「ああ、よかった。山本さん笑ってくれた」
緑澤君がホッとしたように言う。
「山本さんの笑った顔っていいよね」
照れるようなことを真顔で言われた。
「僕ね、入学したときから山本さんに憧れてたんだ。いつも凛としていて、まわりに流されてなくて、一匹狼って感じで格好良くて」
「それは・・・」
ただ単に、まわりに溶け込めていないだけなんですけど・・・。
「主体性のない僕とは大違いだなって思って憧れてた。でも、遠足で科学館に行ったときに、みんなで花火の映像をみたでしょ? その時の山本さんの笑顔がね、すごくかわいくて・・・。気がついたら好きになってた」
「・・・・・・」
恥ずかしい。こんなこと言われたの初めてだ。顔が火照ってくる。
緑澤君のまっすぐな瞳を見ていたら、ふいにお父さんの浮気相手の女性と重なった。
実は、父母には言っていないのだが、一度だけ見たことがあるのだ。
父を勤め先の玄関口で待ち伏せして、尾行した際に、妊婦姿の彼女を見ることができた。彼女は父を見つけると、嬉しそうに、今の緑澤君のようなまっすぐな瞳をして父の元に駆け寄ってきた。彼女は、父のことが本当に好きなんだな・・・。
「僕、変わるよ。強くなるよ。これからは僕が山本さんのことを守るよ!」
「ありがとう・・・」
緑澤君の本気が伝わってくる。
でも、彼は勘違いしている。私はそんな風に思ってもらえるような人間じゃない。
いじめグループにもされるがままだし、担任に反抗もできないし、家に帰ってこない父に文句も言えないし、毎日暗い顔をしている母にも正面から向き合ってこなかった。
私はゆっくりと緑澤君のことを見上げた。
「でも、私は緑澤君が思っているような子じゃないよ。買いかぶってるよ」
「そんなことないよ! だって・・・」
なおも言い募ろうとした緑澤君に、かぶりをふった。
「そんなことあるんだよ。でもさ・・・そう思ってもらえるような子になりたいな」
「山本さん・・・」
「そのためには、今のままじゃダメだね」
何もかもから目を背けてばかりの私。でもこのままじゃいけないんだ。
「私、強くなりたい。本当に強くなりたい」
きょとん、としている緑澤君の手をぎゅっと握りしめる。途端に緑澤君の顔が赤くなる。
「や、山本さん?!」
「ありがとうね。嬉しかった。好きって言ってくれて嬉しかった。花火も嬉しかった。私のほうこそ変わらなくちゃいけないね」
「山本さん・・・?」
首をかしげた緑澤君を置いて、私は帰路についた。瞼の裏にくっきりと緑澤君の花火の輝きと彼の真剣なまなざしが焼き付いている。
緑澤君と同じ目をした父の浮気相手。彼女も本気で父のことが好きなんだろう。たぶん父も。それならば・・・母と話し合わなくてはならない。このままでは何も進まない。私も。母さんも。
それから数日後。
父と母が離婚をした。私は夏休みに入ってすぐに母の実家の近くに引っ越した。緑澤君とはそれっきり一度も会っていない。
転校したことで、あのイジメグループや担任から逃げたような感じがして、何だか悔しいけれど、でも、あそこに居続けても私はきっと変わりきることはできなかっただろう。
転校先では今までと違う自分になることができた。高校を卒業した今、ようやく緑澤君に会う自信がついたというのに・・・。
緑澤君がホッとしたように言う。
「山本さんの笑った顔っていいよね」
照れるようなことを真顔で言われた。
「僕ね、入学したときから山本さんに憧れてたんだ。いつも凛としていて、まわりに流されてなくて、一匹狼って感じで格好良くて」
「それは・・・」
ただ単に、まわりに溶け込めていないだけなんですけど・・・。
「主体性のない僕とは大違いだなって思って憧れてた。でも、遠足で科学館に行ったときに、みんなで花火の映像をみたでしょ? その時の山本さんの笑顔がね、すごくかわいくて・・・。気がついたら好きになってた」
「・・・・・・」
恥ずかしい。こんなこと言われたの初めてだ。顔が火照ってくる。
緑澤君のまっすぐな瞳を見ていたら、ふいにお父さんの浮気相手の女性と重なった。
実は、父母には言っていないのだが、一度だけ見たことがあるのだ。
父を勤め先の玄関口で待ち伏せして、尾行した際に、妊婦姿の彼女を見ることができた。彼女は父を見つけると、嬉しそうに、今の緑澤君のようなまっすぐな瞳をして父の元に駆け寄ってきた。彼女は、父のことが本当に好きなんだな・・・。
「僕、変わるよ。強くなるよ。これからは僕が山本さんのことを守るよ!」
「ありがとう・・・」
緑澤君の本気が伝わってくる。
でも、彼は勘違いしている。私はそんな風に思ってもらえるような人間じゃない。
いじめグループにもされるがままだし、担任に反抗もできないし、家に帰ってこない父に文句も言えないし、毎日暗い顔をしている母にも正面から向き合ってこなかった。
私はゆっくりと緑澤君のことを見上げた。
「でも、私は緑澤君が思っているような子じゃないよ。買いかぶってるよ」
「そんなことないよ! だって・・・」
なおも言い募ろうとした緑澤君に、かぶりをふった。
「そんなことあるんだよ。でもさ・・・そう思ってもらえるような子になりたいな」
「山本さん・・・」
「そのためには、今のままじゃダメだね」
何もかもから目を背けてばかりの私。でもこのままじゃいけないんだ。
「私、強くなりたい。本当に強くなりたい」
きょとん、としている緑澤君の手をぎゅっと握りしめる。途端に緑澤君の顔が赤くなる。
「や、山本さん?!」
「ありがとうね。嬉しかった。好きって言ってくれて嬉しかった。花火も嬉しかった。私のほうこそ変わらなくちゃいけないね」
「山本さん・・・?」
首をかしげた緑澤君を置いて、私は帰路についた。瞼の裏にくっきりと緑澤君の花火の輝きと彼の真剣なまなざしが焼き付いている。
緑澤君と同じ目をした父の浮気相手。彼女も本気で父のことが好きなんだろう。たぶん父も。それならば・・・母と話し合わなくてはならない。このままでは何も進まない。私も。母さんも。
それから数日後。
父と母が離婚をした。私は夏休みに入ってすぐに母の実家の近くに引っ越した。緑澤君とはそれっきり一度も会っていない。
転校したことで、あのイジメグループや担任から逃げたような感じがして、何だか悔しいけれど、でも、あそこに居続けても私はきっと変わりきることはできなかっただろう。
転校先では今までと違う自分になることができた。高校を卒業した今、ようやく緑澤君に会う自信がついたというのに・・・。