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風のゆくえには~ あいじょうのかたち12(浩介視点)

2015年06月29日 14時51分41秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
 結局、夜明けまでセックスをしていた。

 一回目は限界がくるまでのしつこい前戯の後にバックから。
 二回目は騎上位から最後は正常位で。
 三回目は風呂に入りつつ手で。

 その後、さすがにもう寝よう、とベットに入った。慶はすぐに寝息をたてはじめたけれど、おれは少しも眠れなかった。

 よみがえる悪夢……おれが触れると慶が黒く染まっていくという……。

 慶はおれに考える時間を与えないために、性欲で頭を満たそうとしてくれたのだろう。実際にやっている間は忘れられたし、愛されている充実感でいっぱいになった。

 慶が一晩に3回も誘ってくれるなんて、この長い付き合いの中で初めてのことだ。だいたい、一晩3回なんてこと自体が珍しい……というか、20代までは時々あったけれど、ここ10年以上立て続けに3回なんてしたことがない。よく出るものも出たもんだ、と自分で感心してしまう。

 風呂もほぼ暗闇で入ったので、慶の黒い染みがどうなったのかは分からなかった。
 でも、ベットに戻ってから次第に外が明るくなり……

「………よかった」

 慶の白皙が照らし出され、思わず呟いた。染みがなくなっている。
 まあ……現実にそんなことがあるわけがないということは分かっている。幻覚というやつだ。

 やっぱりおれは頭がおかしいのだろう。
 それでも、そんなおれとでも慶は一緒にいてくれるという。
 愛おしくて、愛おしすぎて苦しい。

「浩介?」

 あまりにもジッと見つめていたせいか、慶が起きてしまった。まだ一時間も経っていないのに。綺麗な瞳がこちらを見つめ返している。
 恐る恐るその白い肌に触れてみたが、昨晩のように黒くなることはなく、ホッとして慶の背中に手を回した。背中にあった羽もなくなっている。ないとは思ったけれど一応確認してみたかった。当たり前だけど、もうない。

 慶は優しい。優しい言葉をかけてくれて、優しく優しく頭をなでてくれる。
 おれは気が遠くなる。この人がいなくなってしまったら、おれはどうなってしまうんだろう。

「慶……いなくならないでね」

 思わずつぶやく。いなくならないで。ずっとそばにいて。そう思ってしまうのはおれのエゴだろうか。
 本当は慶にはもっとふさわしい人がいるだろう。だけど、どうしても、譲れない。

 慶はしばらくの沈黙の後、
「いなくなんねーよ。ばーか」
 いつものように明るく返してくれた。そして、

「あんまアホみてーなこと言ってると襲うぞ?」

 え、本気?
 さすがに4回目は……

 と、思ったけれども、パジャマの上からまさぐられて、固くなっていく。スゴイなおれ……。

「いけないこともなさそうだな」

 ちょっと笑いながら慶が言う。
 でも、結局、本勃ちするまではいかず、ふにゃったり固くなったりを繰り返し……。で、慶がそれを「おもしれー」とかいってずっといじってきて……。

 そうこうされているうちに、いつの間にか眠ってしまった。なんだか、ものすごく愛されている感じがして、ものすごく幸せな気持ちでいっぱいになりながら。


***


 目黒樹理亜は面接の結果、あかねの知り合いの店での本採用が決まった。

 樹理亜の母親には圭子先生が連絡してくれた。圭子先生もおれと同様、樹理亜はあの母親と離れて暮らした方がいいと考えていたそうで、上手いこと言いくるめて樹理亜が住み込みで働くことを認めさせたそうだ。

 樹理亜の母親とおれの母親は、見た目や生育環境は大きく違うけれども、根っこの部分は似ていると思う。
 子供を自分の思い通りにしようとするところ、スイッチが入ると別人のようにヒステリックになるところ、でも普段は良い母親ぶるところ、そっくりだ。

 おれも慶に出会わなければ、樹理亜のようにリストカットに走っていたかもしれない。
 樹理亜にも、慶のような人が現れればいいのに。……慶は絶対に譲れないけど。



 夜遅くに帰宅すると、慶がいきなり、

「いちご食うか?」

と、きれいな赤で形も整った高そうないちごを洗って出してくれた。もらいものらしい。時々慶は、患者さんからの差し入れのお菓子とかを持って帰ってくる。

 いちごを食べながら、今日の樹理亜の面接のことを報告した。あいにく女性専用のバーのため樹理亜の働いている姿を見ることはできないので、そのうちあかねに様子を見に行ってもらおうと思っている。

「このいちご、かなり高級品だよね? すごいおいしかったー」

 ごちそうさま、と手を合わせると、慶が何か気まずそうな表情をした。なんだろう?

「どうかした?」
「あのな………」

 慶がすっと姿勢を正した。真面目な話をする前兆……。嫌な予感がする。

「お前のご両親のことなんだけど」
「…………」

 やっぱり………

「慶、その話は……」
「おれ、今日、お前のうちに行ってきた」
「……………え?」

 え?

「お二人と話をさせてもらってな。とりあえず、しばらくは会わないでほしいとお願いしてきた」
「……………」

 話………?

