2015年6月20日(土)
全員40歳になった記念同窓会の最中、委員長が『今だからいえること』を一人ずつ言え、と、皆にマイクを回してきた。
皆から注目されていた渋谷は、ちょっと笑ってマイクを手に取り、穏やかな、でも強い意思のこもった声で、はっきりと告げた。
「おれと桜井浩介は、高校二年生のクリスマス頃からずっと付き合ってます」
渋谷、あいかわらずキラキラしてるな……
衝撃告白に皆がザワザワしている中、そんなことを思った。
昔からそうだ。渋谷みたいな奴のことをカリスマ性があるというのだろう。なんで高校時代、こんな奴と同じグループでつるんでいたのか今だに分からない。
「元々おれが一年の時から浩介に片思いしてて……」
女性陣から悲鳴が上がったが、渋谷は淡々と言葉を続けている。
「高2の冬にようやく両想いになれて、それからずっと……」
渋谷が視線を向けた先には桜井が……
微笑みあった二人。なんて愛しさに溢れた瞳………
(………あれ?)
ふいに懐かしい感覚にとらわれた。
なんだろう? 前にもこんなことがあったような………
あれは………朝の教室。窓際の席……
『好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ』
独り言のつもりでつぶやいた言葉だったのに、
『ホントだな。奇跡だな』
『うん……奇跡だね』
渋谷と桜井がそう言ってうなずいて………
そして、今の二人と同じように微笑み合ったのだ。愛おしい気持ちが伝わってくるような瞳で……
(あれっていつだっけ? ……ああ、溝部が鈴木をクリスマスに誘うとか誘わないとかそんな話をして……)
ってことは、二人が付き合いはじめた頃ってことか。
(24年もたってるのに……)
同じ瞳で見つめ合う二人……
(そんな奇跡、あるのか?)
普通はない。少なくともオレにはないし、オレの周りの24年以上続いている夫婦だって皆、もう恋愛関係ではないと言っていた。
お互いを好きになる瞬間だって奇跡なのに、それが24年も続くなんて……信じられない。
その後、ぐでんぐでんに酔っぱらって立てなくなった桜井を家に連れ帰る手伝いをすることになった。
「送る代わりに合コン設定しろ!」
溝部が渋谷に詰めより、なぜかオレも行くことになってしまったのだ。正直、合コンなんて面倒くさかったのだけれども、昔と変わらない溝部の強引さに引っ張られてしまい……
渋谷と桜井の住むマンションは、3LDKのファミリー向けマンションで、子供の一人か二人、一緒に住んでいても良さそうな広さはあった。
でも、玄関側にある2つの部屋は荷物部屋になっているそうで(しかもそのうちの一つは、このマンションの持ち主である桜井の友人の荷物部屋らしい)、送っていったオレと溝部はリビングにゴロ寝することになったのだが……
「うわー、お前らホントに付き合ってんだなー」
リビング続きの洋間に置かれたダブルベッドを見て溝部が感心したように言った。オレもまったく同じことを思っていた。
(このベッドで一緒に寝てるなんて……)
やっぱりまだちょっと信じられない……。
でも、翌朝、嫌でも信じさせられてしまった。
朝方、目は覚めたものの、タオルケットにくるまれたままぼんやりしていたところ、リビングと洋間の仕切りが開き(普段は閉めていないらしい)、渋谷が静かに出てきて、コップに水を注いで、また洋間に戻っていったのが気配でわかった。桜井も起きたらしく、ボソボソと話し声が聞こえてきたのだけれども……
「………溝部?」
「シーーッ」
寝ていると思っていた溝部が、そーっと仕切りに近づき、ほんの少しだけ仕切りをあけた。
(それ、のぞきだろ)
なんて思いつつも、つられて溝部の上から中を覗き……
「…!」
その隙間から見えた光景に、息を飲んでしまった。
朝日の射し込んだ薄暗い部屋。渋谷がベッドに腰かけた桜井のあごを持ち、唇を寄せていて………
(聖母マリア?)
