創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

風のゆくえには~たずさえて2(菜美子視点)

2016年07月08日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2015年7月4日(土)


「65点、70点、80点、判定外」

 合コンの二次会への移動前。
 化粧直しの鏡の前で明日香が評したのを聞いて、「まあ、妥当な点数ね」とうなずく。

 全員、高学歴で正社員、というだけで、もう50点の基礎点がある。それに容姿と性格等を加点減点していくと……

 山崎さん、65点。
 優しそう。でも地味。良い意味でも悪い意味でも普通過ぎ。公務員というところは親ウケが良さそう。

 溝部さん、70点。
 明るく楽しいムードメーカー。若干太目なところで評価ダウン。でも、勤務先が有名メーカーというところと、わりとお洒落なところで大幅アップ。

 桜井氏、80点。
 学生時代は『普通』の外見だったかもしれないけれど、この年齢になってくると、背が高くて痩せていて髪の毛が薄くなくて清潔感がある、というだけでかなりポイントは高くなる。桜井氏の場合、さらに、顔もまあまあで、穏やかな物腰で、先生をしているだけあって話上手聞き上手で、文句の付けようがない。ただ、一人っ子なので、親の介護とか心配なところでマイナス。

 渋谷先生、判定外。これは……

「渋谷さんはホント判定外だよね。あんなの隣にいたら、こっちが引き立て役になっちゃうよ」
「いえてる」

 白衣姿やスーツ姿のいつもの渋谷先生は文句なくカッコいい。でも今日の私服の渋谷先生は何だか可愛らしかった。恋人である桜井氏と一緒だから余計に表情が可愛いくなっているのかもしれないけれど、とても40過ぎには見えない。こんな人が隣にいるなんて、女としてたまったもんじゃない。


「今回の合コンは、繋ぎとしては大当たりだね」

 バチン、とコンパクトを閉じて明日香が満足そうに言う。
 そう。合コンは何もその場の相手ばかりがターゲットではない。その後、その交遊関係を広げて繋いでいくことが大切なのだ。

「早々に溝部さんの会社の人紹介してもらおうよ」
「あー、そうだね……」
 早々にっていうのも失礼な気がするんだけど……

「ねえ、菜美子。二次会、どうする?」
「どうするって?」

 綺麗に口紅を塗り直す明日香。女の私が見ても魅力的な唇。ふんわりした雰囲気。痩せてるくせに大きな胸。女性としてすごい魅力を兼ね備えているのに、33歳になる現在まで結婚していないのは、仕事になると鬼モードに入ってしまうことと、結婚相手に求める理想が少し高めなことが理由だと推察される。


「あのバカップルはもう帰るんでしょ?」
「バカップルって」

 明日香の言い方に笑ってしまう。でも、確かに今日の渋谷先生と桜井氏はバカップルぽかった。
 元々二人は、私達を引き合わせるために来たのであって、合コンに参加しにきたわけではない。でも、あの過剰な視線の絡ませ合いは、おそらく、明日香を牽制したいという気持ちからきているのだろう。本当にこの二人、嫉妬深くて独占欲が強くてどうしようもない。誰も取ったりしないから、二人で勝手に完結してろっての。

「あの二人帰ったら2対2になるでしょ?  どっちがいい?」
「あー……」

 そういうことか。んーと唸っていると、明日香がポンと手を打った。

「菜美子、溝部さんの方がタイプじゃない? ヒロ兄ってあんな感じだったよね」
「…………」

 全然似てませんけど? そりゃタイプ別に分類したら同じかもしれないけれど、ヒロ兄はもっと話が上手。ヒロ兄はもっと背が高い。ヒロ兄はもっと……

 すぐに浮かんでくる面影を追い払って、はいっと手を挙げる。

「いやいや、私、山崎さんがいいなー。実直公務員」
「そう? じゃ、私、溝部さんと次の合コンの話、詰めとくー」
「ありがと」

 普通の顔をしてお礼を言いつつも、モヤモヤが募ってきてしまった。

(明日香、余計なことを……)

 中学からの親友で私のことを何でも知っている明日香。でも、明日香には言うと怒られるから内緒にしていることが一つある。それは……

(まだ、ヒロ兄のことが、好き)

 一度告白して玉砕してから何年たっただろうか……。
 それから何度も何度も忘れようとした。他の男と付き合ってもみた。でも『好き』という気持ちはどうやっても消えない。私の周りに空気のように漂っていて、無くそうとすると苦しくてしょうがなくなる。

 だから、諦めたのだ。『好き』じゃなくなることを。
 そして、決めたのだ。『好き』の気持ちを携えたまま生きていくことを。




 二次会の場所は、多国籍のお酒を出してくれる少し変わったお店だった。ダーツやビリヤードで遊ぶ場所もあり、席も決まっていないので、自由にウロウロできる。溝部さん行きつけの店らしく、入るなり溝部さんはマスターと親しげに話していた。溝部さんのオシャレポイントがぐんぐん上がっていく。

 一方の山崎さんは、なんだか居心地が悪そうだった。でも、さっと席を取ってくれたり、荷物を置く場所を確保してくれたり、飲み物を持ってきてくれたり、結構、女性慣れしてるんじゃないかな、と思わせる行動が多々みられたので、