「それで、お母さんには心療内科クリニックを紹介した。ここまできたら専門家の手を借りることも視野に入れた方がいいと思う」
「……………」

 慶の声が遠くから聞こえてくる。

「お前もカウンセリングを受けてみないか? お前もこないだ会った戸田先生なんだけど……」
「…………いちご」
「え?」

 そうだ……いちご。
 なんで気がつかなかったんだ? 今日、慶は休みで家にいたはずだ。患者さんからの差し入れを持って帰ってくるはずがない。
 このいちごは……このいちごは。

「…………!!」
 一気に胃液が上がってきて、慌てて口を手で押さえる。まずい。吐く。

「浩介?!」

 叫んだ慶の横を大股ですり抜け、トイレに駆け込む。
 慌てて便座をあげ……たのと同時に、腹の中のものが一気に便器の中に吐き出た。しゃがむ前で高さがあったせいか、水に跳ね返り、あちこちに赤い吐瀉物が飛び散ってしまった。
 でもまだ出る。まだまだ出る。今食べてしまった、あの女が触れたであろう赤い物を全部吐き出したい。

「浩介」
「……………」

 しゃがみこんで吐き続けるおれの背中を慶がゆっくりとさすってくれる。
 でも、吐き気は止まらない。全部全部吐かなくては。全部、全部………。

 固形物が出おわっても、吐き気はとまらない。吐きたいのに出なくて苦しい。でもまだだ。まだ。全部出さないと。喉に手を突っ込む。途端に上がってきた胃液を便器に吐き出す。まだだ。まだ。全部吐かないと……全部……全部っ。

「浩介、もういいから」
「離して」

 慶に便器から引き剥がされそうになり、大きくかぶりを振る。

「慶、汚れちゃうよ。あっち行ってて……」
「浩介」
「だからあっち行ってって……っ」

 ぎゅうっと後ろから抱きしめられた。
 だめだ。嘔吐の跳ね返りが慶の腕についてしまう。

「慶、離して。汚れちゃうって」
「いい」
「だめだって。慶…………、慶?」

 慶………?
 
 何か違和感を感じて振り返った。
 おれの肩口に額をぐりぐり押しつけている慶……。何の音? ……歯ぎしり?

「慶?」
「………ごめん」 

 慶がボソリと言った。

「勝手なことしてごめん。苦しめてごめん。日本に帰ってきてごめん。ホント……ごめんな」
「………慶」

 便器から手を離すと、即座に慶の胸の中に引っ張りこまれた。そのままずりずりとトイレから引きずり出される。
 そしてあぐらをかいた慶の膝に顔を埋めさせられた。

「慶……汚れちゃうよ」
「いい」

 狭い廊下で、トイレの扉も開けっ放しで、膝枕。変な光景だ。

「ごめんな。浩介……」

 慶が優しく頭をなでてくれる。気持ちいい。
 あれだけ上がってきていた胃液が一気に落ちついてきた。慶の魔法の手。

「おれ……なんも分かってねえな」
「………慶」

 静かな慶の声に胸がしめつけられる。
 慶が良かれと思ってやってくれたことは分かっている。分かっているけれど……。

「………慶には分からないと思う」
「…………」

 慶の手が止まる。しばらくの間の後、

「………そうだな」

 ぽつんとつぶやくように肯いた慶。
 傷つけてしまっただろうか? でも、そうだけど……そうなんだけど。

「慶には、分かってほしくない、と思う」
「…………」

 そう。こんな感情、理解する必要ない。慶は分からなくていいんだ。

「………ごめんな」
「慶……」

 慶の手が再びおれの頭をなでてくれる。切ないほど心地が良い慶の膝……。

「慶……?」
 また、変な音が聞こえてきた。この音、歯ぎしり……?

「慶……歯ぎしりしてる」
 慶の頬に手を伸ばすと、その手をぎゅうっと握られた。

「おれ……」
 慶がつらそうに口を引き結んだ。

「お前のために何もしてやれねえんだな」
「え………」

 慶……

 慶の大きな瞳が揺れ……透明なものがあふれだしてきた。
 ぽた、ぽた、とおれの頬に落ちてくる、慶の涙……

「慶……」
「ごめんな……」

 慶の涙………なんて綺麗な……。

「ごめん……」
「慶………」

 慶が泣くなんて。静かに涙を流し続けている慶……。

「ごめんな……」
「………慶」

 おれは………おれは。

「慶」
 身を起こして、慶の頭を引き寄せる。抱きしめる。それから……それから。

 おれは、何ができる? この愛おしい人のために、何ができるんだろう?

 慶の好物を作ること、家事の分担を多く受け持つこと、洋服を選んであげること、髪の毛を乾かしてあげること、映画のDVDを借りてくること、仕事の資料の整理を手伝うこと……出来る限りのことをしてきた。ずっと尽くしてきたつもりだ。

 でも、でも……、本当に慶のためにしなけらばならないことはそんな上辺だけのことじゃなくて。本当にしなけらばならないことは……ならないことは。

 慶の涙……綺麗な光……。
 すとん……と体の中の何かが抜け落ちた気がした。

「慶、おれ……」

 慶の流れ続ける涙をぬぐい、おれは決意をその瞳に告げる。

「おれ………カウンセリング、受けるよ」

 おれは……変わらなけらばならない。



--------


く……暗い。暗かった……。

前半の、慶視点のお話は「あいじょうのかたち11」、
限界がくるまでのしつこい前戯の後にバックから、の話は「R18・黒い翼」(具体的性描写あり)でした。


ランキングに参加させていただくようになって、一週間くらい?が経ちました。
アクセス数が一気に増えて戸惑う日々でございました。とってもとっても嬉しいです。
こんな拙いお話を読みにきてくださって本当にありがとうございます。


そして。
先日、クリックしてくださった方!! 本当に本当にありがとうございます!!
今まで私、他の方のを読んで、普通にあまり何も考えずクリックしていたのですが……
された方はこんなに嬉しいものなのか、と、されて初めて分かりました^^;
本当にありがとうございました!!今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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