置くと、おもむろに立ち上がった。
「葬式までは会いにこなくていい。外聞が悪いから葬式だけは来るように。遺産は遺留分以外はすべて各方面に振り分けるからそのつもりで。以上だ」
「あなた………っ」
「お前ももう浩介には関わるな」
「そんな………」
さっさと部屋を出ていってしまった浩介の父……
浩介の母は、引き留めようと手を挙げかけ……力なくその手を下ろした。
「………浩介は」
母親が独り言のようにつぶやく。
「私がいないと何にもできない子で……ずっとずっと一緒にいてあげて……」
「……………」
「どうしてこうなったのかしら……いつからこんな…………」
聞いているこちらも苦しくなってくる。
浩介の母親は、愛情の形が歪んでしまっただけなのだ。浩介を愛していることに間違いはない……。
「あの……よろしければなんですが」
別に入れてきた紙を手渡すと、浩介の母親の顔がみるみる引きつってきた。
「なに? 私にここに行けっていうの? 私の頭がおかしいとでも?」
「あ、いえ、そういうことではなく」
予想通りの反応だ。
今、手渡したのは心療内科クリニックのパンフレット。同僚の戸田先生のいる病院だ。戸田先生は火曜と木曜はうちの病院にきているけれど、他の曜日はこちらのクリニックで診療をしている。
予定通りの返答を淡々とする。
「親子関係を改善させるための相談、といいますか、そういうこともしていますので、是非にと思いまして」
「……………」
眉を寄せたまま、浩介の母はパンフレットを眺めている。
「もしよろしければ紹介させていただきますので……こちら、私の連絡先です」
名刺の裏に携帯番号を書いたものをテーブルの上に置く。
「火曜と木曜でしたら、こちらの病院でも担当医師おりますので」
「…………渋谷君」
ふいに言葉を遮られた。まじまじとこちらをみてくる浩介母。
「………はい」
何を言われるんだろう、とドキドキしながら待っていると、
「なんだか……ずいぶん立派になったわね」
「え」
「すっかり大人ね」
「…………」
そりゃまともにあったのは高校の時以来なんだから、大人にもなる。
「あなた、いつから浩介と一緒に住んでいるの?」
「………。8年半前からです」
ここはウソをつかなくてもいいだろう。正直に答えると、浩介の母親は8年、8年……とブツブツ言ってから、
「それじゃあ、浩介はあかねさんと別れてから、またあなたに戻ったってことね。そう……こんなことなら……」
あかねさんと別れさせるんじゃなかった。あかねさんは女性だからまだマシだったのに。……って、言葉には出していないけれども、その表情から感情がただ漏れている。あいかわらず正直と言うか失礼というかなんというか……。
「あかねさんとは今でも良い友人です。今、私達が住んでいるマンションも、あかねさん所有のマンションで……」
「え、そうなの?」
浩介の母親の目がまん丸くなる。その顔、妙に浩介に似ている……。
「じゃあ、あかねさんはどこに?」
「あかねさんは、新しい家族と一緒に暮らしていて……」
「まあ。ご結婚されたのね?」
「いえ、お相手は女性なので結婚は……」
「……………」
はああ……と大きくため息をついた浩介の母。理解できないわ、と首を振り続けている。
「それじゃ、私はこれで……」
もうこれ以上ここにいる必要はない。言うべきことは言った。
あとは、ご両親が浩介にちょっかいだしてこないことを祈るばかりだ。今の感じだと父親は大丈夫そうだが、母親は……
「渋谷君。ちょっと待ってて」
「はい」
呼び止められ、玄関先で待っていると、台所に一度引っ込んだ浩介の母親が、苺の入ったビニール袋を持って出てきた。
「これ、浩介に渡してくれる? 浩介、苺好きだから……」
「…………はい」
ぐっと胸が苦しくなる。
どこのうちの母親もそうなんだろうか。うちも遊びに行くと、おれの母親があれ持っていけこれ持っていけ、と色々持たせてくれる……。
浩介の母親は寂しげに微笑んだ。
「渋谷君も一緒に食べてね。この苺、甘くておいしいのよ」
「!」
一緒に食べて、なんて言ってもらえるとは思わなかった。
「ありがとう……ございます」
受け取って深々と頭を下げる。
いつか、浩介も一緒にこのうちを訪れる日がくるまで……それまでもう少し待っていてください……。
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結局、夜明けまでセックスをしていた。途中で風呂に入ったりしたものの、この歳で朝までやり続けるってのはちょっと異常だと思う。
でも、正常な状態でない浩介を救う方法を、これ以外に思いつかなかった。
浩介は明らかにおかしかった。