「渋谷さんと桜井さんからは、お二人は『女性に縁がない』ってお聞きしてたんですけど……」

 炭酸がグラスの中で弾けている様子を見ながら、隣に座った山崎さんに聞いてみる。

「お二人とも、普通に女性の扱い慣れてますよね?」
「慣れ……ですか」

 山崎さんは、うーんと唸ってから、

「溝部はどうか知りませんが、私は仕事柄、女性と関わることは多いかもしれません」
「そうなんですか?」

 先ほどの一次会ではもっぱら高校時代の話で盛り上がってしまったため、現在の話をほとんどしなかった。でも実はそこに少し好感を持っている。『女医』ということに食いついて、根掘り葉掘り仕事のことを聞いてきたり、しまいには健康相談をしはじめる男共をたくさんみてきただけに、「高校時代何部だったか」「文化祭では何をしたか」なんて話ではじめから盛り上がった合コンは久しぶりだった。

「山崎さんは区役所にお勤めなんですよね?」
「はい。今は地域振興課っていう部署にいます」

 生真面目に答える山崎さん。ホントに真面目が服着てるみたいな人だな……。

「女性と関わることが多い部署なんですか?」
「ええまあ、後期高齢者の方が主ですけど」
「こう……っ」

 言い方がおかしくて思わず吹き出してしまう。

「えーと、後期高齢者ってことは……」
「75オーバーです。でも今のお年寄りは皆さんお元気ですよ」
「へえ……」

 何となく、おばあちゃん達に囲まれた山崎さんが想像できてほのぼのしてしまう。

「地域振興課って、具体的には何を?」
「今は大きな仕事としては、秋に行われる音楽祭の準備とか……」
「音楽祭……」

 別世界だなあ……
 へええ……と感心していたところ、

「何何?なんの話?」

 ダーツを終えたらしい明日香と溝部さんが戻ってきた。二人とも見たこともないような色をした飲み物を持っている。

「仕事の話。何だか別世界だなーって思って」
「菜美子はお医者さんだもんねー。他とは全然世界違うでしょ」
「そうかなあ……」

 この世界しか知らないから分からない……。

「でも、別世界、と言えば!」

 明日香がピッと指を立てた。

「渋谷さんと桜井さん! 私、本物のゲイのカップルって初めてみましたよー」
「明日香……」

 本人達がいないところでそういう話題ってちょっと……と思った私には気がつかず、明日香はにこにこと男性二人に話をふった。

「友人として、二人が付き合ってるって知ったときどう思いました?」
「どうって……」

 うーん、と溝部さんは首をかしげると、

「はじめは驚いたし、隠されてたことに怒りも感じたけど……」
「…………」
「今はラッキーだなあと」

 ラッキー?
 キョトンと皆で溝部さんを見返すと、溝部さんはいたずらっ子のように笑った。

「だってあいつらレベル高いから。明日香ちゃんも菜美子ちゃんも、あいつらの点数、オレ達より高くつけたでしょ?」
「……………」

 す、するどい。70点溝部さん。
 溝部さんはニヤリとすると、

「そんな二人が二人でくっついてるってことは世の中から二人も強力なライバルが減るってことで、ラッキーだな~と」
「…………なるほど」

 前向きというかなんというか。
 明日香が苦笑気味に溝部さんのグラスに「乾杯」とグラスを合わせ、黙っている山崎さんを振り返った。

「山崎さんは? どう思いました?」
「そうですね……」

 山崎さんは真面目にうなずくと、

「奇跡だな、と」
「奇跡?」

 山崎さん、フッと遠いところを見るような目になった。

「24年も同じ気持ちでいられるなんて奇跡なんじゃないかな、と……。しかも同性ってことで普通よりも障害は多かったはずなのに、あんな風に自然に、一緒にいることが当然、みたいに……」
「…………」
「奇跡っていうか……、あいつらが特別なんじゃないかなって……」

 4人4様に思いを馳せたため、沈黙が流れる……
 が、その沈黙を破ったのは、やはり溝部さんだった。

「いや、オレ達もこれからそういう相手に出会えばいいわけだろ?!」

 溝部さんは明るく言うと、私と明日香に手を差しのべてきた。

「どう? 明日香ちゃん、菜美子ちゃん。オレと24年後も共に生きる幸せを考えてみない?」
「あはははは」
「いや、明日香ちゃん、笑い事じゃないから。マジだから!」

 明日香と溝部さんのじゃれあうような会話を聞きながら、山崎さんを盗み見ると……

「…………」

 やはりまだ視線が遠いところにある。おそらく、彼の心の中には………

(おっと、いかんいかん)

 ついつい職業病がでてしまいそうになり、慌てて思考を停止させる。

 その代わり、山崎さんの器用そうな細い指を見ていたら、その手がヒロ兄のものと重なっていった。ヒロ兄の手は大きくて温かくて……

(24年も同じ気持ちでいられることが奇跡?)

 笑ってしまう。そんなこと奇跡でもなんでもない。だって私は知っている。

(私は、20年後も30年後も変わらない)

 ずっとずっと、ヒロ兄のことが好き。それは絶対に変わらない。そんなこと奇跡じゃない。当然のことだ。

 


---------------



お読みくださりありがとうございました!
ヒロ兄=峰広明先生、です。
菜美子より20才年上。現在、菜美子や慶の勤める病院の院長です。
親同士が親しい関係で、菜美子は小さな頃から遊んでもらったり勉強見てもらったりしてました。


山崎と菜美子、全然親しくなりませんねえ……大丈夫かな(^_^;)
ま。大人の二人にはゆっくりゆっくり近づいていってもらいます。お見守りいただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします!!


そして。
こんな普通の物語を、クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございます。どれだけ励まされたことか………。よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「たずさえて」目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする