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風のゆくえには~ あいじょうのかたち16(樹理亜視点)

2015年07月13日 10時06分52秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
注:今回GLも含まれます。

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「頭のてっぺんにチューって、男の人同士で普通にするものー?」
「しない」
「大親友ならするー?」
「しない」

 やっぱりしないよねー……。
 カウンターの向こうのユウキは、ビシッと人差し指を立てて言いきった。

「それは二人がデキてるか、したほうの男が片思いしてるかのどっちか」
「デキてたとしたらW不倫だー」
「結婚してんの?」
「してるー。奥さんはー……」

 いいかけて、慌てて口をつぐむ。

 ここはあたしが1か月くらい前から住み込みで働いている女性専用のバー。
 今話してた、『頭のてっぺんにチューされてた男の人』っていうのは、芸能人みたいな美青年医師の渋谷慶先生のこと。で、慶先生の奥さんは、この店の伝説の常連さん『姫』、だと思う。

 『姫』はものすごい美人。気さくで明るいみんなのアイドル。以前は毎週末にきて店の手伝いまでしていたのに、一年くらい前に『本命が見つかった』って言って、それまで付き合ってたたくさんの女の子達と全員お別れして、お店にもほとんど来なくなってしまったらしい。

 たぶんその『本命』っていうのは慶先生のことだと思う。あたしは二人が仲良く家に帰って行くところを偶然目撃しちゃったから知ってるんだけど、他の人は知らないみたい。

 ちなみに『チューしてた人』っていうのは、あたしの通ってた学校の先生で、桜井浩介先生。
 浩介先生と慶先生は超仲良し。高校時代の同級生らしい。こないだも慶先生、浩介先生のうちにお泊りしてた。

 今日、偶然、病院の駐車場で二人が一緒にいるところを見かけたんだけど……。ごく自然な感じに浩介先生が慶先生の頭のてっぺんにチューして、それで、慶先生が浩介先生の後ろ太腿に蹴りをいれてた。ただ仲良しさんがじゃれてるだけのような感じもしたんだけどな……。

 そういうと、ユウキはうんうん肯いて、
 
「それじゃその二人、来週のミックスデーに連れてきてよ。ボクがデキてるかどうか判断してやる」
「ミックスデー?」

 なんだそれ?

「二ヶ月に一回だけ、男でもカップルだったら入店OKになる日があるんだよ」
「えっ。そうなのー?!」

 初耳。陶子さん何も教えてくれないんだもん。

「誘ってみる誘ってみるー」

 やったあ。慶先生に会える。
 この数週間、何度か電話で話もした。呼び方も「渋谷先生」から「慶先生」に変えて、急接近でいい感じなのだ。慶先生はやっぱり超カッコいい。バレンタインではバッサリ振られてしまったけど、まだまだ諦めきれない。アタックあるのみ。

「教えてくれてありがとー」
 笑いかけると、ユウキがすっと真面目な顔になってこちらを見かえした。

「樹理、じゃあ、教えたお礼に明日……」
「ユウキ」

 ピシャリとした冷たい声にビックリして振り返ると陶子さんがいた。陶子さんはこのバーのママ。年齢不詳。クレオパトラみたいな黒髪が綺麗な大人の女性。

「樹理には手を出すなって言ったでしょ。姫からの預かりものなんだから」
「姫、姫、姫って、みんな言うけどさ」

 ぶうっとした顔になったユウキ。

「何なの姫って。ボク会ったことないから知らないし」
「え、そうなのー?」

 そうか。ユウキはあたしと同じ19歳らしい。でも見た目は年下の男の子って感じ。ユウキがこのバーに出入りするようになったのは、ここ半年のことらしいから、姫に会ったことがないんだ。

「そんなこと言って、本当は陶子さんが樹理にちょっかいだされるのが嫌なだけなんでしょ」
「そう思ってもらってもかまわないわよ?」
「やっぱりね」

 ユウキが鼻にしわをよせた。

「樹理、陶子さんのストライクゾーンだもんね。背小さくて痩せてて可愛い系で」
「えーそうなのー?!」

 びっくりして叫んでしまった。陶子さんが苦笑する。

「私、ノンケの子には手を出さない主義だから安心して」
「へえ、そうなんだ? じゃ、今、陶子さん特定の子いるの?」
「あら、私、女の子切らせたことないわよ」
「わ~羨まし~落とし方教えてよ~」

 陶子さんとユウキが上辺だけの会話をしている中、あたしは、心の中で、あーっと叫んだ。

 背小さくて痩せてて可愛い系。今、陶子さんのマンションで一緒に暮らしているララもまさしくこれに当てはまる。……まあ、あたしの方が断然かわいいけど。
 やっぱり、ララが陶子さんの今の彼女なのかもしれない……。


