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風のゆくえには~たずさえて4(菜美子視点)

2016年07月12日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2015年8月15日(土)


 一昨日からお盆休みのため、実家に泊まりに来ている。でも、

「菜美子、今、彼氏は? まだ結婚しないの?」

とか、母がうるさいので、今朝から行くバーベキュー合コンのあと、そのまま一人暮らしのマンションに戻るつもりだ。

 準備を終えて、階段をおりていく途中で、嫌な………嫌でたまらなくて、でも、心が踊ってしまうほど嬉しい声が聞こえてきて足を止める。部屋の中では音楽をかけていたせいか来訪に気がつかなかった。

(……お化粧したあとで良かった)

 そう思いながら、髪の毛が変になっていないか気になって、さっとなでつける。
 深呼吸をして、覚悟を決めて、声のする台所に入っていくと、

「よお」
「…………」

 分かっているのに、心臓がぎゅっとなる。大好きな響く声。でも冷静を装って、冷たく答える。

「何してるんですか? 院長」
「院長はやめろよ。職場じゃねーんだから」
「…………」

 そんなの、分かってる。
 病院でのスーツや白衣と違って、ラフなポロシャツ姿。髪の毛もいつもは後ろに流しているのに、今は無造作……というか単にボサボサ。完全な休み仕様。

(くそー……これはこれで中年の色気だだもれだな……)

 腹立つくらい………

「ほら菜美子、ヒロ君、スイカ持ってきてくれたのよ」
「スイカ?」

 見ると大きなスイカが2つ……

「昨日、熊本の親戚から送られてきたんだよ。お前、今日バーベキューに行くっていうからちょうどいいと思って」
「バーベキューでスイカ?」

 首をかしげると、ヒロ兄はスイカをペチペチ叩いて、

「バーベキューっていったら、当然やるだろ。スイカ割り」
「は?」

 なぜバーベキューでスイカ割り?
 まあ、スイカ割りはともかく、スイカはあったらあったで嬉しいか……

「駅まで迎えの車がくるんだろ? 1個持ってけよ」
「…………。幹事に聞いてみる」

 幹事の溝部さんにラインを送る。
 と、すぐに返事が返ってきた。

『スイカ!それは嬉しい!是非お願いします!バットとビニールシート持っていきます!』

 バットとビニールシートって…………、スイカ割りか!!

(やっぱり二人、似てるかも……)

 ちょっと笑ってしまったところで、

「ほら、やっぱりスイカ割りだろ?」
「!」

 耳元で声がして飛び離れる。至近距離にヒロ兄の唇。ヒロ兄の匂い……

「人の携帯のぞかないでよ!」
「なんだよ、今さら隠すことないだろ」
「……っ」

 ポンポン、と頭を撫でられ、泣きそうになってくる。ホントにこの人は……っ

「じゃ、おばさん、オレ菜美子のこと駅まで送ってそのまま帰るよ」
「ありがとね、ヒロ君。お母さんによろしくね」
「…………」

 50過ぎのオジサンに君付けもないだろ、と思うのだけれど、小さい頃から知っていると、いつまで経っても子供みたいなものなのだろう。

 ヒロ兄は父と母が昔住んでいたアパートの大家の息子なのだ。長く子供ができなかった両親にとって、ヒロ兄は息子代わり的なところもあったらしい。
 私が小さい頃にそのアパートからは引っ越したのだけれども、引っ越し先も近所だったため親交は続いていた。


「行くぞ?」

 当然のように、スイカと私の荷物も持ってくれるヒロ兄。その腕の逞しさに今さらキュンキュンしてしまう私も大概だ。悔しいので憎まれ口をたたいてしまう。

「お腹出てきたね、ヒロ兄。いつもは白衣だから目立たなくて気がつかなかった」
「50過ぎでこれだけしか出てないなんて奇跡だぞ? お前の旦那になる奴なんてもっと出るから覚悟しとけ」
「…………」

 お前の旦那になる奴、か……。

「あいにくそんな人いませんけど」
「さっきのラインの奴は? 仲良さそうだったじゃねえか」
「別に仲良くないし」

 車に乗り込む。いつもは奥さんが座ってる助手席……。

「駅に迎えにくる奴もそいつ?」
「違うよ」
「違うのか。どんな奴がくるんだ?」
「…………。なんでそんなこと聞くの?」

 答えは分かっているくせに聞いてしまう。
 聞きたくて、聞きたくない、答え。

 ヒロ兄は予想通りの答えをあっさりと言う。

「そりゃ、お前はオレの大事な妹だからな。変な奴と付き合わせるわけにはいかねーよ」
「………………」

 妹。大事な妹。
 嬉しくない。でも嬉しい。でも嬉しくない。

「…………。普通の人だよ。区役所に勤めてる、真面目な感じの人」

 ヒロ兄とは正反対な人。
 そう答えると、ヒロ兄は、へえ~とうなずき、

「公務員か。いいじゃねーか」
「…………」

 いいって何が? 結婚相手として? 安定の公務員ってやつ? ……と、トゲトゲしく言いたくなるのを抑えて、話題をそらす。

「でも私だけ迎えにくるわけじゃないよ。明日香とも駅で待ち合わせてるの」
「明日香ちゃんか! 久しぶりに名前聞いたな。なんだ、あの子もまだ結婚してないのか? 昔、変な男と付き合ってたよな」
「あ~、あのバンドマンね」
「そうそう。頭爆発してた奴な!」