触れるとおれに黒い染みができる、と怯えはじめ……、挙げ句のはてに、おれの背中に黒い羽が生えているとまで言いはじめたときには、さすがに血の気が引いた。
何でもないことのように、浩介の言うことを受け入れたように振る舞ったつもりだが、上手くできていただろうか……。
ここまで浩介を追いつめたのはおれだ。おれが浩介の母親に連絡しよう、と言ったことで、こんな幻覚まで見えるようになってしまったのだろう。
おれはどうしたら浩介を救えるのだろうか……。
視線を感じて目を開けると、浩介の顔がいつもより少し離れたところにあった。
いつもは額が触れ合うくらい近くにいるのに……
「浩介? お前、まさかあれから寝てないのか?」
「………。慶もまだ一時間くらいしか寝てないよ?今日休みなんだからゆっくり寝てたら?」
ひそやかな声。まるで話すのが怖いかのような……。
「お前……大丈夫か?」
「何が?」
「何がって……」
手を伸ばすと、ビクッと浩介が震えた。構わず額に手をあてる。
「熱は……ないみたいだな」
「………」
そのまま頬に触れる。薄い唇をなぞる。
浩介は緊張した面持ちでされるがままになっていたが、
「……慶」
そっとおれの頬に手を寄せた。
そして、ホッと……心の底から安心したように息をついた。
「大丈夫……みたい」
「そうか」
おれも安心して出そうになったため息をひっこめて、浩介の方に体を寄せる。すると浩介が遠慮がちにおれの背中に腕を回して、ポツリと言った。
「ごめんね。おれ昨日、変だったでしょ?」
「お前が変なのなんていつものことだろ」
言うと、浩介は、そうだね、と低く笑った。
「今日、ちょっと遅くなるかも。目黒さんの面接に付き添うことになると思うから……」
「わかった」
目黒さんというのは、浩介の勤める学校の卒業生で、訳あって浩介が住み込みの勤め先を紹介することになったのだ。
「だったら余計にちょっとでいいから寝ろよ? バテるぞ?」
「うん……」
頭を引き寄せ、腕枕をしてやる。額に口づける。髪の毛を優しくなでる。
それから…それから……。おれは何をしてやればいい?
頭をなで続けていたら、身を固くしていた浩介がようやく力を抜いて、ポツリと言った。
「慶……いなくならないでね」
「………」
胸をつく切実な言葉……。
いなくならないで、なんてこの25年の間で言われたの初めてじゃないか?
一緒にいてね、なら何度もあるけれど、いなくならないで……って………。
いつもならば、ばーかとかあほかとか切り返すところだけれども、ぐっと詰まってしまった。
「………慶?」
おれが黙ってしまったので、浩介が不安げにおれの肩口から顔を離した。いかんいかん。
「慶?」
「いなくなんねえよ。ばーか」
おでことおでこをくっつけ、その不安に揺れる瞳を間近から見つめ返す。
「あんまアホみてーなこと言ってると襲うぞ?」
「……………慶」
ふっと浩介が笑った。
「さすがに4回目は………」
「いけないこともなさそうだな」
「そんなことされたら、そりゃ……、あ」
不安でいっぱいの浩介。余計なことを考えさせたくない。快楽の海に溺れてしまえばいい。
「浩介………」
お前を守りたい。そのためにおれができること……できることはなんだろう……。
***
その夜……
おれは一人で、浩介の実家を訪れた。
浩介の母親に追い返されそうになったけれど、父親の鶴の一声で中に通してもらえた。
浩介の父親に会うのは20年以上ぶりになる。もう80歳を超えているのに矍鑠としている。でも、20年前に比べたら、二回りくらい小さくなった印象だ。
家の中はあいかわらず広くて綺麗で、まるでモデルルームのよう。人の住んでいる気配のない不思議な家だ、と高校生の時に感じたことと同じことを感じる。
「それで……浩介は?」
手を揉み絞りながら浩介の母親が言う。この仕草、昔から全然変わっていない……。
「浩介さんはいらっしゃいません。申し訳ありませんが、しばらく会わせることはできません。これは医師としての判断です」
「なにを……っ」
きっぱり言い切ると、母親は青くなって悲鳴じみた声をあげかけた、が、夫に手で制されて慌てたように悲鳴を飲み込んだ。
「医師としての判断、とは?」
「こちらをご覧ください」
少々小さくなったとはいえ、まだまだ迫力のある浩介の父親に、若干ビビりながらも用意してきた資料一式を手渡す。
今日、一日かけて仕上げた資料だ。以前から、浩介の過換気症候群の症状については記録を取っていた。日本を離れていた間に、精神科医でもあるアメリカ人医師に診てもらっていた時期もあり、そちらの診断結果もすべて翻訳した。
結論からいって、幼少期からのトラウマが原因でいまだ発作を起こしている状態なので、今、無理にご両親に会うことは危険である。こちらもカウンセリングに通わせるなど、よい方向に向かえるよう努力するので、ご両親の方でも配慮をお願いしたい。
