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風のゆくえには~たずさえて9(山崎視点)

2016年07月22日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて


2015年12月26日(土)


 目黒樹理亜の勤めている女性専用のバーは、偶数月の最終土曜日だけ、男性のカップルも入店が認められているそうだ。『ミックスデー』というらしい。

 樹理亜の主治医である戸田さんが樹理亜のことを心配していたので、そのミックスデーを利用して樹理亜の様子を見に行こうと思いつき、

(男二人だったらいいんだよな?)

と、軽い気持ちで、高校の同級生の桜井を都内の喫茶店に呼び出し、「一緒に行ってくれないか」と頼んだところ…………


「無理無理無理無理!そんなの慶にバレたら殺されちゃうよ!」

と、すごい勢いで断られた……。

 桜井浩介と渋谷慶は、オレの高校時代の同級生だ。同性でありながらかれこれ24年も恋人関係である二人……

「殺されるってそんな……」
「ホントだって! あの人怒らせると本当に怖いんだって!」

 ブルブルと震えている桜井……

「なんで怒るんだ? オレと二人で出かけたことなんて前にも……」
「違う違う!」

 桜井がぶんぶん首を振った。

「あそこはカップルじゃなきゃ入れないでしょ。ってことは、カップルのふりをするってことでしょ」
「まあ、そういうことになるのか……」
「無理無理無理。ああ見えて、慶ってホントに嫉妬深いんだよ。山崎だってタダじゃすまないよ」

 おそろしい……と震える桜井……

 んー……それじゃあ……と考えて、「あ、そうだ」と思い付く。発想の転換だ。

「じゃ、逆に渋谷に頼めばいいのか。渋谷の仕事が終わったら………」
「えーーーー!」

 人の言葉を遮って、今度はパタパタと手を振る桜井。

「やだやだ!絶対やだ! 慶と山崎がカップルのふりするなんで絶対やだからね!」
「……………」

 こいつら………
 ラブラブ過ぎる二人のラブラブ具合を舐めていた………

「じゃあどうしろと……」
「溝部でも誘ったら?」
「やだよ」

 色々説明するのが面倒くさい。

「あ、じゃあ、店に行かないで、目黒さんに会えばいいじゃん」
「まあ、そうなんだけど……」

 連絡先知らない……

 言うと、桜井は「おれ知ってるー」とラインを打ちはじめてくれた。

(桜井………変わったよな……)

 高校の時はひたすら『大人しい』という印象があった。今も騒がしいというわけではないけど………『明るくなった』というのが一番あてはまるかもしれない。半年前、10年以上ぶりに同窓会で再会したときも思ったけれど、その時よりもさらに、着ていた鎧を脱いだような……身軽な感じ。

「そういえば、23日、誰かとデートだったんだよね? お店結局どうした?」
「あー、その節はアリガトウゴザイマシタ……」

 ラインを打ち終わった桜井に深々と頭を下げる。

 23日の夜、事情があって戸田さんと飲みに行くことになり、8歳年下の都会で働く女性を連れて行くお店なんて知らないオレは、桜井に相談したのだ。すると、桜井はすぐに3件の店を紹介してくれた。相手が戸田さんだとは何となく言わなかった。

「結局、ワインバーにしたよ」
「あー、あそこ雰囲気いいよね」
「うん……」

 そうなのだ。雰囲気もいいし、客層もいいし、料理もワインも文句のつけどころなかった。
 彼女も「昔一度来たことがある」と言いつつも、リニューアルされてからは来たことないから新鮮、と言って、初めは喜んでくれていた風だったのに……

『ごめんなさい。帰ります』

 途中から様子がおかしくなり、急に、引き留める間もなく帰ってしまったのだ。

(オレ、何か変なこと言ったかな……)

 思いだしても思いだしても分からない……。
 戸田さんからは翌日、お礼と突然帰ってしまったことへのお詫びのラインがきたけれども、帰ってしまったことの理由は書かれていなかった。

(なんだったんだろう……)

 3日過ぎたけれどもモヤモヤしたままだ。ただずっと、あの時の真っ青な顔をした戸田さんの顔がチラついて離れない。かといって、用事もないのに、連絡できるほど親しくもない。

 実は、それで樹理亜の様子を見に行こうと思った、というところもある。もちろん、心配だからという気持ちは大前提としてあるけれども、戸田さんへの連絡に、樹理亜の様子の報告、という理由付けが欲しかった、というのもあるわけで……


「あ、返事きた」

 桜井の声に我に返る。が、

「目黒さん、今、戸田先生のクリニックにいるって」
「え?!」

 その言葉に飛び上がってしまった。

「と、戸田さん?」
「うん。戸田先生、土曜日はこの近くのクリニックで診療してるんだよ」
「え? あ、え? あ、そうなんだ……」

 動揺を隠しきれないオレの様子に、はて? と桜井が首を傾げた。

「どうかした?」
「いや……いや、なにも?」
「あ、それでね……」
「……え」

 差し出されたスマホの画面を見て息を飲んでしまう。

『病院の外にストーカーがいて帰れないから迎えにきてー!』
 
 ガクガクブルブルと下に書かれたウサギのスタンプと一緒に送られているので、冗談だか本気だか分からない感じになっているけれども……たぶん本気だ。ストーカー……あの男のことだろう。

「行こう!」

 即座に立ち上がる。
 戸田さんの件はとりあえず横に置いておいて。今はとにかく樹理亜が心配だ。

(…………いかん)

 そう思いながらも、これで戸田さんにも会える、ということに少し喜んでしまっている自分がいる。戒めるために、ゴンッと両こめかみをゲンコツでたたくと、

「だ、大丈夫? 山崎……」

 桜井にビックリした顔で見られてしまった。

 いや、色々、大丈夫じゃない。



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お読みくださりありがとうございました!

実はこの「たずさえて」を書くにあたり、一番はじめに私の頭に再生されたのは、冒頭の「そんなの慶にバレたら殺されちゃうよ!」だったのでしたー(*^-^)

山崎に紹介したワインバーは、浩介は慶に連れて行ってもらって知ったお店なのでした。そして、慶がその店を知ったのは、前に勤めていた病院の忘年会がきっかけで……その忘年会の幹事が峰先生だった、なんて覚えているわけないよねー……な感じの必然というか偶然というか。

クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございますーー!
もう嬉しすぎて、画面をみてうわーと叫んでおります。
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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コメント (2)
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