 バーと同じビルの6階に陶子さんのうちがある。大きいリビングとダイニングキッチンと部屋が4つあって、あたしは玄関入ってすぐの部屋を貸してもらっている。

「たーだーいーまー」

 玄関を開けると、猫のミミがすっとんできた。人懐っこくて本当にかわいい子。
 ママちゃんに会わなくなってもう一か月たつのに、寂しいとか思わないのはミミのおかげもあるのかもしれない。この一か月で何回か、手首切りたくなったりしたんだけど、その度にミミがミャーミャー鳴くから切ること忘れちゃってた。

 それに、ちょっとしか切らなかった時、陶子さんが褒めてくれたのも嬉しかった。最近は、おつまみ作るものちょっとだけ手伝わせてもらえるようになったし、お客さんとも少し話すようになったし、お店でのお仕事が忙しくなってきて、余計なこと考える時間が減った気がする。

 あと、慶先生が電話でお話ししてくれると、目の前のスクリーンがなくなることにも気がついた。

 なんだか最近、本当に心が軽い。


 ミミのご飯を用意してあげてから、着替えようと自分の部屋に戻りかけたところ、

「樹理………」
 すーっと、リビングの隣の部屋のドアが開いた。ララだ。部屋の暗闇の中で目だけが光ってる。

「あーごめーん。起こしちゃったー? 陶子さんは仕込みがあるからまだお店に……なに?」

 細い手が手招きしてる。なんかこわいんですけど……。

「きて」
「え、なになにー?。こわいんだけどー……」

 近づいていって……

「ちょ……っララ?!」
 びっくりして悲鳴をあげた。
 ガリガリで折れそうな腕に引っぱられた。背の高さが同じくらいだからちょうどぶつかる。口と口。

「なに……っ」
 さらにびっくりなことに、ララ、下着姿。骨の浮いた細い体がなんだか痛々しい。

「ちょ、どうしたのー?ララ」
「樹理としたいの」
「……は?」

 何を?

「しよう?」
「え? 何を?」

 言う口をララの唇にふさがれた。あらま。これはキスだ。
 キスするの久しぶりだなあ、最後にしたのはどっかの会社の社長さんとかいう人だったな……なんてことを思う。

「んーと? これはエッチをするってことー?」
「そう」

 ララ、地味なくせに積極的。

「いいのー? ララと陶子さん付き合ってるんじゃないのー?」
「付き合ってないよ」
「え、そうなのー?」

 ほんとにー?

「ていうかさー、女の子同士ってなにすんのー?」
「なんでも」

 ちょっと笑ったララ。あら。笑うと結構かわいい。

「なんでもできるよ」
「んー……」

 ちょっと興味あるかも……。そういえば、この一か月以上ご無沙汰してるわけだし……。

「じゃあしてみようかなあ」
「うん。きて」

 ララの細い腕に引っ張られて、部屋の中に入りかけた、その時。

「ララ」
「!」

 後ろからの鋭い声にビックリして振り返る。今日2回目。陶子さんが立っている。陶子さんいつの間に帰ってきたんだろう。忍者みたい。足音全然しない。

「やめなさい」
「………っ」
 ララがビクッとしてあたしから手を離した。

「………どうして?」
 ララの小さな声。

「どうしてしちゃいけないの?」
「言ったでしょう?」

 陶子さんが怒り口調になっている。珍しい……というよりあたしは初めて聞く。

「セックスは本当に愛している人とするものなの。本当の愛を知らない子が、快楽のためだけのセックスをしては絶対にダメ」
「え、なんで!?」

 思わず叫んでしまい、慌てて口をふさいだ。が、遅かった。陶子さんが眉間にシワを寄せたまま、あたしに視線を移した。

「樹理も絶対にダメよ」
「えーでもー……」

 ママちゃんの姿が目に浮かぶ。

「あたしのママは、気持ち良ければ誰とでもしていいって言ってた。それでお金までもらえたらさらにラッキーって」
「そうだよ」

 ララがまた小さく言う。

「相手なんて誰でも同じだよ」
「それは本当に愛している人としたことがないからそう思うのよ」
「だったら……っ」

 陶子さんの低い声に、激昂したようにララが叫んだ。

「だったら陶子さんしてよ!」
「ララ」
「できもしないくせに偉そうなこと言わないでっ」

 バタンっと鼻の先でドアを閉められた。び、びっくりした。

「……樹理」
「は、はい」

 陶子さんがキッチンに向かう。目線でついてこい、とされたのでついていくと、

「ララの誘いには乗らないで」
「………どうして?」

 さっきからいつもの陶子さんらしくない。陶子さんはいつも「自分の好きにしなさい」って言ってくれるのに、こんなにハッキリと行動を制限してくるなんて。

「あの子、依存症なのよ」
「依存症?」
「性依存症」

 なんだかよくわからない……。

「樹理も、快楽のためだけのセックスはやめなさい」
「……どうして?」
「幸せになれないから」
「…………」

 ハテナ、と首をかしげている私に、陶子さんは優しく微笑んだ。

「本当に好きな人とすれば分かるわよ。今までのセックスがどんなに無意味なものだったのか」
「………」

 ふーん……。何が違うんだろう……。

 部屋に戻ってから考えてみる。
 今まで、色々な人としてきた。優しかったり乱暴だったり上手だったり下手だったり色々だけど、気持ちいいことのほうが多かった。

 思い出していたら、ふっと、また目の前にスクリーンが張られた。

「……慶先生、起きてるかな……」

 今、朝の6時。電話……しちゃおう。

 1、2、3、4、5……とコールしたところで、

『……もしもし』

 出た! ちょっと寝ぼけたような声。かわいー。

「慶先生ー? ごめんねー。寝てたー?」
『……大丈夫。ちょうど起きるところだったから』

 お布団の中をゴソゴソ動いている感じが伝わってきて、キュンキュンなる。

『目黒さん早起きだね』
「ううん。今仕事終わって帰ってきてこれから寝るところだよー」
『ああ……そうか。昨日土曜日だもんね』

 昨日、浩介先生と一緒にいるとこ見たよ、とか色々言いたいことはあるんだけど、とりあえず今一番言いたい話を言う。

「慶先生は、本当に好きな人とエッチしたことあるー?」
『………唐突だね』

 戸惑ったような先生の声。

「あのね、陶子さんがねー本当に好きな人とエッチしなさいって言うのー。そうじゃない人とするのと全然違うんだってー。本当かなあと思ってー」
『…………』
「だからー、慶先生、私とエッチしてー?」
『は?!』

 あ、すごいビックリしてる。かわいい。

『いや、それは無理だから』
「どうしてー?」

 即答で断ってくる先生に食い下がる。

「それは奥さんがいるから? じゃあ、奥さんがオッケーしたらしてくれる?」
『そういう問題じゃなくて』
「じゃあ、どういう問題?」

 ふと、自分の傷だらけの腕が目に入る…。

「こんなリスカばっかりしてる子には触れたくないってこと?」
『そんなことは……』
「そういうことでしょ?」

 あの完璧な容姿の『姫』の姿を思い出して、胸が苦しくなってくる。あの人は慶先生に抱かれてるんだ……想像つかないけど。

「あたしなんか先生の奥さんに比べたらブスで背も低くてバカでどうしようもないもんね」
『そんなことないよ』
「あたしみたいな子はそこらのオジサンにやられてればいいってことだよね。先生には関係ないもんね」
『目黒さん、自分のことをそんな風に……』

 慶先生のマニュアル通りな答えにどうしようもなく腹が立って我慢できなくなって、

「うるさいうるさい!」

 叫んでしまった。

「そんなことないって言うなら、あたしとしてよっ。どうせできないんでしょ?!」
『……うん。できない』

 ほら、みろ!

「どうせあたしなんか先生が触りたくもない女なんだもんねっ」
『いや、そういう意味じゃなくて』
「はあ?! そういう意味じゃないって、どういう意味?! 魅力がないって話?!」
『そうじゃなくて』
「そうじゃないって何だよっやっぱりあたしが」
『オレ、ゲイだから』
「やっぱり………………え?」

 今、何て言った?

「今……なんて?」
『オレ、ゲイだから、誰であれ女性は無理なんだよ』
「………………………は?」

 何を言って……だって、奥さんが……

『ごめん、目黒さんの勘違い、ずっと訂正しそびれてたんだけど、目黒さんが奥さんだって勘違いしてる人は、浩介の友達でね。おれとはそんなに親しくないんだよ』
「………………え?」

 勘違い? だって、一緒に帰って……

『たぶん目黒さん、彼女が浩介のところに遊びにくるときに、おれと偶然会ったところを見たんじゃないかな?』
「……………え」

 あれ? あれあれあれ………

 ってことは……ってことは?

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 色々、つじつまが合ってきた。
 あ、そうだ。指輪……指輪!!