 ヒロ兄のはしゃいだような声に嬉しくなってしまう。嬉しくて嬉しくて切ない時間。このまま駅に着かなければいいのに……

 と思っていても、駅までは車で5分弱。あっという間に着いてしまった。

「あ、あいつか?」
「…………あ」

 駅前の停車スペースで、お迎えの山崎さんが、暑い中、律儀に車から出て待っている。

 あーあ……まだ来てなければヒロ兄ともっと一緒にいられたのに……

 そんな私の内心なんか知るわけもないヒロ兄は、楽しそうにケタケタと笑いだした。

「うわー、ザ・公務員って感じだな」
「………失礼でしょ」

 たしなめながらも、私もつい笑ってしまう。

 こちらに気がついて、軽く会釈をした山崎さん……
 公務員の中にはもちろん派手な人だっているのに、『公務員』というと、真面目な人のような気がしてしまう。山崎さんはまさに『公務員』を体現したような人だ。


「車停められねえな。お前ここで降りられるか?」
「あ、うん」

 3台分の停車スペースは全部埋まっているため、山崎さんの車のほど近くに車を寄せて停めてもらった。後続車がくる前に早く降りなくてはならない。

「気を付けてな」
「ありがと」
 ヒロ兄の言葉に肯きながら後部座席の荷物を取ったところで、

「持ちますよ」
 山崎さんがこちらまで来て、荷物とスイカを受け取ってくれた。先日も思ったけれども、山崎さん、けっこう気が利く。

「じゃ、菜美子のことよろしくお願いします」
 助手席側の窓を開けて大きな声で言うヒロ兄……。よろしくって何の立場のよろしくよ?

「あ、はい」
「じゃーな」

 山崎さんが真面目な顔をして再び頭を下げたのをみて、ヒロ兄はニヤニヤしながら私に手を振り、行ってしまった。

(何そのニヤニヤ……)

 ああ、腹が立つ。腹が立つけど……。でも、もうどうしようもない。どうしても好き。やっぱり好き。久しぶりにプライベートのヒロ兄を見て確信してしまう。

(バーベキュー……昔連れて行ってもらったことあったな……)
 まだ小学生のころだ。無邪気にヒロ兄に肩車してもらっている写真もあった。まるで歳の離れた兄妹のように……。

「今の方は……?」
「………」

 山崎さんの当然の疑問に、一瞬詰まってしまう。

 近所に住んでるお兄さん。職場のエライ人。説明するとそういうことになるけど……でも。

「どういう関係に見えました?」
 ちょっとイラッとしながら山崎さんに聞いてみる。ただの八つ当たりのイライラ。ダメだと思いながらもイライラが止まらない。

 どうせ、年の離れた兄、とでも見えただろう。若い父親ってこともありうる。ヒロ兄は私の20歳年上なので無い話ではない。
 どうせ、そうとしか見えないのだ。いつまでたっても、私はヒロ兄の『大事な妹』。それ以上でもそれ以下でもない。

「どういう関係……」
「………」

 山崎さんはこちらのイライラには気が付かないように、うーんと唸ると、

「あの、変なこと言っていいですか?」
「え」

 なんだろう?

 山崎さんに真っ直ぐ瞳を向けられ、ちょっとイライラがおさまる。変なことって何?

「いや……あの、これから合コン、行くのに変なんですけど」
「はい?」

 山崎さんはうーん、と再び唸ってから、ポツリ、と言った。

「恋人? って思ったんですよ」
「………え」

 な……何を………

「今の男性を見送った戸田さんの目が………」

 山崎さんの静かな声……

「桜井が渋谷を見るときの目と同じだった気がしたので」
「………っ」

 心臓がドキンと波打つ。
 桜井氏が渋谷先生を見る目……愛おしくてたまらない、という目……

「あ………」

 何か、言わないと……否定しないと……
 そう思いながらも言葉が出てこない。だってそれは真実だから……

 気マズイ沈黙が数秒流れた、その時。

「菜美子ーー山崎さーん!」

 明日香の声が沈黙を破ってくれた。大きな麦わら帽子をかぶった女性がこちらに向かって歩いてきている。

「あー、スイカってそれー? 溝部さんから連絡もらったよー」
「……」

 溝部さん、マメだな……

「荷物、トランク入れますね? スイカは、転がってしまうと困るので……」
「あ、はい。持ってます」

 トランクを開けながら何事もなかったかのように言ってくる山崎さんに、何事もなかったかのように肯く。

「今日はよろしくお願いしまーす」
「お願いします」

 山崎さん、明るく挨拶をする明日香から荷物を受け取り、真面目に挨拶をかえしている。私とのさっきの会話はなかったことにするつもりらしい……

「菜美子? どうかした?」
「……あ。いや」

 明日香の声に我に返る。思わず山崎さんを観察してしまっていた。

 この人……気が利くのは、まわりをよく見ているからだ……

(油断できないな……)

 こういう人は苦手だ。見透かされてる気がする。

 つき合うなら、もっと鈍感な人がいい。鈍感で明るくて……

(………)

 結局、脳裏に浮かぶのはヒロ兄の姿なんだから、私も本当にどうしようもない。




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お読みくださりありがとうございました!
山崎と菜美子……本当にくっついてくれるのかしら……と、真剣に心配になってきました。
いやでもまだ、昨年の8月だし。まだまだこれからです。
どうぞよろしくお願いいたします!

そしてそして。
クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当に本当にありがとうございます!
どれだけ励まされていることか……感謝感謝でございます。
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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コメント (2)
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