「そんな……」
おれがざっくりと説明すると、母親は見た目にも分かるほどブルブルと震えだした。
一方、父親は冷静に資料を読み返していたが……
「あの出来損ないに伝えてくれ」
バサリと資料をテーブルに置くと、おもむろに立ち上がった。
「葬式までは会いにこなくていい。外聞が悪いから葬式だけは来るように。遺産は遺留分以外はすべて各方面に振り分けるからそのつもりで。以上だ」
「あなた………っ」
「お前ももう浩介には関わるな」
「そんな………」
さっさと部屋を出ていってしまった浩介の父……
浩介の母は、引き留めようと手を挙げかけ……力なくその手を下ろした。
「………浩介は」
母親が独り言のようにつぶやく。
「私がいないと何にもできない子で……ずっとずっと一緒にいてあげて……」
「……………」
「どうしてこうなったのかしら……いつからこんな…………」
聞いているこちらも苦しくなってくる。
浩介の母親は、愛情の形が歪んでしまっただけなのだ。浩介を愛していることに間違いはない……。
「あの……よろしければなんですが」
別に入れてきた紙を手渡すと、浩介の母親の顔がみるみる引きつってきた。
「なに? 私にここに行けっていうの? 私の頭がおかしいとでも?」
「あ、いえ、そういうことではなく」
予想通りの反応だ。
今、手渡したのは心療内科クリニックのパンフレット。同僚の戸田先生のいる病院だ。戸田先生は火曜と木曜はうちの病院にきているけれど、他の曜日はこちらのクリニックで診療をしている。
予定通りの返答を淡々とする。
「親子関係を改善させるための相談、といいますか、そういうこともしていますので、是非にと思いまして」
「……………」
眉を寄せたまま、浩介の母はパンフレットを眺めている。
「もしよろしければ紹介させていただきますので……こちら、私の連絡先です」
名刺の裏に携帯番号を書いたものをテーブルの上に置く。
「火曜と木曜でしたら、こちらの病院でも担当医師おりますので」
「…………渋谷君」
ふいに言葉を遮られた。まじまじとこちらをみてくる浩介母。
「………はい」
何を言われるんだろう、とドキドキしながら待っていると、
「なんだか……ずいぶん立派になったわね」
「え」
「すっかり大人ね」
「…………」
そりゃまともにあったのは高校の時以来なんだから、大人にもなる。
「あなた、いつから浩介と一緒に住んでいるの?」
「………。8年半前からです」
ここはウソをつかなくてもいいだろう。正直に答えると、浩介の母親は8年、8年……とブツブツ言ってから、
「それじゃあ、浩介はあかねさんと別れてから、またあなたに戻ったってことね。そう……こんなことなら……」
あかねさんと別れさせるんじゃなかった。あかねさんは女性だからまだマシだったのに。……って、言葉には出していないけれども、その表情から感情がただ漏れている。あいかわらず正直と言うか失礼というかなんというか……。
「あかねさんとは今でも良い友人です。今、私達が住んでいるマンションも、あかねさん所有のマンションで……」
「え、そうなの?」
浩介の母親の目がまん丸くなる。その顔、妙に浩介に似ている……。
「じゃあ、あかねさんはどこに?」
「あかねさんは、新しい家族と一緒に暮らしていて……」
「まあ。ご結婚されたのね?」
「いえ、お相手は女性なので結婚は……」
「……………」
はああ……と大きくため息をついた浩介の母。理解できないわ、と首を振り続けている。
「それじゃ、私はこれで……」
もうこれ以上ここにいる必要はない。言うべきことは言った。
あとは、ご両親が浩介にちょっかいだしてこないことを祈るばかりだ。今の感じだと父親は大丈夫そうだが、母親は……
「渋谷君。ちょっと待ってて」
「はい」
呼び止められ、玄関先で待っていると、台所に一度引っ込んだ浩介の母親が、苺の入ったビニール袋を持って出てきた。
「これ、浩介に渡してくれる? 浩介、苺好きだから……」
「…………はい」
ぐっと胸が苦しくなる。
どこのうちの母親もそうなんだろうか。うちも遊びに行くと、おれの母親があれ持っていけこれ持っていけ、と色々持たせてくれる……。
浩介の母親は寂しげに微笑んだ。
「渋谷君も一緒に食べてね。この苺、甘くておいしいのよ」
「!」
一緒に食べて、なんて言ってもらえるとは思わなかった。
「ありがとう……ございます」
受け取って深々と頭を下げる。
いつか、浩介も一緒にこのうちを訪れる日がくるまで……それまでもう少し待っていてください……。
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