「随分、色褪せたな。この街も」
父は微かに呟いた。しかし、小さな耳は聴こえが良かった。
「ずいぶんって何?」
「自分で調べなさい」
「うん。じゃあ、いろあせたって何?あつい時にかくあせ?」
「そう。太陽に当たると汗かくだろ。それで色が落ちちゃうんだな」
「色があせないものってあるの?」
「それはないな。みんな色褪せる。いや、もしかしたら、あるかもしれない。でも、それは眼に見えないな」
「ボクにも見えない?」
「うん。お前にも、パパにも見えない。人間には見えない」
「パパ、何でうちにはママがいないの?」
「知らない」
息子はうつむき、会話は途切れた。いつしか二人は古びた住宅街を抜け、田んぼに挟まれた細い道を、赤く熟して潜もうとしている陽に向かって歩いていた。蝉の求愛が騒がしく聴こえてくる。
「パパ、疲れた。肩車してよ」
「せっかく足があるんだから、歩きなさい。もうこれ以上、歩けないところまで」
しばらく黙ったまま、二人は歩いた。息子は父の顔をじっと見ている。
「ねえ、ママがいないのもボクがしらべるの?」
「そうだなあ。それは調べなくていい。もう少し、お前の背が伸びた時に、パパが教えてあげよう」
「うん」
程なく父親は息子を担ぎ上げ、肩車をしてやった。
「やった。らくだあ」
「特別だぞ。でも、さっきパパが言ったこと忘れるなよ。自分の足で歩け。倒れるまで歩きなさい。その場所がお前のゴールだ」
息子は、父より少しだけ空に近いところで、小さく頷いたようだった。
父は微かに呟いた。しかし、小さな耳は聴こえが良かった。
「ずいぶんって何?」
「自分で調べなさい」
「うん。じゃあ、いろあせたって何?あつい時にかくあせ?」
「そう。太陽に当たると汗かくだろ。それで色が落ちちゃうんだな」
「色があせないものってあるの?」
「それはないな。みんな色褪せる。いや、もしかしたら、あるかもしれない。でも、それは眼に見えないな」
「ボクにも見えない?」
「うん。お前にも、パパにも見えない。人間には見えない」
「パパ、何でうちにはママがいないの?」
「知らない」
息子はうつむき、会話は途切れた。いつしか二人は古びた住宅街を抜け、田んぼに挟まれた細い道を、赤く熟して潜もうとしている陽に向かって歩いていた。蝉の求愛が騒がしく聴こえてくる。
「パパ、疲れた。肩車してよ」
「せっかく足があるんだから、歩きなさい。もうこれ以上、歩けないところまで」
しばらく黙ったまま、二人は歩いた。息子は父の顔をじっと見ている。
「ねえ、ママがいないのもボクがしらべるの?」
「そうだなあ。それは調べなくていい。もう少し、お前の背が伸びた時に、パパが教えてあげよう」
「うん」
程なく父親は息子を担ぎ上げ、肩車をしてやった。
「やった。らくだあ」
「特別だぞ。でも、さっきパパが言ったこと忘れるなよ。自分の足で歩け。倒れるまで歩きなさい。その場所がお前のゴールだ」
息子は、父より少しだけ空に近いところで、小さく頷いたようだった。