「指輪、やっぱりお揃いだよね?!」
『え?』
「浩介先生と、同じ指輪してるよね?!」
『ああ……うん』
「うわーーーー………」

 そっかあ……やっぱり、そうなんだ。頭のてっぺんのキス。

『それは二人がデキてるか、したほうの男が片思いしてるかのどっちか』

 ユウキが言っていた言葉が頭の中に流れてくる。
 やっぱりデキてたよ!ユウキ!!

 慶先生と浩介先生……ただの仲良しじゃなかった。すんごいすんごい仲良しだったんだ!

「じゃあさ、二人は一緒に暮らしてるってことー?! 今、浩介先生……」
『いるよ。代わる?』
「代わって代わってー!」

 ゴソゴソと動く音。小さく「浩介」って言う声。これ……もしかして二人同じベッドの中?!

『……目黒さん?』
「もー隠してるなんてひどーい!どうして言ってくれなかったのー!?」

 即座に文句を言うと、

『ごめんね。各方面バレると色々面倒で……』
「ああ、そっかそっかー」

 内緒にしてるってことね。

「オッケーオッケー。絶対誰にもいわなーい」
『ありがとう』

 安心したような声。
 そこでそういえば、と電話した目的を思い出した。

「ねえねえ。浩介先生は本当に好きな人とエッチしたことあるー?」
『あるよ』

 浩介先生あっさり。

「いつ?」
『昨日も………いてっ』

 バシッと音がした。ぶたれたか蹴られたかした音。前に浩介先生、慶先生によく蹴られてるっていってたもんね……。あ、そうか。変な質問してしまった。二人は恋人同士なんだから当然してるよね。羨ましい。

「ねえねえ、そうじゃない人とするのと何が違うの? だって、同じように気持ちいいはずでしょー?」
『んーーーー幸福感、とか?』
「幸福感?」

 幸福……幸せな、感じ?

『愛されている実感が味わえるっていうのかな』
「んーーーーーー」

 愛されている……かあ。確かに今までの人は、欲求を満たすためだけに求めてきているだけで、愛とかそういうのとは無縁だったかも。
 でも、ママちゃんは気持ち良ければそれでいいって言ってたんだけどな……。

「いいなあ。羨ましいー」
『でしょ?』

 しゃあしゃあと自慢げに言う浩介先生が、再び「いてっ」と叫んだかと思うと、

『で、目黒さん。大丈夫なの?』

 慶先生に代わってた。大丈夫ってなにが?

『電話してきたってことは……』
「ああ………」

 スクリーンが張ったから電話したんだけど……衝撃の告白にびっくりしてスクリーンもなくなってる。

「もう大丈夫ー」
『そう。よかった』

 ほっとしたように言ってくれる慶先生。

 あー。相手が姫だったら頑張って奪おうって思ってたけど、相手が浩介先生じゃあなあ。

「あたし、先生のこと諦めるよー」
『え、あ………うん』

 またまたほっとしたように肯く慶先生。

「そのかわりー来週、お店来てー」
『え、でも』
「今度の土曜日は男性もカップルだったら入店OKなんだってー」
『へえ……ちょっと待ってね』

 浩介、今度の土曜日空いてるか? はあ?んなもん知るか、ばかじゃねーの。いいから空けとけよ。

 ………とかいう声が小さく聞こえる。慶先生、いつもと話し方全然違う。なんか……いいな。

『じゃあ、来週行くから』
「うんうん。待ってるねー」

 ばいばーい、と電話を切ったあと……なんだかおかしくてしょうがなくて一人で笑いだしてしまった。

 失恋、してしまった。
 でも、なんか………楽しい。

「せっかく失恋したから、髪の毛、切ろうかねー?」

 鏡に写る自分の姿に呼びかけてみる。
 生え際の髪の毛、茶色っぽい黒。これが本当の私の髪の色。
 ママちゃんの家を出て1か月。いつもだったらピンクに染め直すところだけど……。

「本当の色に戻そうかな……」

 本当のあたし……。どんなあたしになるんだろう。
 怖いようなワクワクするような、そんな気持ち。

 よし。すっごく可愛くなって、いい人見つけて、浩介先生に自慢し返してやる!

 興奮して眠れなくなったので、部屋の大掃除をはじめた。ピンクの服もピンクの小物ももう卒業。
 もっと大人可愛い子になりたいから。

 あたし、絶対、可愛くなる。それで本当の愛っていうのをつかまえてやる。



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以上、長々書いてしまった樹理亜パート……。
樹理亜もララもまだ若いんだから、これからいくらでもやり直しきくよ。頑張れ。

次回は、慶視点。陶子さんのお店に行きましょう。

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