神々しい……とでも言うのだろうか。祝福のキス、とでもいうような……。
いやらしさがまったくない。ただ、綺麗で………汚したくないと思うような清らかさで……
(あ………水を飲ませてたのか)
一度唇を離し、コップの水を含むとまた、唇を寄せた渋谷。コクッと桜井の喉がなる。
「慶……」
今度は、離れようとしたのを追いかけるように、桜井の唇が渋谷の唇に重なる。
(………うわっ)
今度は神々しさとはかけ離れた、俗的な欲求。オレの知っている控えめな桜井とはまるで別人。渋谷を求める純粋な思いが溢れている。
(……オレ、キスなんて何年してないんだっけ……)
なんだかクラクラしてきてしまう。
「ちょっと、待……」
「待てない……」
戸惑ったように離れようとした渋谷を引き寄せ、桜井が強引に再び唇を重ねようとした………、その時。
「わっ」
「げっ」
重心をかけすぎたせいか、仕切りがガタガタと外れて、その拍子に倒れこんでしまった。渋谷と桜井がビックリしたようにこちらを振り返っている。
「溝部? 山崎?」
「う……」
そして、倒れたオレに押し潰された溝部が呻いている……。
「ご、ごめんっ」
「くそー……リア充め……。渋谷、合コンの約束忘れてないだろうな……」
よろよろと起き上がりながら、溝部が合コンの確認をしているから笑ってしまう。
(合コン、かあ……)
全然乗り気じゃなかったのに、ちょっと行きたくなってきた。さっきの桜井に影響されて、人恋しくなってしまったのかもしれない。
(あんな風に求めたことなんて……、げ)
過ぎ去った年月を数えてみて、愕然とする。
(最後、10年くらい前か!? うわ……どんだけご無沙汰だよ……)
そんなことを思っていたら、溝部が二人に合コンの相手について突っ込んで聞いているのが耳に入ってきた。
「戸田先生ってのはどんな方で……」
「心療内科の医者で……歳は……」
「三十前半ってとこじゃない? 美人だよ」
「美人女医……」
美人女医!?
思わず溝部と顔を見合わせニヤリとしてしまう。女医さんの知り合いはいないでもないけれど、みんな年上ばかりで……年下の、しかも美人女医なんて知り合ったことがない。俄然楽しみになってきた。
(美人女医。美人女医……)
こんなことで心踊ってしまうなんて、まるで高校生に戻ったかのようだ。自分でも呆れてしまう。
(でも……)
『私のことはいいから、早くいい人見つけて結婚しなさいよ』
ことあるごとにそう言ってくる母の笑顔を思って複雑な気持ちになってくる。
この歳で合コン、ということは、もし上手くいったら、当然結婚を視野に入れた付き合いということになるのだろうが……
(結婚……かあ……)
色々な思いが渦巻いてくる。
そんな中、渋谷と桜井は、24年の付き合いのはずなのに、まるで新婚さんのようなノリで、当てられてしまう。同性なのに違和感がないのは、渋谷が相変わらず中性的だから、ということもあるのだろうけれど、二人がお互いを思いあっているということがヒシヒシと伝わってきて、疑問を挟む余地がないからだろう。
(ちょっと羨ましい……)
そう思えるってことは、恋愛に対して少しは夢と希望を持ってるってことなのだろうか。
(美人女医……美人女医)
どんな人なんだろう。ちょっと………いや、かなり楽しみだ。
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お読みくださりありがとうございました!
『カミングアウト~同窓会編』後半部分の山崎視点でした。
約10年ご無沙汰の山崎君。アラサーとアラフォーじゃ体力も違うよ……ガッツリ文化系男子の山崎……大丈夫かな。浩介と一緒にスポーツジムでも行った方が……と心配になってきました。
ちなみに、『好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ』と山崎がつぶやいたのは『巡合12-1』でした。高校時代の慶と浩介……もう初々しすぎて……自分で書いたものを自分で読み返して自分でキャー(≧∇≦)とか言ってる安上がりな人間です私^^;
そんな感じで……明後日は戸田ちゃん視点です。合コン当日の話です。よろしくお願いいたします!
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